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第6話

「佐伯。お昼に行こう。」 自身を昼食へと誘う全ての声を断り、一直線に俺の席へとやってきた篠宮が相変わらずの美しい笑みで言う。 後ろには篠宮の笑みとは対照的にとても納得ができないことが深く理解できる表情の生徒たち。昨日までは一緒に昼食を取っていた篠宮の急変に、今朝教室にいなかった別クラスの生徒までもが俺の存在を認識したらしく、厳しい視線を送ってくる。 だが俺が居なくなるのを望む篠宮と、一緒になど居たくない…。 「…俺は…茅原と食べるから…。」 どう言えば引き下がってくれるのかなんて分からないままとりあえず断りを入れると、篠宮を囲んでいた生徒たちが猛反発をしてきた。 「あんたねぇ!付き合ってんのにその態度は無いんじゃないの!?篠宮くんからの誘いを断るなら頭くらい下げなさいよ!」 「番だからって篠宮くんより自分の方が上みたいな態度取って最悪!」 別にそんなことは思ってないのだけど…。 終いには俺を取り囲み「土下座しろ!」と騒ぎ出した周りを割って茅原が現れた。 「行くぞ。」 グッと手を引き輪の中から抜け出す茅原について出ていこうとした俺を、やはり彼らも黙って見逃してなんかくれず、1人が俺の肩を掴んで後ろに引き倒した。その勢いで頭を打って床に仰向けに倒れてしまう。 「いっ…!」 「佐伯!」 焦ったように俺を抱き起こした茅原が意識を確認してくるが、そこまでの衝撃ではなかったので笑って答えた。 いや、それよりも……。 「大丈夫?佐伯。俺は君の恋人なんだけど…わかる?」 なんて俺の正面に来て芝居のように聞いてくる篠宮。 先程頭を打つ前のほんの一瞬。少し驚いた顔ながらも楽しそうに笑う篠宮と目が合っていた。引き倒した本人でさえ「あっ!」と声を上げ倒れ込む俺に焦っていたというのに…この状況を本気で喜んでいる様子の篠宮。 「…心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから…俺のことは、もう気にしないで。」 さっきのような周りからの非難はもう浴びたくないから心配してくれたことへの礼と共に出来るだけ棘のない表現ではっきり拒絶を示す。 篠宮を受け入れたって受け入れなくたって批判を浴びるのなら、受け入れない選択の方が俺の精神的にも良かった。 しかし俺の言葉が聞こえなかったのか、そもそも聞く気など無いのか、篠宮は俺の手を取り微笑んだ。 「ねぇ。君の恋人の名前を言って?」 「…。」 なぜこんなにも俺の口から言わせようとするのか。篠宮が言えば周りは信じる。現に周囲は『番である篠宮をぞんざいに扱う男』として俺を認識しているようだ。 黙る俺の頬に触れようとした篠宮の手が見えたところで腕を強く引かれ立たされる。 「無事なら早く食堂行こうぜ。」 「…あ、うん。」 またも茅原に助けられ、今度こそ騒ぐ周囲を背に教室を後にした。 冷たく俺たちを見据える視線には、気付かないまま。

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