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第4話
首に残された痕が疼いてその存在を主張する。
あの後は結局体調不良を言い訳に部活には行かなかったため同室の茅原は部屋に帰ってくるなり俺の個室に来て体調を気遣ってくれた。
本当の理由を言えないことを申し訳なく思ったが、あんなこと、思い出したくもない。
翌朝、茅原と朝食を取りに行くと篠宮が食堂の入口に立っていた。
αの中でも特別目を引く存在の篠宮は多くの生徒の憧れでもあり朝から先輩後輩関係なくひっきりなしに声をかけられている。
そんな篠宮は俺に気付くとニコリと微笑んでそれらに断りを入れ、こちらに歩み寄ってきた。
「おはよう、佐伯。今日もかわいいね。」
キラキラするエフェクトでもかけているのかと思うほど輝いた笑みでサラリと言った篠宮。
「……何?」
怪訝そうに眉を寄せた茅原が俺に尋ねるが、説明するにも悩んでしまう。
どう言ったものかと考えていると篠宮が正面に来て、茅原を一瞥した後に困った顔をする。
「ねぇ佐伯。もう学校に来ないでくれないかな?」
「…へ?」
「付き合うことになったって言っても、俺が居ない時佐伯の横に誰かが居るって、嬉しくないんだ。」
篠宮が放った「付き合うことになった」と言うセリフを耳聡く聞いていた周囲が途端にザワリと湧いた。
それらに焦って、篠宮のセリフを訂正しようと顔を上げる。
「付き合ってなん…ぇ…。」
しかし顔を上げたタイミングに合わせるようにして篠宮の手が頬に添えられた。
そして──…
「!?」
人の溢れる食堂を背に唇を重ねてきた篠宮。
青ざめる俺。聞こえてくる有象無象の悲鳴、歓声。目が点になっている茅原。
唇の離れたタイミングで精一杯距離を取ろうとするがいつの間にか腰に回された腕が俺を捕えて放さない。
そして未だ騒ぎ立つ周囲を見て、無かったことにはできないのだと悟る。
「っいき、なり…何を…!」
「…昨日もしたじゃない。」
抗議の声を上げた俺に篠宮は不敵に笑って含みのある言い方をする。
「っ…!!」
とにかく篠宮の腕から脱しようともがいたのとほぼ同時に別方向から腕を引かれ、見ると茅原が少し不機嫌そうに「佐伯放してくんねぇ?」と篠宮に言っていた。
篠宮は黙って茅原を見つめると俺の腰へ回していた腕をそっと外す。
案外あっさり解放してくれるものだとホッと胸をなで下ろしていると篠宮が俺に視線を戻した。
「ねぇ佐伯。部屋も彼とは別にしよう?」
「…。」
もう篠宮が何を言っているのか、よく理解が出来ない。
黙り込む俺を見て篠宮は息を吐いた。
「…仕方ないな。じゃあ友達は…まぁ許すけど、あまり距離が近いと俺も我慢出来なくなっちゃうから。」
篠宮は最後に「覚えておいてね。」と付け足すと俺の頬にキスをしてきて、それを見た茅原は今度こそ強く俺の手を引いてその場を離れさせた。
篠宮はまた溜め息を吐いて困ったように俺たちを見ていたが、追ってくるようなことはしなかった。
そして味も分からないような状態でとにかく何かを腹に収めようと朝食を取る。
きっと茅原も聞きたいことは山ほどあるに違いないのに、ここで話せば良い観衆のネタにされてしまうとわかっているからか不機嫌ながらも先程のことは話題にしなかった。
だが朝食を取り食堂を後にする頃には噂は既に学園中を駆け巡っていたようで、食堂同様、刺すような視線があちこちから向けられた。
その中には嫉妬の感情が多かったように思う。
「はぁ…。」
1つ溜め息。
俺の静かな日常が遠のいていく音が至る所から聞こえてきていた。
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