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第18話

「っ!」 反射のように反り返り、尻餅をつく。 酷使されすぎた後の尻にそれは強烈な一撃で床の上で悶絶する俺に、目の前にやってきた藤本が腕の拘束を解き「大丈夫?」と声をかけてきた。 何を今更…と憤り見つめると藤本は、先程男4人に渡した飲料に睡眠薬を混ぜておいたのだと明かしてきた。 「僕の部屋に佐伯くんを匿ってるのがバレちゃって、『佐伯くんを渡さないと僕を()()す』って言われて…怖くて…。」 そう涙を流しながら弁明してくる藤本にそうだったのかと納得する。 そうであれば…被害にあったのが俺で良かった。藤本はΩだから俺と違って妊娠してしまう可能性もあるし、発情中に首を噛まれでもしたら望まない番に一生苦しむことになっていたかもしれない。 「…ありがとう、藤本。俺は大丈夫だから…。」 泣き止まない藤本に助けてくれたことへの礼を言って宥めると藤本は顔を上げて「もう佐伯くんはこの学園自体から逃げた方が良い。」と言ってきた。 それに対し素直に頷く。 きっともう、俺の居場所はここには無い。 「とりあえず僕の部屋に行こう。逃げるのに必要だと思うものを多少はまとめてあるんだ。」 そう言って俺の手を引いた藤本の向こうにあった玄関扉が突然に開く。 バッと振り返るとそこには美しい顔を歪めて怒りを顕にする津川先輩の姿があった。 「藤本ぉ…。どういうこと?」 昨日聞いた艶のある声とはまるで違う、唸るような低い声。 「お前が部屋入ったっつーから怪しいと思って来てみたら…何してくれてんの?」 そう言って津川先輩は廊下奥で倒れている男を一瞥して更に眉間の皺を濃くし、部屋の中に入ってくる。 どうすれば良いんだとひたすらに惑う俺の横から藤本が急に飛び出して津川先輩に向かって腕を振った。その手にはキラリと鋭く光るナイフ。それに驚き仰け反った津川先輩は、そのまま玄関横の洗面所へと追いやられていく。 「佐伯くん!早く!さっき言ってた場所へ!」 そう津川先輩にナイフを向けたまま叫んだ藤本の背中に、未だ姿を表さないという茅原がダブって見えてその場から離れることを躊躇してしまう。 もしかしたら…藤本もこのまま…。 「何してんの!早く行って!!」 焦ったように叫んだ藤本の言葉に、それでも俺は逃げるしかないのだと走り出した。 後ろから「藤本ぉ!殺すぞお前ぇ!!」と津川先輩の怒り狂った声が聞こえたが、振り切るように懸命に走る。 「っは…は…。」 体のあちこちが痛い。熱があるみたいにダルい。 赤い跡を残す手首を横目に見ながらそれでも立ち止まったら彼が来てしまうと思い懸命に足を進めた。

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