30 / 72
第30話 家族
「だ‥‥……な、………んな…」
身体を揺すられ…寝惚けた頭が…覚醒を始める
「旦那……おい…旦那…」
一生に…身体を揺すられ…ているみたいだった
「一生……?どうしましたか?」
「康太は…?」
「いますよ…僕の腕の中に…」
榊原が布団を捲ると…康太が榊原に擦り寄って…眠っていた
小さく…榊原の胸に収まり…眠る姿に…一生は胸が痛みつつも…
普段のあの寝相からは想像すら出来なかった…
「子猫みたいやん…あの寝相はどこ行ったん?」
榊原は笑って
「そう言う時もあります…」と答えた
「それより、旦那の家族来てるから連れてきた
清四郎さん…眠ってました…」
一生は後ろにいる清四郎と真矢、笙に声をかけた
裸の…榊原の胸に…裸の…康太が擦り寄って眠る姿に…清四郎は互いの体温を…分かち合う二人の愛を感じていた
「伊織…康太は起きれそうですか?」
「どうでしょう…抱き潰して怪我してます」
「……一生に聞きました…。
応接間にいるので…来ますか?」
「そこのリビングで構いません
康太を起こして着替えます。」
「解りました。では、リビングにいます。」
清四郎がリビングに行くと、一生はドアを閉めた
榊原は「康太…」と声をかけると、康太は瞳を開いた
「父が母や兄が…来てます…。起きれますか?」
「腹減ったし、起きる…」
「眠れましたか?」
「ん。伊織がいてくれたから…寝た」
「良かったです」
榊原は全裸のまま起き上がると…クロゼットを開いて康太の服を取り出した
下着を履かせ…服を着せ、ズボンを履かせ…そして自分も着替えた
康太の寝癖を指で掻き上げ…整える
ドアを開け、リビングに行く前に…康太に軽くキスをした
リビングに行くと…清四郎や、真矢、笙に…頭を下げた
「折角来てくださったのに昨夜は留守、今度は寝ていて…すみませんでした」
「良いのですよ?」
清四郎は康太を優しく抱き締めた
真矢も…笙も、康太を優しく抱き締めた
リビングには一生達が…いた
真矢が康太に「お弁当を作って来ました。食べてね」と優しく声をかけた
「一生、羅刹は?」
「弥勒に逢いに行くと言い…出てるぜ」
「悪い事したな…」
「羅刹は解ってたぜ…」
康太は…なにも言わず…頷いた
清四郎は康太に…
「参考人招致…見てました…」と声をかけた
「昨日は伊織は留守番でした…
伊織が朝食を取っている間に…三木を呼んで…伊織の見ている目の前で…置いて行きました」
康太は事の顛末を口にした
「参考人招致の席に…伊織がいなくて…
安心した反面…不安になったのも反面でした
私は…二人を恥じたりはしない…
見守って行きたい思いは揺るぎません…
ですが…
テレビで全国の人間に…顔を晒して…生きて行くのは…しんどい事だと…案じていました
伊織を置いて行かれたのは…そう言う私達の思いに配慮なさったのですか?」
「オレはこの先も…伊織を公に晒す気はねぇんだよ!
公の場所には伊織は絶対に…姿を出させねぇ
もし…オレがそこへ行かねばならぬのなら…
オレは伊織を置いて…そこへ行く
伊織は…オレの伴侶として…発表はしねぇ!
ぜってぇにだ!
この先…伴侶と言うのは…封印する
外では伊織とは…距離を置く…」
清四郎は驚愕の瞳で………康太を見た
「何故ですか…伊織は…恥ずべき存在なのですか?」
「違う!オレは全国放送で…同性愛と言うレッテルを張られた…
もう…これは誤解です…とか、言えねぇレベルの…広まりだ…
そんなオレと一緒にいるのは…伊織のこの先の…為にならねぇ…
外に行く時は…二人にならねぇように…しねぇとな…
それが、オレのケジメだ!」
「康太…伊織は…君のモノでしょ?」
「………それでも…。
伊織を…奇異な目で見せたくはねぇ…」
康太が言うと……清四郎は泣いた
「言って歩かなくても…オレは…同性愛と言うレッテルを張られた…
清四郎さん…うちに来るのは…少し控えられた方が良い…
変な噂が立てば…貴方のイメージに傷が着く」
「康太!何故そんなことを言うのですか!」
清四郎は泣いて…叫んだ
笙は…康太の頬を…叩いた
「康太…僕達はお前達を恥じてはいない!
この先も…この世の総てが敵に回ろうとも…僕達は君達を守って…行くつもりだ!
そんな父に…来るなと言ったも同然なんですよ!」
「笙…オレと一緒にいれば…痛くもない腹を探られる…そう言う目で見られる…」
「関係ない…!
他は関係ない!僕達は…伊織の家族だ
家族に逢うのに…遠慮はしない!
恥もしない!その先も…変わらない!」
笙は言い切った
一生は康太を抱き締めた
「お前は考え過ぎなんだよ…
俺等も…お前から離れる気はねぇからな!
ホモだと想うなら想わせとけ!
他人は関係ねぇよ!放っておけば良い!」
「一生…」
慎一もソファーの後ろから康太を抱き締め
「俺の主は飛鳥井康太!他に仕える気など有りません!
誰に言われようとも…俺を救って助けてくれたのは貴方です!
貴方を恥じたりはしない!」
「慎一…」
聡一郎は康太の膝に…顔を埋めた
「僕をこの世に引き留めたのは…君でしょ?
僕の命を握っている君を…恥じたりする筈などないでしょ!」
「聡一郎…」
「康太…最近のお前は我が儘なのだ!
我が儘はオレ様の専売特許なのだ!」
「隼人…すまねぇな…」
笙は弟を押し退けて…康太に抱き着いた
「僕の命は君が握ってるんだからね
僕は君を恥じたりはしない!
テレビに弟として公表しても…構いませんよ!
伊織は…そんな覚悟は…君を親に逢わせた時から出来ていると…想いますよ!
なんたって僕の弟は…執着が凄いですからね…諦めなさい!
その伊織の親ですから…父さんも母さんも…覚悟は出来てるんですよ!」
「笙…」
真矢は…笙と榊原を追いやり康太を抱き締めた
「康太…貴方と歩いたとしても…別に私は気にもしないわ!
そんな些細な事を気にするだけ無駄よ
言いたい奴は言う!
私は気にしない!だから良いのよ!
清四郎も気にしないわよ!
この先…伊織の顔写真が出たとしても…私は気にしない!」
笙が謂うと真矢も
「康太、私は貴方の瞳など…驚異でもない
貴方のキラキラの瞳が好きよ?
榊原のバラバラの家族を1つに…纏めてくれたのは貴方よ?
しかと貴方は夫、清四郎の心の師匠…貴方がいたから…清四郎は、兄の束縛からも解き放たれた
清四郎だって貴方の瞳が好きよ!
しかも、貴方は…伊織しか愛せない…
伊織だけ…命を懸けて愛してる
誰でも良い訳じゃない!
だから、隠す気はないのよ!私は!」と優しく謂った
「真矢さん」
「ママって呼んでね♪清四郎の事はパパで良いわ!笙は笙で良いけどね…」
「母さん、僕はお兄ちゃん…って呼ばれたい!」
「康太…パパって呼んでくれますか?」
「康太、ママって呼んでね」
「康太、お兄ちゃんって呼んで!」
好き勝手な事を言っていた
榊原の眉間に…ピキッ…と怒りマークが…
康太は笑っていた
重箱の料理を黙々と食べて…美味しそうに笑っていた
その姿が…ハムスター張りに可愛かった
「康太…お尻は痛くない?」
榊原が聞くと…康太は頬を赤らめ
「今は…大丈夫…」
恥ずかしそうに…俯いた
「伊織…皆がいるのに聞かないの!」
笙は注意をした
すると榊原は、肩を竦め…
「僕は康太を隠す気は一切有りません!
ホモでもゲイでも勝手に好きな呼び名で呼んで下さい!
父さん達には…少し迷惑を掛けるかも知れませんが…僕は康太以外の…恋人を持つ気など更々有りません…!」
と、しれっと言い放った
清四郎は…溜め息を着き…
「お前の性格が…最近やっと解って来ました
本当にお前は…康太以外は…どうでも良いのですね…」
と語った
「はい。康太以外は…興味もわきません」
榊原が言うと一生が
「旦那は康太が消えると…人間辞めるしな…
笑わねぇ、食わねぇ、喋らねぇ、感情はねぇ
まるで頭脳だけ動かす姿は…ロボット…だな
旦那の感情の総てを…康太が占めてるんだなって……康太が消えると…解る」としみじみと…言うと全員頷いた
真矢は「心がないロボット…昔の伊織は…そうでしたね…。
私が誉めても怒っても嫌みを言っても…なんの反応もなく…淡々と生きてる……家にいた時の伊織は…そんなんでしたからね…」と昔を忍んで…言葉にする
榊原は…母さん…とたしなめた
「私は…本当に康太と恋人同士になってくれて良かった…と思ってるのよ!
ロボットの様な伊織と…暴君の清四郎…
家を嫌って…距離を取る笙…
家族はバラバラだった…もう家庭としては機能していなかった…
そんなバラバラだった家族を康太が1つにしてくれた
清四郎が…こんなに不器用で…弱虫だなんて…結婚して…最近知りました
好きで…結婚したのにね…
バラバラになっていた家族に…私の心も折れていたのよ…
清四郎に‥‥離婚して…別々の…道を歩きましょう…って言うつもりだった
だって…その当時…私は…妻でもなかったんですもの
伊織が家を出て…清四郎は私を抱かなくなった…
見向きもされない妻が…どれ程惨めか…解りますか?」
真矢の胸のうちを…吐露される
「抱き締められも…言葉も…掛けて貰えない
口を開けば…役の事ばかり…
愛してるも…好きもない…
施設にいた頃から…好きだった
なのに…二人で築こうね…って言っていた家族は…とうの昔に消えてしまっていた
私は…愛されたかった…
優しく抱き締められたかった…
淋しくて…そのうち諦めた…
伊織が高校を出たら…離婚する気でいました
親としての責務だけ果たしたら…やり直そうと思っていた
私じゃあ…清四郎は支えられないのだと…思っていたの…
もう……愛されてるのかも解らない人を…待つのは疲れたの…」
真矢は…涙ながらに…言葉にした
妻の想いを知らなかった清四郎は、衝撃を受け
笙も榊原も……言葉をなくした
「康太には…私の心が…見えていたんでしょ?
私は…真っ直ぐ見詰める貴方の瞳が…最初は怖かった…
でもね、見詰められると…安心したのも確かなのよ?
清四郎に殴られた貴方を介抱した時には…貴方が可愛くて…仕方なくなっていた
だから…清四郎を許してね…って言ってしまったのかも知れない
清四郎が熱烈に…私に愛を囁いて…抱いてくれた時には…私は…泣きました
そして清四郎を変えたのは…貴方だと解ると…私は…貴方の為に…子供をあげようと決めたのです!
康太が伊織の子供を欲しがるのなら…伊織の血を引く子供を康太に…あげようと…
だってこの幸せは…康太、貴方がくれたのよ
清四郎は変わったわ…
悪阻で苦しむ私の為に食事を作り…お茶を淹れてくれるようになった…
昔じゃあ…想像もつかなかったわ
優しく…愛される時…私は…この幸せは…康太のくれた…と想うのよ
私は…この先も…何があったとしても……
康太を守る…私の命に変えても…守るわ」
真矢はそう言い…康太を優しく…抱き締めた
「貴方は…恥じではないわ…
だから…皆貴方を守ろうと…こうして集まって来る…。
貴方を知れば…貴方に惹かれる…
飛鳥井康太は驚異ではない…
私の愛すべき子よ…」
優しく抱き締める腕は…母の愛に満ちていた
そして…康太を誰より…思い遣り慈しみ守る…覚悟を秘めていた
清四郎は……
「あの時…康太に出逢ってなくば……
私は…離婚されていたのですか…」と情けなく呟いた
「だって…私だって優しく愛されたい時があるんですもの…
見向きもされない…抱かれもしない…
夫婦としての営みのない……仮面夫婦
このまま人生が終わるのは…堪らなく…辛かった…
だからね…別れるしかないと想ってた…
誰も知らないけどね…康太は知っていたのね…
髪型が変わって…気付いて欲しかった
愛してるよ…って言って欲しかった
肩を抱いて…抱き締めて欲しかった
そして…抱いて欲しかった…
私がまだ必要だって…全身で感じたかった…
それら総てを…やってくれた…
康太が…真贋だと知った時…見えていたんだなって…感じました
そして貴方が与えてくれた…幸せなんだって…想ったのよ…」
真矢だって…飛鳥井家の真贋は知っていた
芸能界や財界で…暗黙の存在…
その瞳の…持つ魔力も…芸能界に身を置く真矢は…知っていた
まさか…こんなに小さいのに真贋だと言うのは…信じられなかったけど…
真矢は康太を愛しそうに抱き締め…頬を擦り寄せた
清四郎は……
「師匠…本当に貴方は…私の心の師匠だ…
私は…まだまだ…学ばねばならないです
妻が…そんな悲しい想いをしていたのを…私は…気付いてもやれなかった…
伊織に負けない位…妻を愛して行きます
愛され過ぎて腰も立たない位…頑張ってみます…!」
清四郎が言うと真矢は頬を赤らめた
そして、真矢は清四郎の元に行き…抱き合った
笙は「あのぉ…僕…独り身なんですか…」と呟いた
清四郎も真矢も知らん顔していた
「父さん…母さん…もう充分…ラブラブじゃないですか!
僕が仕事から帰ってきた時に…応接間で犯っていた事だってあるじゃないですか!
僕は独り身なんですからね!」
笙が叫ぶと…清四郎は
「カルシウム…足りないんですか?」と呟いた
慎一が…「独り身には…ラブラブは堪えるんですよ」と助けを出した
「俺も…主夫婦はラブラブ…一生も恋人がいるし…聡一郎にも恋人がいる
隼人と俺だけ…独り者ですからね…」とボヤいた
笙は「一生と聡一郎の恋人って誰?」と悪気もなく尋ねた
その問いには康太が…答えた
「その男は…愛する女と…引き裂かれ…子供もオレに取られた…
そんな苦しみの中にいた一生を救ったのは、オレの秘書の力哉ですよ…
力哉は…オレを一番愛してるし、一生もこの世で生きてるのはオレがいるから…
そして、聡一郎は…父親に歪んだ愛で育てられ…恋人を作っても…数ヶ月しか持たねぇ
聡一郎の命を握ってるのはオレだ
そんな男の選んだ相手は…オレの弟の悠太だ
悠太の一番愛してるのはオレだからな…似た者同士だ
一生も聡一郎もな。オレを一番愛してると…ぬかす…変わり者だ…
その変わり者の恋人もまた…オレを一番愛してるとぬかす奴だ…」
と説明した
笙は大笑いした
「康太が一番じゃ…叶わないからね…
でも互いが…康太が一番なら妬けなくて良いじゃない!
僕も康太が一番なのを解ってくれる彼女を見付けたい…」
康太は笑って何も答えなかった
楽しく話をしていると…不意に後ろから抱き締められた
「瑛兄…持ち上げるな…痛いんだ…」
「……愛され過ぎですよ…少し位…触らせて下さい」
「切れると…また血が出る…
薬を塗ってる所を一生に、見られるし…嫌だ」
康太が謂うと一生は不可抗力だ!と騒いだ
「あれは!見たくて見たんじゃねぇし!
ドアを開けたら…お前がケツを晒してたんじゃねぇかよ!」
「エッチ…」
「てめぇ…好きで見たんじゃねぇし…
ケツ出してたのはお前やろ!」
「貴史が抱き付くから…血が出たんだもんよー」
「そう言う文句は亭主に言え!
大きいまま挿入すれば切れる…切れても良いから欲しいと言ったのはお前やろうが!」
「欲しかったんだもん
伊織が欲しくて堪らないのに…伊織が遠慮して…やってくんねぇから…」
康太はブチブチ文句を言った
瑛太は康太の頬にキスして
「君達はお似合いですよ!」と笑った
そして胸ポケットから軟膏を榊原に、渡した
「義恭に…肛門裂傷を治す薬を出してくれ…と言い…処方して貰いました
義恭は…あのカップルはもぉ…と笑ってましたがね」
と、しれっと言った
「瑛兄…義恭に次逢う時に恥ずかしいやろが!」
「気にしなくて良いですよ!
彼は飛鳥井の人間。
真贋の伴侶は…生涯榊原伊織で代わりはない…のを知った人間。
気にする必要などないです!」
「………瑛兄…それでも、オレは恥ずかしいんだよ!」
「可愛過ぎてしょ…」
瑛太は…嬉しそうに笑った
そこへ悠太がやって来て…息を飲んだ
皆いるじゃん…
「悠太…どうした?」
康太は前を見たまま…悠太に問い掛けた
全員…入り口を…見た
すると悠太が立っていた
「師匠の脇田誠一が康太に会いに来ました
そして、玄関には戸浪さんと三木さんと、安曇さんがおみえです!
応接間に通しておきました」
康太は立ち上がると…何も言わず…歩き出した
ともだちにシェアしよう!