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第2話
始まりは…きっとあの時。
学園で最も人気があると言われるα、篠宮が俺に告白してきた時だ。
いや、あれは告白でもなんでもない…。
同室で同じ陸上部の茅原が先に部活に行ってしまったその日、俺は日直だったため誰もいなくなった教室で日誌を書いていたのだが、カタン、と入口から聞こえた音に反応し顔を上げるとそこに篠宮が立っていた。
α然とした高身長に小さな顔、その中に収められた美しいパーツはこれまた絶妙な位置に配され誰もが見惚れる麗しい顔を作り出していた。
加えて頭も良いというのだからつくづくαというのは得な生き物だ。
同じクラスであるものの話したことなど片手で数えるほどしかない彼。
なぜ彼がここに来たのか分からず問いかけると彼は一言「佐伯…。」と俺の名を呟きニコリと微笑んだ。
それはとても綺麗な、まるで絵画のような笑みだったのに俺の背には、ゾクリと何か嫌なものが走った。
この時、もっと早く直感に従い動けていたら、何かが変わっていただろうか……。
だがこの時の俺は当然未来など知るはずもなくて、感じた恐怖を「篠宮、俺の名前覚えてたんだ。」とか呑気なことを考えて誤魔化していた。
そして目の前に来た篠宮が俺を見下ろす。
「佐伯って今、彼氏いるの?」
そんな話をする程親しくもない篠宮から出た突然の質問に「え?これってもしかして…。」なんて思ったけどβの俺がαに選ばれるなんてありえないと思ったから「いないけど…なんで?」と質問と一緒に返す。
というか…聞いてくる単語が「彼氏」というあたり、さすがαだ。
β男性の中にもΩ男性と結婚し子を成す人はいるがβではΩとは番になれないためその数は極端に少ない。そのためβ男性のほとんどが恋愛対象として女性を選んでいた。かく言う俺もその1人だ。
だが、篠宮は俺の返答を聞いた途端、花が咲いたように顔を綻ばせ俺の右手に自身の手を重ねた。
ドキリと一丁前に鼓動を跳ねさせていると篠宮の顔がいつの間にか目の前まで迫っていて──…
「えっ!?ちょっ…なに…!?」
「なに…って…彼氏いないなら…俺が彼氏でいいよね?」
「!?何言ってんの…!?」
慌てて篠宮の手を払い席を立って距離を取る。
「俺が彼氏じゃ何か不満?」
「不満っていうか…それ以前の問題で…!…ってかそもそも俺はβでΩじゃないから!」
懸命に断りを入れるも篠宮はやはり笑みを崩さない。
「大丈夫。佐伯が不安になるのも分かるけど、そんなこと、気にしなくて良いんだよ。」
じりっ…と篠宮が距離を詰める。
「そんなことって…。」
詰められた分、同じだけ距離を取る。
αはΩを選びΩはαを選ぶ。
それは生物としての本能。
だからβである俺が入れる枠など無いはずなのに、この男はそれを『そんなもの』と言ってのけた。
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