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「……」  もう自分が転けて倒れるところまで一瞬に考えたから、来るだろう痛みと衝撃が来ないことに驚いて、茫然とする。  腹に回された腕は、俺が想定していた弟のもの以上に力強くて安定感がある。  胴体と下半身はヤスと密着していて、どうやらすれ違う瞬間に、反射的に引き寄せて助けてくれたみたいだった。  驚いて顔を上げると、左手に食器を持ち、右手だけで俺を支える弟は、俺と同じようにびっくりした顔をしている。  さすがに少しは目が覚めたのか、それは大きく見開かれていて。 「……ふざけんな、危ねぇだろ」  けれど、めちゃくちゃ声は低い。  驚いた表情もすぐにまた、いや、さらに、機嫌が悪そうに歪んだ。  ついでに盛大な舌打ちもかまされる。  目と鼻の先に、俺を見下ろすヤスの呆れ顔。もうかなりの仏頂面。  面倒くさいのと、呆れたのと、全部混ざった、ちょっと怖い顔。  二重の切れ長な目が細められて、苛立ったように眉の皺がさっきより濃くなる。 ……ていうか、なんだ、この、変な感じ。 「……おい、何惚けてんの。コーヒーほとんど溢してますけど」 「……え? うわ、うわー! 最悪、朝っぱらから……」 「それはこっちの台詞」  ヤスは、はあー……、と深く長い溜め息をついて、まだ中途半端に前屈みだった俺の身体を労るように優しく離す。  とにかく腰が重くて痛かったから、その気遣いが有り難くて、さりげない優しさに気付いた俺はちょっと胸がジーンとした。  何だかんだ言ってもやっぱり出来た弟だよ、お前は。  なんて感激していると、あっという間に、すっと身体が離れていく。 「何やってんだか……」

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