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第11話
鎖を外してもらえるのは風呂に入る時だけ。
一応充分な長さを与えられているが、食事をする時もトイレに入る時も寝る時も、四六時中嵌められているものだから当然擦れて傷ができてしまい、篠宮がその度に丁寧に手当をしてくれた。
「俺の番になりたいってきちんとその口で言う気になったら、外してあげるからね。」
そう毎度のように言ってから傷に口付ける篠宮に、好意を抱くような変化はまだ無い。例え従ったとしても、未だにシャツ1枚しか与えられていない俺に与えられる自由とはどれ程のものなのか…。
数日前に俺のどこをそんなに気に入っているのかを尋ねたのだが「全部だよ。だって俺たちは運命で結ばれているじゃない。」と、到底理解できない回答をされただけであった。
もう何日、こんなことを繰り返しているのだろう。
授業に突然来なくなった俺を不審に思い教師がすぐに動いてくれるかと思っていたのだが、俺と違って普段通り学校へと通う篠宮を見る限りそんな様子は感じられない。
俺が自分のものとしてこの部屋に置かせてもらったものは本当に歯ブラシのみで、篠宮にここに連れてこられる直前に着ていた制服のポケットにはスマホも入っていたのだけど、あの日からその2つとも見た覚えがない。
茅原は…俺を探してくれているかな…。
他の人たちが『巻き添えは嫌だ』『篠宮の敵にはなりたくない』と離れていく中で、それでもずっと傍に居てくれた唯一の親友…。実際茅原も嫌がらせの余波を受けていたのに、それでも彼は「気にするな。」と笑ってくれたのだ。
俺が篠宮に従うことを拒んでいたばかりに…。
連絡のつけようもない茅原のことを思い出しながら篠宮が用意して置いていった食事を1人で食べる。
「出来たてを食べさせてあげられなくてごめんね。」と篠宮は申し訳無さそうに言っていたが、きっとここで食べる食事は何を出されてもまともに味なんてしない。
こうして篠宮に振り回されるのも、長くて卒業までの1年半だけだろうと気分を上げていたのだがこの生活は想像以上にキツい。
私物も、すべきことも何一つないこの部屋での時間は退屈で、日中はただ寝て過ごし、夜は寝ている間に何かされては堪らないので眠らないという生活を繰り返していた。
寝る前のベッドでは篠宮が俺を抱えてひたすら愛の言葉を囁きキスをしてくるのだがそれも気持ち悪くて仕方がない。
こんな日々の繰り返しは俺の精神をひどく蝕むものだから、俺はより一層ここから逃げ出したい思いを募らせていた。
だが良い方法がまるで見つからない。
鎖は当然壊せないだろうし、鎖の繋がるデスクは床へと固定されており、そしてデスクの足もまた鉄製だった。風呂に入る時間が唯一自由が与えられる時間であるけれど風呂場に付いた窓は小さく、とても通れそうにない。
何度も逃げ道を探そうとする度に希望が見出せず打ちひしがれる。
一体どうすれば…。
そんなことを考えていると、手に持った金属製のフォークに意識が向いた。
これでデスクを壊せないだろうか…?
脚こそ鉄製であるが、あのデスクは天板部分が木製だったことを思い出し、食べかけていた食事をそのままにデスクへ向かい位置を確認して少し強めにフォークを突き立てる。
木製と言えど強度はあり、凹んだかどうか微妙なくらいの傷しか付けられなかったが、得られた成果としてはそれで充分だった。
時刻はまだ12時半。篠宮が帰ってくるまでは4時間はあるだろう。
続ければきっと、柱の部分のみを机から取り外すことが出来るはずだと思い懸命に腕を振り下ろした。
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