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恋とはどんなものかしら[3]
翌日の放課後いつものように図書室にいると、何故か昨日出会った会長が現れた。
「あぁ、いたな。根津歩」
「は?会長?何の用ですか?」
今までここで見かけたこともないし、僕を探していたような発言が聞こえたが、一体何の用があると言うのか。
昨日の件ならあれはもう生徒会といえど生徒の手に負える話ではない。先生方に何か聞かれるならわかるが、生徒会長に探される理由などないはずだ。
会長のこちらをじっと観察するような目線に怯えて、最近前髪も上げて前を向けるようになっていた悠が久々に俯いてひっついてくる。悠がそうなるのも無理はないという威圧的なオーラだ。
「悠、僕ちょっと向こうでこの人と話してくるから、ここで待ってて。目の届かない所には行かないから。わかった?」
コクリと頷いた悠の頭を安心させるように撫でてから、場所を変えるよう会長に促す。会長は応じてはくれたのの悠を見る目は不満げだった。
「あれがお前のお姫様とやらか。つまんねぇな」
「何ですか、それ。」
「お姫様のお守りが大変そうなお母さん、お前の評判だ」
「知りませんよ、そんなん」
「少し調べただけだが大体そんなもんだったぞ?」
「何で僕のことなんて調べる必要があるんですか」
「お前、放課後暇なんだろ」
「は?」
「昨日言ってたじゃねぇか」
まあ先生とそんな会話をした記憶はあるけど。それとこれと何の関係がと思っていたら、目の前にポイっと資料の束とノートパソコンが差し出される。
「何ですか?これ」
「会議の議事録だ」
「はぁ……」
「一枚にまとめておけ」
「ハイ?」
「だから読んで要約して一枚にまとめて誰もが読みやすいようにしておけと言っている。ここまで説明しないと理解できない無能か?」
「いや、それはわかりますよ。生憎無能ではないので。でも何故僕がやるんですか?これ生徒会の仕事ですよね」
「体育祭も近いからな。放課後暇している人材を見つけたから使うだけだか?」
「いや、僕の意思確認は?」
「別に能無しで出来ませんというのなら、仕方ない」
「そんなこと言ってないじゃないですか」
「やれるというならやってみせろよ」
「~っ。わかりました。やればいいんでしょう?やれば」
「大人しくはじめから頷いておけば可愛げがあるものを。パソコンはこれ使え。持って帰ってもいいが置いて帰るつもりなら生徒会室まで返しに来い。差してあるUSBメモリだけ持って帰ってもいい。明日の放課後までに生徒会室に届けに来い」
言いたいだけ言って会長は去っていった。
思わずため息をつく。色々と途轍もなく面倒臭い。
まんまと乗せられた気がする。別に負けず嫌いでもないはずなのに、あの人に馬鹿にされたような顔をされると何故だか無闇に反発してしまった。
「歩ー。大丈夫?どうしたの?何なのアイツ」
不安そうにチラチラこちらを見ていた悠が、会長が出ていったのを見て飛んでくる。
「いや、なんか仕事押し付けられただけ」
「仕事?」
「あぁ、あの人生徒会長だよ」
「へぇー。でもなんで歩が?」
それは僕も聞きたい。
「まあ押し付けられたとはいえやるって言っちゃったし、これくらい出来ない無能と思われるのもムカつくから、サクッと終わらすよ」
明日の放課後っていう微妙に余裕のある期限もなんか癪に触り、躍起になって作業したらその日の内に終わってしまった。
悠が馬場と一緒に下校するのを見届けてから、預かった議事録とノートパソコンを持って生徒会室へ向かう。
ノックして、生徒会室に入ると会長と他数名がまだ忙しそうに働いていた。体育祭前で忙しいのは本当らしい。
「会長、終わりましたけど」
「あぁ、やっぱり今日中に仕上げてきたか」
「は?」
会長は、僕が渡したUSBメモリをその場で開いて確認する。
「これくらいの仕事量、本当に明日の放課後までかかるようだったら使えねぇなと思ったが、これなら問題なさそうだ」
「はい?」
「じゃ、次これな」
「はあ?」
「あ、エクセル苦手?仕方ねぇな。こっちでもいいけど」
「いや、そうじゃなくてですね。なんでそもそも僕がやる前提で話が進むんですか。そんなに人手足りてないんですか?それこそそちらの能力が足りてないんじゃないですか?」
「今の人手でおそらく問題なく進んではいる。しかし使えるもんを使って何が悪い」
「いや、そもそも僕にそんな義務も権利もないのですが」
「義務はともかく権利って何だ?」
「一生徒が見てはいけない資料とかあるでしょう?」
「仕事を采配するのは俺だ。俺が問題ないと思ったものしか渡していない。それから義務についてだが、この学校の一生徒な時点で自治に関わる義務は発生している」
「いや、それほぼ屁理屈ですよね。そんな調子で道行く生徒全員に仕事を割り振ってるわけでもなさそうですもんね」
「まあ端的に言うと、俺がお前を気に入ったからだな。諦めてちょっと付き合え。どうせ放課後は暇なんだろ?その時、図書室でやれる範囲しか渡さねぇから。ま、また明日昼にでもパソコンと諸々を取りに来い」
何なんだこの天上天下唯我独尊、俺様何様龍ヶ崎様は。
前言撤回。この人に気に入られたくなかったと、心の底から今は思う。
それから何故か毎日、昼休みに今日の仕事とパソコンを取りに行き、下校前には終えて、返しに行くというサイクルで仕事をこなす羽目になった。
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