13 / 72
第13話 改革と謂う名の戦
朝…6時前に康太を起こし、浴室に行き体を洗って…榊原の用意してくれた服に着替えた
「なぁ、伊織…あんまし時間ねぇぞ…」
「起きてますかね…連絡してみます…」
電話を入れようと思っていたら、ドアがノックされた
榊原が開けると、清四郎達が立っていた
真矢が「朝食に行きますか?」と優しく問い掛けた
「母さん、今電話しようと思っていました。」
清四郎が「なら、タイミングが良かったですね。」と笑顔で榊原を見た
笙が「康太は?」と問い掛けると榊原は、起きてますよ。と答えた
「伊織、忘れ物ねぇか確かめろよ」
康太が出て来て榊原に言うと、榊原は部屋に入って確認をし荷物を持った
「では行きますか?康太は会社に行き仕事をせねばならないので…時間があまりありません。」
怠そうな康太が…スタスタと歩く
榊原は、康太の少し後ろを…歩いて行く
二人は外では決して並ばない…
一階のラウンジ脇にあるレストランに入って行くと…康太は直ぐにPCを取り出しチェックにかかった。
そして…固まったかの様にPCの画面を凝視して…目を離さなかった
そして榊原に手を差し出し携帯を受け取ると、「電話を入れるわ」とレストランを出ていった
清四郎は、「康太は忙しそうですね…」と淋しそうに…言葉を溢した…
「今、飛鳥井は改革の真っ只中ですからね…
体調を崩して、動けなかったし、悠太が暴行を受け…学校に示談の話に行っていたので…
皺寄せが来てます…」
「え!悠太が…暴行を受けた…?
何時ですか?知りませんでした…」真矢は…御見舞いにも行かずにご免なさいね…と謝った
「………御見舞いにも来られたら…逆に悠太が…困ります…。
暴行と言っても…性的な…意味合いを含みますから…
しかも…飛鳥井康太の弟だから…受けた暴行ですので…康太が動きました」
清四郎も真矢も笙も…言葉がなかった…
康太は戻って来ると、PCをしまった
そして朝食を揺ったりと取り、怠そうに…髪を掻き上げた
「誰に電話を入れたのですか?」
笙は、お前は誰に電話かイチイチとチェックする男なのか~と目眩を覚えた
「聡一郎だ。昨日送っといた映像がねぇとな、動いてもバカを見るだけだろ?」
「そうですね…では、行きますか?」
「おう!行くとするか!
では、清四郎さん、真矢さん、笙、今度ゆっくり食事しましょう!」
榊原は立ち上がると、伝票に手を伸ばした
するとその寸前で…真矢がそれを隠した
「子供なら奢られておきなさい!
ついでに、貴方達の部屋も、支払っておいたから…ね。」
康太は「真矢さん…」と名を呼んだ
「康太、今週一度、泊まりに来てね。
それで許してあげるわ。
本当ならゆっくり温泉でも行きたのですけどね…。」
真矢が淋しそうに言うと……榊原は、瞳を輝かした
「浴衣の康太♪見たい♪食べたい♪脱がせたい♪」……と、榊原が楽しそうに言うと…康太は「行こうな…」と許してやった
「母さん!温泉に行きましょう!」
笙は……弟の…壊れっプリに…苦笑した
本当にこの弟は…康太以外は…どうでも良いのだと…解る
康太は…そんな榊原を連れて清四郎や真矢、笙に別れを告げ…ホテルの外へと向かった
ホテルの外に出ると…榊原は、
「本当は…何だったんですか?」
「父ちゃんからメールが来てたから電話した…母ちゃんが倒れた…って…」
「義母さんが?病状は?」
「今…検査だから解らないって父ちゃんが……。
一生や慎一がオレに変わって手助けしてるって…父ちゃんが…言ってた…」
「………義母さんの所へ行きますか?」
「……行けば…改革が…遅れる…」
康太は……拳を握って…堪えていた…
「オレが行って…母ちゃんが助かるなら行く!
そうでないなら、オレは会社へ行く!」
「康太!」
珍しく…榊原が大声を出していた
その様子を、帰ろうとした…清四郎達が目撃をし……訝しんで近寄って来た…
端から見たら…喧嘩をしているみたいだから…
「康太…どうしました?」と真矢が…優しく抱き締めた
康太は答えず…唇を噛み締めていた
仕方なく…榊原が説明した
「玲香さんが倒れられたそうです…」
榊原が言うと、清四郎達は驚いた
「何処の病院へ、入院なさったのですか?」
真矢が康太に問い掛ける
康太は何も言わなかった…
清四郎は「お見舞いに行きましょう!」と言うが…康太は断った
「オレは行ってらんねぇ!
例え…死に目に逢えない病気だとしても…
オレは病院へは行かねぇ!」
康太は榊原に車のロックを解除しろと…言った
榊原がロックを解除すると、康太は車に乗り込んだ
「父さん、母さん、兄さん…また
僕は康太と共に会社へ行かねばなりません!」
「何故?何故…玲香さんの所へ行かないのですか?」
清四郎は、信じられなかった
「康太は改革の真っ只中です!
現場を離れれば士気が下がる…
それ程…切迫しているのです…!」
榊原は、車に乗り込むと…車を発車させた
康太は何も言わず…目を閉じていた…
『案ずるでない…玲香殿は社内の…虐めを知っていたのだ…
だが、何も出来ず…悩んでいた…
胃潰瘍じゃ…助からぬ病ではない…』
「そうか…なら、母ちゃんの為にも改革は進めねぇとな!
その内…母ちゃんみたいな病人が山程出たら困るかんな!」
「そうですね。では、走ります!」
榊原は、車を走らせた…
榊原の車を見送り…
清四郎は、瑛太に電話を入れた
「清四郎です…玲香さんが倒れられたとか…」
『はい。今検査です…。どこで知りましたか?』
「康太です…。康太は何も言わなかったのですが…二人が喧嘩してて…私が聞き出しました…。」
『そうですか…、父さんでもメールしたのですね…。
康太と父は…毎日メールのやり取りをしてますからね…』
「どうして…康太は…見舞いにも行かず…会社に行くなどと…言うのですか…」
『……康太は…そう言いましたか…そうですか。
私も会社にこれから行きます!
母親に着いていたい気持ちはありますが…それは出来ません!
飛鳥井は、今…改革と言う乱世の真っ只中ですから……
例え親が死のうとも…投げ出したり、出来ないのです!
今投げ出せば…明日へと続かない…真贋はそう言いませんでしたか?
飛鳥井康太は…飛鳥井家真贋…私情など挟んではいけないのです!
例え…親が目の前で死のうとも…己の仕事を完遂せねばならぬ存在です!
飛鳥井の女である母は…一番解っています…
本当は…幸せそうに…伊織とデートだと言った康太には知らせたくはなかったのですがね…
父は…康太に…知らせても…役務を果たしてくれると…確信しているのでしょう…』
「辛すぎませんか?」
『辛いでしょうね…でも康太は…
子供の頃から…辛い日々を送ってますからね
子供の康太は…親と口すら聞けませんでした…
親に抱き締めてもらったり…甘えさせてもらった事すらないのですからね…
真贋たるもの…親でも斬れ…と言う祖父の教えです…
そんな康太が…違える事はないのです…
必ず…改革を完遂して下さると…私も思っております!
飛鳥井玲香や清隆が死のうとも…飛鳥井家は終焉を迎えないが…飛鳥井康太を無くす時‥‥
飛鳥井家は終焉を迎えます…彼の存在は絶対でなくてはならない
私情になどに流されてはいけないのです!』と瑛太は言い切った
「康太の分も…お見舞いに…伺います…」
『そうですか…すみません…
御願いします!
私も会社へと参ります!
父も行かねばなりません!
父の背中には社員の生活が掛かっております
一生達が…康太の代わりにおりますので…声をかけてやって下さい!では。』
瑛太は病院の名前を告げると…電話は慌ただしく切れた…
飛鳥井家 真贋…
源右衛門も…こんな想いを封じて…生きて来たのだろうか?
「重いな…」清四郎は思わず呟いた…
笙は、空を見上げ…
「飛鳥井家の真贋は…この世を動かす…
社長の神野の口癖だ…あながち嘘ではないと…僕は思っています…
だから、重いんですよ…
この不景気な世の中で、飛鳥井建設の純利益は…損失を出してない
国内外の企業が…目を着け…取り込もうと躍起になってる
飛鳥井建設を手に入れる…即ち…飛鳥井家の真贋を手もしたも同然
この世を手にしたようなもんですからね…
康太の存在は…重いのは当たり前でしょ…」
乱世…なんですね…康太…
飛鳥井建設では……闘いが行われてるのですね…
君の行く道は…険しく…厳しい…修羅の道…なのですね…
ともだちにシェアしよう!