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第32話 羅刹
安曇と三木が帰って…脇田誠一も帰り
瑛太も会社に戻り…戸浪も…会社へと戻って行った
清四郎と真矢も…笙も帰宅すると
静けさが戻ってきた
康太はリビングに置いてある料理を持って来るように言った
誰もいなくなると…羅刹が帰ってきた
スッキリと髪を切り…爽やかだった
「羅刹、悪かったな…」
「気にするな…清隆が添い寝してくれた
子供に返って…清隆に甘えて寝たわ」
「どうするよ?マンションへ行くか?」
「もう一晩…泊まる。康太と伴侶と添い寝する」
「なら、今晩寝てやるよ」
「それを楽しみに帰って来たんだからな」
「弥勒はどうだった?」
「子供…生まれてやんの」
「弥勒は…父親になったか…」
「弥勒そっくりでな…力も半端ねぇよ!」
康太は羅刹を見て
「そうか。羅刹…お前の子供…狩ったぞ!」とサラッと謂った
「え?…………そうか。」
「オレが狩った…海坊主が邪魔したがな…」
「厳正が?何故?」
「元妻の…願いだそうだ!」
「……………俺は死ねば良いと…思っていた
死ねと…呪いをかけた子だ…どうでも良い」
羅刹は言い捨てた
「羅刹、次は人を愛せ!」
「お前程には…愛せない…」
「羅刹、此処にいる奴は…皆そうだぞ!
一番愛してるのは…オレだ!
オレしか愛せねぇ…奴ばかりだ」
羅刹は……えっ…と一生達を見た
「緑川一生、命を懸けて愛した女と別れさせて…一生の子供を…オレの子にした
そればかりか…死のうとする一生をこの世に留めた…
オレを…一番に愛して病まねぇ…男だ」
康太が一生を紹介する…
羅刹の瞳が…一生を貫く
「四宮聡一郎、この男は…父親の歪んだ愛で繋がれ…狂わされた
その聡一郎をこの世に引き留めたのは…オレだ…
聡一郎は…オレを愛して病まねぇ…男だ」
「一条隼人、この男はオレの息子だ!
空っぽな隼人を引き取り…埋めて人として生かしてるのは…オレだ
一番に愛しているのはオレと伊織だ」
「緑川慎一、この男は…オレに仕える為に
100年の時を越えて…転生した男だ
オレに仕えるためだけに、慎一は生きている
愛とかのレベルじゃねぇ…」
「安西力哉、この男は…戸浪海里の腹違いの弟として、この世に生を成した
自分を裁いてくれる…その時だけの為だけに生きていた
オレが貰い…秘書にした
力哉の一番はオレだ!
オレを愛して病まねぇ…」
羅刹は全員を…見詰めた
「しかも…そこにいる弟…悠太
そいつの愛して病まねぇのは……オレだぜ
オレを一番に愛してる光線バリバリだからな…知らん顔してやった」
康太が笑うと…悠太は…康兄…と情けのない声を出した
「一番にオレを愛されてもな…オレが愛して病まねぇのは…榊原伊織…唯一人だからな」
「解っておるわ…でも側にいたいのだ…」
「なら、いれば良いやん…」
「康太…」
「会いたい時に…逢いに来い
逢いたくなくても…逢いに来い
顔を見せろ…飯を食いに誘え!
解ったな?」
「解った…」
「しかも、オレは子持ちだかんな…
子育てに忙しいかんな…」
「みたいだな…」
「オレの子を紹介するわ!」
康太は羅刹の手を引っ張って羅刹に我が子を紹介した
羅刹は応接間に寝ている赤ん坊を見た
「オレの子だ
翔、その横が流生、大空、太陽、音弥だ」
一人ずつキスを送って名を呼ぶ
その顔は母のように慈愛に満ちていた
康太の子が寝ている傍のソファーに、小さな子供達が、康太の子のお世話をしながら座っていた
羅刹は飛鳥井にいる子供を不思議に想い問い掛けた
「この子は?」
康太は「その子供は慎一の子供だ!」と紹介した
双子を…羅刹は見る
「力持ち…?」
「そう…御厨の血が強く出ちまったんだろうな…
も少ししたら…翔と一緒に修行させる」
………羅刹は何も言わなかった
そして和希と和真の横にいる子に目をやって固まった
康太は「一生の子供の北斗だ!
緑川北斗、北斗七星に導かれし……定めの子供だ」と紹介した
羅刹は…北斗の顔を…凝視した
「この子は?」
「緑川北斗だ!
北斗七星に導かれし……定めの子供だと言わなかったか?」
康太はキツい瞳で羅刹を見てそう言った
羅刹は‥‥「雪だろ?」と怒りを浮かべて口にした
康太は…今にも…北斗を殺さんばかりの羅刹の鳩尾に…拳を入れた
北斗の前に…榊原が立ちはだかり…
一生、聡一郎、隼人に慎一が…壁を作った
「この子は緑川北斗だ!
触れれば…お前でも狩るぞ!
人の子に…呪いをかければ…お前に跳ね返してやる!
なぁ、弥勒…オレは黙っちゃいねぇよな!」
『北斗に手を出せば…俺も黙ってはおらぬ
一生の子供を…呪うなら…それなりの覚悟をしろ!』
羅刹は呆然となった…
「弥勒…雪の…姿を見せてやれ」
『仕方ねぇな…その目で見るが良い』
弥勒は…羅刹の目の前に…黄泉の映像を見せた
羅刹の前に…真っ赤な髪をして…角を持つ…
子供の姿が映った
雪は…康太の覇道を感じると…振り返った
『何か…用ですか?飛鳥井康太…』
「雪…黄泉の居心地はどうだ?」
『違和感ないぶん…楽です
飛鳥井康太…羅刹に伝えてくれませんか?』
「良いぞ…伝えてやる…」
『僕には罪などなかったのに…
お前だけが、被害者か?
道理を違えれば…次は…僕が…お前を狩りに行くと…伝えて下さい』
「伝えてやるかんな!…だから、お前はそこで…過ごすが良い…」
『貴方が用意してくれた場所ですからね…
此処しか…僕は住めないのでしょ?』
「許せ…、雪」
雪は深々と頭を下げた
『許しております…炎帝…』
映像は…そこで消えた
「雪を黄泉に送られたのですか?」
羅刹が康太に問いかけた
「雪がこの世で生きれる…術などねぇだろ?
あの異質な姿で…この世に生きろと言う方が…酷だろ
雪の声を聞いたろ?姿も見たろ?
今後…二度と…北斗に…殺意を向けるな!
次は…ねぇからな!」
羅刹は康太に深々と頭を下げた
「解っております…」
羅刹は……涙を流した
「雪が言うように…雪に……罪など有りませんでした…
産まれてくるのを…選べる訳でもない…なのに呪いをかけてた…」
「羅刹…解ったなら繰り返すな」
「はい。」
「お詫びに…その手に抱くか?北斗…を?」
「はい…」
康太は北斗を羅刹の腕に抱かせた
「北斗…幸せになれ…」羅刹は呟いた
「この子の守護星は北斗七星だ…
導かれ…曲がることなく…この子は生きる」
羅刹には…解っていた…
雪と北斗…2つに分けて…在るべき場所に導いたのを…
「康太…その双子…オレが少し預かろうか?」
羅刹は…和希と和真を見て申し出た
「無理だ…慎一が手離さない」
「でも…翔を待ってたら…遅いぞ」
「解ってる…」
「この子達は…元は一つだったろ?」
「そう。女神が分けた…」
「物見と透視…
先見…と予知…
総て備えれば…飛鳥井康太を越える…か」
「そう……1つで出せば…その力…驚異なり
オレは飛鳥井に関係のなきものは見ねぇ…
物見と先見は持ってる…
透視と予知は…ねぇな
それが出来るのは…御厨忠和…あの一族だけだ」
「…滅びの一族最後の真贋……か…」
「そう。それが慎一だ…
慎一は総てをなくしてオレに還ったのにな…
皮肉なこともあるもんだ…」
「康太…俺はお前の近くに…来た
手伝える事はしてやる!
俺に出来る事があるのなら…してやる!」
「ありがとな…」
「その双子の片割れ…育ててぇな…」
「無理だ…和真だろ?先見…予知の和真だろ?無理だな…父親が離さねぇよ!」
「嫌…養子とかじゃなく…育ててぇなと言うだけだ!」
「その時が…来たらな…。
オレの子供も…慎一の子供も…桜林に入れる
そこで…過ごさせる…
ある程度…大きくなったら……適材適所…オレが配置する」
「その時…その子の適材適所に俺は入っていたいと思うから…頑張るとするわ…
多分…俺は…結婚しても子をなさい…だろ?」
「羅刹…お前の子供は…二人…双子だ」
「え…?」
「巡り合わせは…あんだよ…
佐伯をくれてやろうと…想ったが…
髪を切って…過去を断ち切ったお前は…
先に進める…道が出来た…
出逢った瞬間…結ばれる…運命が…いるんだよ!」
「嘘…俺…幸せになれる?」
「……オレが適材適所配置して…
間違った事は…一度もねぇんだよ!」
「…そうか…。何か嬉しいな…」
羅刹は康太に…抱き着いた
「でも康太…和真は…俺の所へ来る定めだろ?
一目見た時から…あの子は…俺が育てる…予感がする」
「なら、その時が来たらな…面倒見てやってくれ…」
「面倒見れるように…俺は日々…精進する」
「あぁ。そうすると良い」
後は…もう何も話さなかった
部屋に戻り…羅刹と…早々に寝る事にした
羅刹は…
「康太…俺の回りの変動が激しすぎる…」
とボヤいた
「山奥に籠り過ぎたんだろ?」
「………それだけじゃねぇ…
雪の存在が…苦痛だった…罪なんかねぇのにな…
でも、嫌だったんだ…
俺は翡翠が…嫌いだった…憎かった…
俺の人生の…総てを束縛して…雁字搦めにした…
殺してやろうと…想っていた…
母と呼んだ人を…妻も同然に…相手をせねばならぬ…
この現実に…俺は……狂った…」
「羅刹…翡翠は…後悔していた…
黄泉でオレに逢った時…昇華して下さい…と、願い出たのは…翡翠の方からだ
閻魔は無縁地獄に落とすつもりだった…
だがな、翡翠から切々と…綴られる懺悔に…オレは昇華してやった…
翡翠の心だとて…無傷ではなかった…
翡翠の好きだったのは…飛鳥井清隆…親父だ
海坊主と結婚していた時に…親父に恋して…海坊主との結婚生活は破綻した
そして実家に戻って…相場師の家業を継いだ
源右衛門が…清隆の弟の子供を…翡翠に預けた
翡翠は…お前の成長を誰よりも楽しみに…見守り…お前が15の時…女になった
お前のその容姿…父の面影を…受け継いでいたからな…翡翠は女になった
羅刹が……恋人を連れてきたのを見て…嫉妬に狂って…己のものにした…
そして…羅刹を束縛した…
女の体を与えて…籠絡して…お前を束縛した
だがな…
羅刹…罪を抱かなかった訳じゃねぇんだぞ
罪を一番感じていたのは…翡翠だ…
妊娠が解って…羅刹に殺されると解って…それでもお前の子供を…この世に出したかった
お前が腹の子を呪った時…翡翠は…海坊主に助けを求めた…
この子だけは…この世に出してくれ…と。
だから…海坊主は神取の血を引く那智を本家に出して…その家に入った
雪を殺しに来る…お前を阻止するためにな
翡翠は…オレに昇華される時に…謝った
羅刹に罪などない…悪いのは総て私にある…と。
だから、オレは約束してやった…
ならば、お前の息子の羅刹は…俺が守ってやろう…と。
翡翠は…我が子の雪の安否より…育てた子供の安否を願った…
最後に翡翠は…母として…昇華された…
羅刹に…この命でも詫びは出来ぬが…許してくれ…と、伝えてくれ…と頼まれた
だからな…こうして寝物語に…話してやるんだ…
マトモに聞くには重いだろ?」
康太は…羅刹の心の澱を…浄化して行く
羅刹は…涙を流して…康太の寝物語を聞いていた
「見えないモノが…見えた時…人は…乗り越えて生きて行くのだな…」
羅刹は…ボソッと言葉にした
康太は…羅刹の頭を撫でた
「羅刹、人はな…許して先に進むんだ
過去を…認めて…乗り越える…
その先に…道はあるのだからな…
目が曇ってちゃ…見えねぇ道だ…
その果てに行きてぇなら…越えるしかねぇんだ
苦しい…作業を…しねぇとな…乗り越えられねぇ
許さなくても良い…憐れに感じてやれ…
絶対に…憎むな…
人を憎めば…人は心をなくす
心をなくさば…見える果てはねぇ…
憎しみは何も生まねぇ…生まれねぇ
憎めば…憎む程に…堕ちて行く…
どん底まで墜ちたら…明日はねぇぞ
闇しかねぇ…
その闇の中で生きるも…
光の中にでて行くのも…
自分次第なんだよ…羅刹!
闇は…人を壊す…闇からは明日は生まれねぇ
お前は闇の中で…憎しみの花を育ててた
蕀だらけの憎しみの花で…己を雁字搦めにして…血を流していた
もう…止めろ!
そこからは…何も生まれねぇ…
明日を生きるなら…そこから出ねぇとな…
朝陽は…毎朝上ってるぜ…
どんなに長くて苦しい夜だって…
朝は必ず…やって来るんだよ!
明日の朝…朝陽を見に行こうな…羅刹」
羅刹は…何度も頷いた
そして……康太と榊原に抱き締められ…
眠りに堕ちた
羅刹は…康太と榊原の温もりに…癒され眠っていた
まるで…母親の胎内に…堕ちた様な
安心感があった
目を覚ました時…康太と榊原の顔があった
「お前が生まれ堕ちた日だ
産まれてくれて…ありがとう…羅刹」
康太は…優しく羅刹にキスを送った
「無事生まれましたね…今日が君の誕生日です。
産まれてくれて…ありがとう…羅刹」
榊原も羅刹に口付けた
「康太…伊織?」
「お前の名前は?」
「羅刹」
「名字は?」
「…………」
「名字は?」
「あ…すかい?」
「名字は?」
「飛鳥井…」
「そう。全部言え」
「飛鳥井羅刹」
「その名前…変える
羅刹は修羅の羅
羅刹は殺戮の刹
幸せになる名前じゃねぇ」
「名前に…未練はない…構わない」
「お前の名前は…蓮《 れん 》な!
飛鳥井蓮だ!新しく人生を始めろ!
蓮《 はす 》は泥より出でて 泥に染まらず…と言う習わしがあり、昔から祝いや新年の祝いの席には用いられ食したものだ!
泥より出でて…泥に染まらず…生きてみろ!」
羅刹は……頷いた
「言ってみろ?お前の名前は?」
「飛鳥井 蓮!」
「そうだ!お前は蓮だ!
今日から始まる人生を生きろ!
伊織、着替えて…朝陽を見に行くぜ!」
「蓮の服は…どうしますか?」
「お前のじゃ…着れねぇ?」
「ウェイトが僕より…一生ですね。」
「なら、一生の所に行き…服を用意させるか…」
康太は起き上がると、榊原に服を出してもらった
それを着て…康太は一生の部屋へと向かう
ドアをノックすると…既に支度をした一生がいた
「おはー…早くねぇ?」康太が呟くと…
「朝陽を見に行くと想ってな用意してた」
一生は笑った
「蓮の服を貸してくれ!」
「蓮…れん?ひょっとして羅刹か?」
「あの名は…良くねぇかんな…変える
飛鳥井蓮…間違えずに読んでやってくれ!」
「蓮か…そっちの方が良い名だな」
「だろ?…でも一生…お前の名前も良い名だぞ!
緑川慎吾が…願いを込めて付けた名だ
産まれてから死ぬまでの生涯…一生…幸せでありますように…
慎一と…共に生きてくれますように…
と、願いを込めて…着けた名だ
《いっせい》でなく《かずき》なのは…幸せの数だけ生きて欲しい…と言う願いが籠っている」
「康太…俺は自分の名が…嫌いだった…」
「良い名だぞ…」
「でも…好きになる…」
康太は一生の所から着替えを持って行くと…榊原が支度をしていた
康太は蓮に服を着せた
「康太…恥ずかしいってば…」
服を着せられ…蓮は顔を赤らめた
「生まれたての赤ちゃんだろ?」
笑って康太は服を着せる手を…止めなかった
服を着せられ…部屋を出ると…一階まで降りた
すると、外に出ると一生達が待ち構えていた
一生は「蓮、おはよー」と蓮を抱き締めてから、力哉の車に乗り込んだ
聡一郎も「蓮、おはよう御座います」と言い
隼人は「蓮、お早うなのだ!」と頬にキスした
慎一は「蓮、おはよう御座います!」と抱き締め
全員が車に乗り込んだ
康太に背中を押され…蓮も車に乗り込んだ
康太と榊原が車に乗り込み、力哉は車を出した
力哉は「飛鳥井建設で良いんですよね?」と尋ねた
「おう!頼むわ」
「蓮、今晩から全員の所に泊まるか?」
「え…!」
「怖がるな…俺の仲間は…皆…傷を抱えて…生きている
聡一郎は…蓮より…やるせねぇぞ
血の繋がった父親に…犯されててな…繋がれて育った…
一生が助けた時には…廃人一歩手前だった…
バラバラの聡一郎を戻したのは…一生だ
この男も…恋人と長続きしなくてな…自虐的に…生きていた…」
蓮は…えっ…と言う顔をして…聡一郎を見詰めた
混じりっ毛のない……金髪に…青い目が…日本人でないのを…物語っていた
「傷は癒える…癒えねぇ傷はねぇんだよ」
「康太…」
蓮は…康太…と呟いた
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