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第3話 還る‥
飛鳥井の家に帰ると…応接間には…
父や母…そして、源右衛門に瑛太…
榊 清四郎、真矢、笙が…心配して待っていた
その中に…戸浪海里の姿もあり…
康太は…応接間に入るなり…泣き出した
瑛太が…堪らず…康太を抱き締めた
腕に抱き上げ…ソファーに座ると…清四郎がその頭を撫でた…
「康太…どうした?何があった?」
瑛太が…心配して…慰める
清四郎は「伊織に虐められましたか?」と聞くと…康太は首をふった
「伊織は、オレを傷付けねぇ…伊織…伊織…」と榊原を呼び…
榊原に、腕を伸ばした
…榊原は、瑛太の腕から康太を渡してもらうと腕に抱いた
そして、ソファーに座ると…
「話しは…三木と兵藤から聞いて下さい!」と言い放った
「僕達よりも、詳しく話してくれますので!」
と言う嫌みも付け加えるのを忘れずに…
一生達や神野と小鳥遊がソファーに座ると…
三木と兵藤もソファーに腰を下ろし
全員に…今までの経緯を総て話した
そして、今回の記者会見では…血を吐いたと聞いて
…居ても立ってもいられなかった安曇に頼まれ泣き着かれ…手を貸すことしか出来なかった…と
三木は総理に頼まれて動いた事を伝えた
三木は「俺はしがない議員ですので…総理からの頼みを無下には出来ません…
そんな恐ろしい事をすれば…明日の議員の席はなくなります…」と溢した
兵藤も父親から頼まれれば…断れず…言うことを聞いた…と伝えた
兵藤は「俺は…親父に言われれば…断れねぇ…。
親父は…怖くはねぇけど……
美緒が噛んでるからな…断れなかった…
解ってくれ…康太…!
美緒に逆らって…小遣いが削減されるのは避けたかった…セコくてすまねぇ!」
と事情を話して…康太に謝った
康太は…榊原の胸の中で…泣き疲れ…眠りに着いていた…
榊原に跨がり…抱き着き…肩口に顔を埋め…寝息を立てていた
榊原は静かに…車の中で…言った康太の言葉を話した
「康太は車の中で…幼くして修行に出されて…淋しかった…と訴えてました
『オレも淋しかったんだよ…暖めてくれる人間に…縋ったんだよ!
だから、返される恩なんて…ねぇんだよ!
オレも…救われた…息子の身代わりだと解っていても…愛されて…優しく撫でられ…救われた…
オレは…あの人の優しさを利用していたんだ…最低だろ?』と…苦しかった修行時代に…求めた…温もりだと…言いました
だから、恩を返される筋合いはない…と。
そして、現 総理の立場を…思いやって…いました!
康太は…ずっと緊張していたので…緊張の糸が切れたんです…。
体調も…本調子ではないので…好きな沢庵も禁止しました…」
榊原の言葉に…源右衛門は、作った罪に…胸を痛めた
清四郎は「好きな沢庵も食べれないのですか…可哀想に…」と呟いた
真矢は「何故?食べさせてあげれないのですか?」と榊原に訴えた
「康太は今…内臓の機能が落ちているので…消化しないのです…。
お腹が張って…苦しくて、ベッドの上で…痛みに転がってます…。
その都度…下剤を飲ませ…出してる有り様です…。
浣腸は嫌だと言うので…かなり強い下剤を飲ませて…出しています
そんな状態ですからね…好きな沢庵も…禁止するしかないのです…」
どれだけの無理をして…その体を動かし…
闘って来たのか…
血を吐き…苦しみながらも…
その歩みは止まらない…
そして、その康太の総てを支えるのが…榊原伊織なのだ…
「治療は始まったばかりです…
無理は出来ないのですが…康太ですからね…
見張っていないと…本当に怖いです…」
瑛太は「伊織…本当に君には…頭が下がります!
康太の管理は総て君に任せっきりで申し訳ない…」と謝った
「義兄さん、気にしないで下さい
康太を誰かに…管理させる気は微塵もないので、逆に気を使われたくないです!」
榊原が言い切ると…清四郎が
「これ…伊織…!」とたしなめた
榊原は康太を抱き上げたまま立ち上がると
「一生、着替えて来ます。
隼人も着替えさせて下さい」
榊原に言われ、一生は「了解!」と返答をした
その後に「慎一、康太の食事をお願いします…。
プリンも忘れずに…お願いしますね」
と、慎一に頼んだ
すると慎一は「全員の食事は…デリバリで良いのですね!
京香デリバリお願いします!
俺は康太の食事の支度をして来ます!」と、立ち上がり動き出した
兵藤と三木は「俺達は還るわ…」と遠慮すると
「康太が寝ています!
康太に何も言わずに帰るのは…多分…誰も許しませんよ
着替えて来るまで待っていなさい!」と告げた
兵藤と三木が、押し留まると…
榊原は康太を抱き上げたまま…自室へと着替えに行った
こう言っておけば…誰も…二人を帰しはしないだろうから…
寝室に連れて行き、スーツを脱がし…私服を着せると…康太は目を醒ました
「オレ…寝てた?」
「ええ。泣き疲れて…寝てましたよ?」
「……何か……疲れた…最近、腹一杯に食えねぇから…体が疲れやすくていけねぇ!」
「応接間に行けば慎一が食事の準備をしてくれてます!プリンも着いてますよ!」
「三木と兵藤は帰ったのかよ?」
「まだですよ!
康太が目が醒める前に…帰す訳にはいかないでしょ?」
「流石!解ってるやん!
オレに逢わずに帰れば…アイツ等は罪悪感で…避けるかんな!」
「行きますか?」
榊原も私服に着替え、康太を抱き上げ、寝室を後にする
応接間に入ると…デリバリが届いていた
康太の何時も座る席には…慎一が用意がした夕飯が置いてあった
康太が…ソファーに座ると…兵藤と三木は…立ち上がった
「康太、今夜は帰るわ…」と兵藤が言う
「また、今度奢るわ…」と三木が言う
「座れよ…皆食えねぇじゃん!
出された食いもんは食って行け!
飛鳥井の人間も榊原の家族も戸浪の若旦那も…
お前達の事を…理解してるさ!気にすんな!」
康太に言われ…二人はソファーに座った
「三木、貸しな!」
「解ってるよ!スーツだろうが…モンハンだろうが…買えるものなら買ってやるがな…」
「おめぇはオレのパトロンかよ…」
「お前の財布と呼んでくれ!」
康太は笑った
「瑛兄、飛鳥井の食堂と託児所の認可を取って来たのは、三木繁雄だかんな!」
「え…?」
「この男は…叩き上げの政治家で…使える男だ…。オレはこの男は切らねぇ…この先もこの男の為に…動く!
それが繁雄の父 三木敦夫と交わした約束だかんな」
と、嗤い、三木の瞳を貫いた…
「さてと、食うもんよー!
繁雄も、貴史も食え!」
康太は…お粥を哀しそうに…スプーンで啜った
兵藤は「食え!って言われてもな…お前がお粥で…俺等が…食える訳ねぇじゃんか!」と怒った
榊原が「康太は…無理して食べれば…吐いて…苦しむのです!
気にせずに食べなさい!」と兵藤を押し留めた…
清四郎が息子に変わって…三木に酒を勧めた
一生が兵藤に「食え!」とお皿に寿司を取り分けた
三木は仕方なく…寿司を食べ、勧められるお酒を飲んだ
康太は榊原にプリンを剥いて貰い…嬉しそうに食べていた
「神野、明日はオレは病院の後、弥勒の所へ行くだけだから、蒼太を連れて来い!
専属の話もあるしな…決めねぇと…な」
「解りました!何時頃伺ったら宜しいですか?」
「午後5時には帰ってるかな?伊織…」
と康太は榊原に問い掛けた
榊原は、「そうですね…。それ位に帰ると思いますが、少し遅れても…待っててくれますよね?」と半分脅して…神野に言った
「待ちますよ…例え…一日待てと言われても…忠犬並みに待ち続けて見せますとも!」
ヤケクソで言われて…康太は笑った
プリンをちびちび食べつつ康太は
「三木と神野って面識ねぇのかよ?」と問い掛けた
神野は「ないですよ!」と返した
「学年で言うと重ならねぇか?」
瑛太や神野は…29歳だった
三木繁雄は、それより二つ上だから31歳だ
神野は「だから、恐れ多いって言ったでしょ?
お顔は…拝見してましたが…
話した事は一度もないです!
それより…康太は…何処で三木さんと?」と逆に問い掛けた
「オレか?オレは繁雄の父 三木敦夫と懇意にしていたかんな、オレが3つの時には繁雄と顔合わせはしていた
親しくなったのは小学校に上がって直ぐの頃だ
貴史と…鳴海と一緒に三木の家に良く行って遊んだ…。
貴史が…俺を切った後も…オレを気にして鳴海は声をかけてくれて…今も時々…鳴海とは…食事するな…
切れねぇ付き合いってあるんだよ…
絶対の人間……それが、兵藤鳴海…貴史の叔父になる人だ…。」
康太が懐かしそうに言うと…瑛太が
「桜林の貴婦人…懐かしいですね…」と呟いた
康太は「繁雄は…神野か瑛太は知ってるのかよ?」と問い掛けた
「知ってますよ!
群を抜いて存在感の在る新入生を忘れる筈ないでしょ?
しかも、康太の兄だと言われれば…知ってはいます!
ですが、彼に近付くには…鉄壁の三銃士を越えねば行けないので…俺は…話もしなかったな…」と懐かしげに話した
「鉄壁の三銃士?あんだよ?それは?」
「佐野春彦、脇田和正、田代成一
彼等が鉄壁の三銃士で、その奥にいるのが彼等の策士、伝説のフィクサー飛鳥井瑛太…!
俺は…口さえ聞いちゃいねぇよ!」
康太は三木におぶさり首に腕を回した
「三木、また鳴海と貴史と食事に行こうな!」
と擦り擦りした
「良いな…それ!」
「三木…今日は…悪かった…」
「今更だろ…」
「帰るなら一生が送って行く…
三木の車は慎一が運転してってやる…」
康太が言うと、戸浪が「私が送っていきましょうか?」と告げた
「なら、送って貰います!
康太、車は明日にでも取りに来るわ!
置かせといて!」
「良いぞ…」
康太が三木の背中から退くと…
戸浪は…康太を抱き締めた…
「明日は予定があるなら…明後日にでも…食事をしませんか?」
と、康太に予約を入れる
「良いぞ、病院の後に電話を入れるよ!」
「体に気を付けて…元気な貴方を見れる日を…祈っています」
「若旦那……会食の時…万里を連れて来い…」
「解りました…お願いします!」
戸浪は…康太を離すと…深々と頭を下げた
そして、三木を連れて…帰っていった
兵藤も帰ると言い、康太は送っていくと言った
「来なくて良い…裏だろ?」
「嫌…お前には文句があんだよ!」
「やっぱし…そう来たか…聞いてやるから許せ…。
金で買えるもんなら…買ってやっからさ…。」
「おめぇもオレのパトロンかよ…」
「良いなそれ…そのうちお小遣いやっからな♪」
「なら、貴史の小遣いカットだな!
美緒に言っとこ…」
「ちょ!それは勘弁…」
「さぁ、さくさく帰るぞ!」
康太は兵藤を急かして…飛鳥井の家を出て行った
「んとに、おめぇは曲者だわ!」
康太がボヤく…
兵藤は笑って…誤魔化した
「許せ…康太…」
「当分…許してやんねぇ…」
「なら、許してくれるまで…お前んちに謝りに行くわ…。
それでダメなら鳴海に泣き付くし…」
と、優しく康太を抱き締めた
「……そんな事されたら…許してまうやん…」
「それを狙ってに決まってるだろ?」
「おめぇは本当にズっこい…」
「文句なら幾らでも聞いてやる…
おめぇが無理しねぇなら、聞いてやっから…許せ…」
旋毛に…キスを落とされ…
「許してやるけど…貸しな!
ならな、貴史…また明日な!」
「おう!またな!」
兵藤は、康太を抱き締めている手を…離した
「疲れてんだろ?寝ちまえよ!また明日な!」
兵藤は門を開け…自分ちへと入っていった
康太はため息を着いて…引き返すと…榊原が待っていた
「伊織…待ってたのか?」
「ついつい心配でね…」
「貴史が?」
「体が…ですよ!」
「伊織…眠い…」
「良いですよ…眠りなさい…
抱き締めていてあげるから、家に帰ったら寝ると良いです」
「伊織…」
「何ですか?」
「愛してる…」
「僕も愛してますよ!」
康太は嬉しそうに…笑うと…榊原の腕に抱き着いた
飛鳥井の家に着くと…康太は寝ると言った
一生に後は宜しくと頼み…康太と榊原は自室へと戻って言った
服を脱いで…ベッドの中に…入り込むと…康太は直ぐに眠りへと落ちた
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