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第12話

ミシミシと音を立てたそれを無理矢理に引っ張て漸く本体から外すことができたのは4時少し手前のこと。 中途半端に壊したことが見つかって監視が厳しくなるのを恐れて、手の皮が剥けてもフォークが折れても、ひたすらに突き立て続けた。 血で滑るので、と手に巻いた枕カバーに付いた血は既に乾いていて、剥がす時に痛みを伴ったがここから出られる嬉しさの方が勝る。 とにかく早く自分の部屋に戻って…もう二度と茅原と別行動をしないようにしよう。学校にもきちんと篠宮が俺を軟禁していたことを伝えて処罰を検討してもらうべきだ。 長い手錠のように、俺の足首に付いたそれと同じ形をした反対側を壊したばかりの脚の上部から外して、これからの行動をあれこれと考えながら部屋を出ようと玄関へ向かう。 早く。篠宮が帰ってくる前に。 だが部屋を出たところで篠宮の声が聞こえて、思わず扉を閉めてしまった。 もう帰ってくるなんて! 扉を背にバクバクとうるさいくらいに鼓動を伝える胸に手を当てて握り締める。 別の場所から出なければ、と力の入らない足を1度叩いて立ち上がろうとした時、扉の向こうから怒鳴り合うような声が微かに聞こえてきた。 …誰かと言い合いしてる…? 気になって少しだけ扉を開け聞き耳を立てると耳に飛び込んできたのは怒りの色を濃く混ぜた哮りだった。 「君もしつこいなぁ。佐伯は好きで俺の部屋にいるんだからもう俺たちに関わるのは止めてくれるかな。」 「嘘つくんじゃねえ!それならなんで佐伯と2週間も連絡が取れねぇんだよ!お前が行動を制限してるって事じゃねえのか!?」 懐かしい茅原の声が耳に入ってきた瞬間全身が震えた。 茅原が、来てくれてる! そう思った時には、扉を開け飛び出していた。 「!佐伯!!」 靴も履かずに駆けてきた俺に気付いて茅原が呼びかける。同時に俺と茅原の間に立っていた篠宮がこちらを向き、勢いのまま篠宮の横を走り抜けようとした俺の腕を掴んだ。 突然逆方向へと掛かった強い力に腕が外れそうなくらい軋む。 「…佐伯……。なにしてるの?」 瞬きもせず俺の顔を見て独り言のように呟いた篠宮の手を必死に外そうとするが、そうする度にギリギリと更に力を込められ、このまま腕を折られてしまうのではと背筋を冷や汗が伝う。 だがそこで俺を見つめていた篠宮の顔が突然吹き飛んだ。 茅原が思いきり篠宮の顔を殴ったのだ。 「行け!佐伯!!」 呆気に取られてしまったが、茅原の言葉にハッとして走り出す。 とにかく自分の部屋へ…、いや、俺が逃げ出したことはもうこの瞬間にバレている。万が一篠宮の方が茅原より先に俺たちの部屋に来てしまったらどうする?そうすれば結局またここに逆戻りだ。シャツ1枚の格好で行くのは物凄く気が引けるが、学校まで行って教師の誰かに助けを求めるしかない。 廊下を走る間も茅原と篠宮が怒鳴り合う声は聞こえていて、漸く着いたエレベーターホールでエレベーターが他の階層へと向かい動いているのを見た俺は、ボタンを押すより先に横に見えた階段を駆け下りた。

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