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第15話

「『首のない烏の死骸を詰めておいて。』とか言うからいよいよこれからが本番だと思って期待してやったのに…、やった翌日から『君たちの仕事はこれで終わりだよ。』だって…。意味わかんなくない?」 親しい友人に愚痴をこぼすような口調でそう俺に語りだした津川先輩。嫌がらせは津川先輩が先導して行っていると聞いていたが、津川先輩に更に指示する者が居たということだろうか。その上、津川先輩が慕う人物…。 そうであるとすれば、それに該当する人物を、俺は1人しか知らない。 「ねぇ、聞いてんの?」 返事をしない事に苛立ったのか、腕を後ろで抑えられ膝をついていた俺の腹を津川先輩が思いきり蹴る。 「う"っ…。」 腹の内容物が少し戻ってきて口端から溢れた。それを見て「きったね。コイツまた吐いてんじゃん。」と津川先輩の横に控えていた女生徒の1人が笑う。 「烏見た時も吐いたんだってね。なのに後処理は他の人にさせて?そっから自分は王子様とお城に篭っちゃったんですか?お姫様ですね〜。」 津川先輩が酷く憎しみを込めた目で俺を見下ろしながら言う。 こんな位置、望んでなっているのではないと言うのに。 何も言わない俺の顎を蹴り上げた後、彼は先程俺の胃からせり上がってきたものの粒が靴に付いたことに腹を立てたらしく今度は俺の髪を掴んで床に這わせると靴底で頬を踏みつけてきた。 「おい津川。あんまやんなよ。見れない顔にされると萎える。」 「あぁ、そうだね。ごめんごめん。」 後ろの男子生徒に咎められた津川先輩は大人しく俺の顔を踏みつけるのを止めると、床に横たわったままの俺の髪を掻き分けて視線を合わせてくる。 「お前まだ篠宮と番にはなってないんだってね。篠宮、発情期外しちゃったんだ。」 そう言うと津川先輩は少しおかしそうに笑う。 「ね、この中で好きなの選ばせてあげる。嬉しいよね。番候補が4人もいるなんて。」 口元だけを(いびつ)(ゆが)めて言った津川先輩。 何の話をしている?番?誰の?……俺の…? 「おいおい皆で()()すんじゃねーの?」 「そうだけどさー、最終的に番になってもらわなきゃ困るんだって。頼むよ。昨日ヤらしてあげたでしょ。」 津川先輩が「お願〜い。」と猫なで声で言うとαは「じゃあ後でじゃんけんで負けた奴な。」とかふざけたことを言い出す。 俺がβであることは藤本に伝えていたはずだが、と思い先程から声の聞こえなかった藤本を探すように体を少し起こして辺りを見ると、壁の影でこちらを伺う藤本と目が合った。 「藤も…。」 言いかけたところでグイッと髪を引かれ津川先輩に向き直させられる。 「お前。孕むまでここから出らんないから。」 言われた言葉に血の気が引き、指先がどんどんと冷えていくのを感じた。 「お、俺は…Ωじゃなくてβで…。」 「はぁ?何その嘘。つまんな。」 言いながら更に俺を殴ると津川先輩は「じゃあよろしくね。」と言って部屋を出て行った。 出ていく直前の津川先輩にポンッと肩を叩かれた藤本が、服を剥がされていく俺を、ただ無言で見つめていた。

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