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第18話 別離①
飛鳥井建設に行く前に…ファミレスに入り…腹ごしらえする
康太は一生に電話して状況を聞く
「オレ、病院終わった!そっちの状況は?」
『こっちも情報収集終わり…。お前、どこにいんのよ?』
「病院終わったから腹ごしらえをしに病院の近くのファミレス。」
『なら、そこに行くわ!待ってろよ』
一生はそう言い…電話を切った
「伊織、来るってよ!」
「でしょ?だから、6人用にして良かったでしょ?」
「ん。食っても良い?」
「良く噛んで食べるんですよ?」
康太はうんうん!と頷いて、ハンバーグにフォークを突き刺した
榊原は静かに…食事をしていた
すると一生が慎一と三木を引き連れて…やって来た
「どうだったよ?」
「盛田…の家…、すげぇ警戒で…近づけも出来ねぇでやんの」
一生が言うと…康太は…ニャッと笑った
「ほほう…襲撃でも恐れてるのかよ?」
「家の前に……警察が立ってて…その横に…装備したのがいたり…してる」
「ほほう…組長んちみてぇだな!」
「何に怯えているんだか…」
「そりゃあ…おめぇ、飛鳥井家の真贋にだろ?
アイツは化け物だ…とでも、思ってんだろ?」
康太の言葉に…一生も慎一も三木も納得した
「なら……化け物らしく…家の中にでも…入ってやるかな…」
康太は…呟いた
「ネズミ一匹…入れねぇのに?」
一生は…そりゃ無理やろ…と止めた
「弥勒、今夜、お前んちに行く…オレをサポートしてくれ!」
『解った…サポートしてやろう!』
「と、言う事で…今夜オレは弥勒んちに行く
伊織、オレを弥勒んちに連れてってくれ!」
「解りました」
「それが終わったら…榊原の家に泊まりに行かねぇとな…一生達も行くか?」
康太にフラれ…一生は困る
「俺等は…流石に…邪魔やろ?」
「何で?お前等は、俺の一部じゃん!」
「康太…」
「オレとお前等を…別ける様な事を伊織の親がするかよ!」
「違うって…伊織が…」
一生が……何か言いかけた所で…
榊原が「僕は君達を一度でも邪険にしましたか?」と怒った
「違うって…康太との時間を邪魔したら…伊織が暴れる…だろ?」
「暴れませんよ?失礼な!
皆で雑魚寝でも…暴れたりしませんよ!
最近は…大人しく寝てばかりですからね…」
「本当に…エッチしてねぇのか?」
一生が心配になって聞いた
「たまに…ね。しますよ?」
「前は…抜かずに7回とか…あったやろが!」
「前のようには…出来ませんね…
康太には、やらねばならない事が…沢山有ります…
抱き潰せない…ですからね…
康太が言ってたでしょ?
まだ硬いのに…抜かなきゃいけないって…
僕はまだ出来ても…康太が出来ないので…硬いまま抜きます…
康太は…それが嫌みたいです……
しかも…康太の体に負担にならない様に…自分で処理しようとしても…康太が嫌がるので…出来ません…」
……と、淋しそうに…呟いた
「旦那…康太の体は治るから…そしたら…」
気休めなんか…言葉にならなかった…
慎一も…辛そうに…二人を見詰めていた…
康太は三木に
「三木…お前の親友…どんな奴だ?」と、度直球を投げ掛けた
「盛田…太一ですか?」
「そう。どんな奴?」
「……良い奴ですよ?俺は…あんなに話の解る男は…出逢った事がない…位に…」
康太は…ふん…と鼻を鳴らし…嗤った
「胡散臭せぇ奴…良い奴なんて…見せ掛けだって…気付けよ三木…」
「貴方の目に掛かったら…総て…悪人じゃないですか…」
「………そう言う事になるな!
オレは自分の眼しか信じねぇ…
悪人でもな…己を貫くなら…オレは認めるぞ…
九頭竜海斗の様にな…オレは人を…見た目や職業で判断しねぇかんな!」
康太は…立ち上がると…「帰るぞ伊織!」と言い捨てた
榊原はレシートを持って…康太の後を追う
一生と慎一も…康太と共に店内から出て…車に乗った
三木は…店内に取り残された
なぜ残されたか…三木には解っていた
この先…康太は…この件は三木には漏らさない…
今夜…動くこともないだろう…
自分が…下手に動くかも…と不信感を…抱かれただろう…
友人を…信じたい想いと…受け入れられない現実…
三木は…頭を抱えた…
何が何だか…解らない…
『三木…見極める眼を持たねぇと…政治家にはなれねぇぞ!』
三木は…康太から言われた言葉を噛み締め…店を後にした
車に乗ると…康太は…呟いた
「今夜は…動けねぇ…三木が動いちまうからな…」
「なら、前倒しで…榊原の家に行きますか?」
「良いな…それ!」
榊原は……車を走らせた…
「弥勒…今夜は辞めとく…三木が…どっちに出るか解らねぇからな…」
『…迷ってるのは…お前だろ?』
「迷って悪いか!オレにとっては…排除すべき人間でも…三木には友達なんだ!
時間をくれてやる…位しねぇとな…」
『…それが裏目に出ねば良い…がな
裏目に出れば…お前の判断ミスだ!
甘いことを言えば…自分に返ってくる…覚悟の上なら…何も言わん!』
「……国会参考人招致は…オレが出る!
晒し者になる…そんな覚悟なんざ出来てる!
化け物らしく…晒し者になってやんよ!
当分…頭を冷やす…ならな、弥勒!」
『なっ!康太!何する!』
康太は…弥勒の覇道を……遮断した
「遺書なら…とうの昔に書いてあんだよ!」
康太は…呟いた
「伊織…」
「はい。」
「オレは…消える…」
「康太…」
「伊織…オレの後を追うな!」
「良いですが…説明して下さい…」
「弥勒の干渉から…逃れるには…それしかねぇ…」
「弥勒の干渉から逃れて…貴方何する気ですか…」
「秘密裏に動く…誰にも気取られず…動く…
盛田兼久…は弥勒の顧客だ…弥勒にも迷惑がかかる…」
「康太…」
「三木にとって…盛田太一は良い友だった…
アイツにも時間が必要だ…
でも…そんなに時間はねぇんだ……
来週には…国会に参考人招致だろう…
それまでに見通しつけておかねぇと…跡形もなくなる…」
「解りました!後は追いません!」
「すまねぇな…榊原の家には行けそうもねぇ…」
「構いませんよ…」
「誰に何を聞かれて…知らん顔してろ…」
「……行き先を教えくれないのなら…知らないとしか…言えないじゃないですか…」
「お前がいると…弥勒がお前を辿って…やって来る……
一生や慎一も…そうだ!
隼人や聡一郎にも瑛兄にもオレは連絡は取らねぇ…
瑛兄を辿れば…オレに辿り着ける…なんて思われてるからな…」
「解りました…堪えます…でも…カタが着いたら…僕の元に…帰って来て!
僕は…飛鳥井の家へは帰りません
ずっと会社で君を待ちますから!」
「あぁ。解った…」
康太は…そう言うと眼を閉じた
そして……信号待ちで止まっている車のドアを開けると
「愛してる伊織…お前だけを…愛してる!」
と、言い
車から飛び降りた
そして、走って………
人混みへ……消えた
榊原は…人混みに消えた康太を…何時までも見詰めていた
そして…クラクションを派手に鳴らされ…車を動かした
その瞳には…涙が…流れていた
追い掛けて行きたいだろうに…
堪えて…愛する康太を送り出した
どれ程の…想いで…送り出したのか…
想像すら出来ない…
一生は…榊原に声すら掛けられず…
天を仰いだ…
慎一も…あまりにも辛い現実に…涙が止まらなかった…
だが…榊原はもっと…辛くて…悲しい筈…
言葉もなく…車は…飛鳥井へと向かった
飛鳥井の家へ帰り…榊原はスーツケースの中に着替えを詰め込んだ…
総て支度が整うと…榊原は寝室に鍵をかけた
そして自室の入り口にも鍵をかけ、階下へ降りていった
一生と慎一に「康太が帰るまで…僕は…飛鳥井の家には帰ってきません!後は…頼めますか?」と声をかけた
一生は「俺も康太のいねぇ、この家に用はねぇ…会社でアイツを待つ!
アイツの守る飛鳥井を絶対に俺も守る!」と言い、手にはスーツケースを持っていた
慎一も「俺の主は飛鳥井康太…主のいない館に…用などない。我は…飛鳥井の会社を守る!この命に変えても…必ず守ってみせます!」と言い…スーツケースを持参していた
覚悟の瞳をした男が三人…飛鳥井の家を後にする
源右衛門と京香は…その姿を…静かに見送っていた
「未曾有の危機に…飛鳥井はある…
それを救うは…飛鳥井康太…稀代の真贋…唯1人…
康太…お前の行く果ては…険しいな…」
京香は源右衛門の言葉に静かに頷いた
榊原は、一度も振り返らずに…飛鳥井の家を出た
一生も慎一も…前を見据え…榊原の後に続く
榊原の車のトランクに荷物を積め…
飛鳥井の家を…後にした
会社の地下駐車場に車を停め…エレベーターに乗り最上階へ進む
榊原は自分の部屋に入ろうとした時、瑛太がドアを開けた
榊原の側に…康太の姿がなく…瑛太は榊原の側へと近寄った
「康太は…?」
榊原の瞳は…人の感情を総て封印したかの様に……感情の欠片も見えなかった
「康太は…消えました」
「消えた…何故?」
「何故?…・・・何故か解りませんか?」
「伊織…?」
「飛鳥井を助ける為にでしょ!
康太が動く理由はそれしかない!
僕は…康太が何処にいるかなど知りません!
康太は僕に何も告げずに信号待ちの車から…降りたのですから!」
もう聞くな!とばかりの…勢いだった
「僕は…康太が帰って来るまで…飛鳥井の家には帰りません!
康太のいない…飛鳥井の家に…用はない!
康太が命を懸けて守ろうとした…会社を守ります!この命に変えてもね!」
榊原はそう言うと…部屋に入ってドアを閉めた
瑛太は…一生に事の詳細を聞いた
「今日、病院を終えた康太と合流した…
その時は、普通だった…
康太が三木に…盛田太一はどんな奴なんだ…と聞いた辺りから雲行きがおかしくなった
康太は三木の言う盛田太一を貶した…
そして三木は…それに対して…怒りを露にして皮肉った
それで…店を出て…弥勒の覇道も切った…
その後は…旦那の車から…降りて人混みに紛れて…何処かへ行っちまったよ…
オレの知ってるのはそれだけだ!
旦那の知ってるのも同じだ…俺は康太の居場所は解らねぇ…
だけど、俺も慎一も…飛鳥井の家には帰らねぇ…
康太のいねぇ…あの家には用はねぇんだ…
俺も旦那と同じく会社に寝泊まりする
ならな!これ以上聞いても俺も解らねぇ
解らねぇように…消えたんだからな!」
一生が言い捨てると…瑛太は…ありがと…と言った
「私も…家には帰りません!
康太のいない…あの家には…用はありません!
伊織が生きていると言う事は…康太は生きているのですよね…
ならば私も…生きていける…」
瑛太は…副社長室へ戻って行った
瑛太は…副社長室の窓から…外を見た
康太…
何処にいるのだ…
康太…
生きていてくれ…
私や……伊織の知らない所で…死ぬな…
康太…
お前の行く道は何時も…険しい
蕀の道を…傷付き…血を流しても…
お前は…その道を行く
兄は…そんなお前を…誰よりも愛している
誰よりも愛している!
お前が…伊織を見る瞳を…見るのが好きだった
本当に心底…伊織に惚れてるお前は…
臆面もなく…伊織を見詰める…
そんなお前を…誰よりも幸せにしてやりたかった…
康太…戻って来い…
お前の愛する男は…人として生きるのを…
拒絶している…
康太…
瑛太は…視界が…歪み…顔を押さえた…
神様…御願いします…
願わくば…
幸せな二人を…引き離したりしないで…下さい
神様…聞いてくれないないなら…
あの世に行った時に…
ブン殴らせなさい!
康太が消えてから…3日
榊原の瞳には…何も映さなくなっていた
仕事は…何時も以上に厳しく片付ける
だけど…人としての感情が…一切ない
玲香は…退院して来たが…
飛鳥井の家に…誰もおらず…驚いていた
康太が消え…飛鳥井の家から…榊原が去り…一生や聡一郎、隼人に慎一がかえらなくなっていた
飛鳥井の家にいるのは、力哉のみとなっていた
ついでに瑛太も…飛鳥井の家には一切帰る事はなかった
静まり返った飛鳥井の家に…京香と源右衛門がいた
二人は…静かに…家を出て行く榊原達を見送った…と、玲香に話した
玲香は会社に車を飛ばして行くと…
感情を統べてなくした…瑛太がいて…榊原がいた
一生や聡一郎、隼人も飛鳥井の家にいた時の…顔付きではなく、厳しい顔をしていた
会社の社員も…役員も一丸になって…
飛鳥井家 真贋の帰還を願って…仕事に邁進していた
玲香の目にする会社は…改革が着実に進んで…前の様な…仕事が停滞する様な事もなくなっていた
「これが…真贋の…作りし会社か…」
玲香は呟いた
飛鳥井建設の頭上には…暗雲が立ち込めていた
それを……康太は…1人で祓いに行ったと言うのか……
玲香は…天を仰いだ
玲香の肩を…清隆が…そっと抱いた
「康太は…1人で…戦地に出向いたのだな…」
「そうです。だから、瑛太も伊織も…家ではなく…会社で康太を待っているのです…」
「………ならば、我は…飛鳥井の家で康太を待つとする!
あやつの還る場所は…彼処しかない…からな!
我は…康太が還るまで…家中の電気を着けて…帰りを待とう…必ず康太は還る…だからな!」
「…玲香……」
玲香は…窓の外を…眺めた…
清隆も…窓の外を眺め…
想いは…我が子へと…馳せていた
帰ってきなさい…康太…
玲香は…願った…
榊原は忙しく仕事を片付けていた…
だが……ふとした瞬間…康太への想いに囚われる
あの日…信号待ちの車から…飛び降りて…
人混みへ消えた…康太を見送ってから…
3日が過ぎた
弥勒が…会社に尋ねて来た…
だが…榊原から康太の覇道を辿れないと解ると…帰って行った
三木も…榊原を尋ねて来て……
康太の失踪を知った
三木は…榊原に頭を下げた
もう迷いも…戸惑いもない…
自分は死ぬまで飛鳥井康太の…議員でいる…
と想いを告げて…帰って行った
兵藤も…何度も心配して会社に来た
清四郎や真矢…笙も…連絡が着かぬ榊原を心配して飛鳥井の家へ尋ねて…
康太の失踪を知り、会社まで来てくれた
だが……会社を尋ねた清四郎達を待ち受けていたのは…
感情の欠片もない…表情が皆無の榊原だった
まるで昔に戻った様な顔つきだった
清四郎は…そんな息子の姿を見て…泣いた
真矢は…家を出た頃の…榊原に戻っていて…
ショックを隠せなかった…
笙は…康太をなくすと言う事が…榊原の生きて行く意味を無くすのだと…思い知らされた
今在る感情は…康太が守った飛鳥井建設を守る!と言う想いだけだった…
「伊織…」
その想いが…無くなった時…永遠に…榊原は息をしなくなる…
笙は永遠に弟を亡くす…恐怖に襲われた…
「皆さん…ご心配かけて申し訳ありません
僕は大丈夫ですので、お帰り下さい!
僕は此処を動く気は有りません!」
その瞳には…何も映ってはいない…
表情も感情も…総てないロボット…
真矢は…榊原を抱き締めた…
榊原は…・・・・窓の外を見詰めていた
康太…帰ってらっしゃい…
僕を愛してるなら…帰ってきて…
榊原の想いは…それだけだった
榊原は…窓の下を見詰めた
その窓の下に………康太が見上げているとも知らずに………
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