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第5話

 どこをどう走ったかわからない。気付くと周りは真っ暗になっていて、家の前にいた。両親は仕事で毎日遅くまで帰らない。なのに明かりが点いている。律が先に帰ってきているのだ。  どれだけ心を乱しているのだろう。律に好きな女がいると知ったくらいで。いずれはこうなっていたのだ。今更恐れる必要などない。律を縛りつける。決して離さない。気持ちはそう決まっていたはずではなかったか。だからいつものように、尊大に振る舞う。律はこの足がある限り逆らえない。そう言い聞かせてドアを開いた。 「……綾」  靴を履こうとしている律とぶつかる。 「……どこ行くの」  声が震えている。しっかりしろ、と自分を叱る。 「いつも綾は先に帰ってきてるのに、今日はいないから……心配で」 「心配?」  欲しいのはそんな言葉じゃない。辟易して綾はそのまま通り過ぎようとした。すると強く腕を掴まれた。 「綾? どうした? こんな汗かいて……」 「……律」 「なにか拭くもの持ってくるから」 「律。脱げよ」  その言葉に律は固まる。ここしばらくなにも言ってこなかったことで気を抜いていたのだろう。そうはさせるものか、と綾は低い声で命じた。 「早く脱げ」 「綾、俺は……」 「僕になにか言える権利なんて、おまえにはない!」  思い切り突き飛ばすと律は尻もちをついた。そのままジーンズのファスナーを下ろす。手早く律自身を取り出すと跪いて口内に含んだ。 「綾、こんなところで……!」 「んんっ……」  すぐに脈打ち、硬くなっていくのを感じてほっとする。まだ綾を受け入れるつもりだ。本当に嫌になってしまったら勃つものか、と舌と唇を使って律に音を上げさせる。 「……綾」  玄関の鍵を開けたまま、綾は立ち上がり見せつけるように制服を脱ぎ捨てた。律は黙ってそれを見つめている。そのままでいて。いつもそう願う。 ──誰も見ないで。僕だけを見て。僕だけを愛してほしい。  殊勝な心を隠すように綾は命じた。 「脱げよ。おまえも」  舌で指を濡らし、ひくつく小さな蕾へと忍ばせる。自分で馴らしながら前を扱いていると視線を外さずに律が服を脱ぎ始めた。もう抗えないと諦めたのだろう。全裸になると三和土へと座った。その上に乗りずぶずぶと猛り立った律を受け入れる。最初はいつも苦しくて声が出てしまう。震えながら律の肩に爪を立て、腰を落とした。すべて受け入れてしまうとその温かさに安心する。たとえ偽りの行為であったとしてもその熱に感じてしまう。中腰で出し入れすると律の呼吸も乱れてきた。締め付けるように身体を捩ると小さな声が聞こえる。 「……綾……」  絶対に律は綾を抱きしめてはくれない。ただ身体を差し出して、精一杯快楽に耐えているだけ。それが哀しくていつも涙が滲む。悔しくて綾は目をぎゅっと瞑った。 「早く出せよ! 僕の中に!」 「綾……」  熱を放出した後、いつも律は罰の悪い顔をする。早くその顔が見たくて、綾は身体を揺さぶった。  好きな相手がいてもいい。いいなりになればそれでいい。もうそれでいい。  自棄になって綾は腰を振り続けた。

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