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第57話 乱世

翌朝、康太はスーツに身を包み、キツい瞳をしていた 皮肉に嗤い、戦闘体勢に入っていた 「伊織、オレは今日はトナミだ…」 「解ってます!トナミ海運には、僕も共に行きます! 君に誰も…触れさせなどしません!」 榊原はトナミで…康太が襲われた事を忘れてなかった 「伊織も行くのか?」 「ええ。僕は…同じ過ちは繰り返したくない! 君をトナミに行かせて…仕事など手に着ません!」 「なら、来れば良い…その目で乱世を見届けてやると良い…」 榊原は何も言わず…微笑んだ 朝食を終え、応接間に行くと一生と聡一郎、隼人に慎一が待ち構えていた 一生は康太を見ると不敵に笑った 「行くかよ?」 「おう!行くぜ!革命を起こすんだ! 甘い事言ってる奴は…薙ぎ倒して…進めねぇとな…」 「お前の前には…猫の子一匹足りとも歩かせねぇ! 総て俺等が…排除する…だからお前は…立ち止まるな! 突き進め…止まるな… お前を止めねぇ為ならこの命…差し出してやるぜ!」と一生は康太の胸を軽く叩いた 聡一郎も康太の胸を軽く叩いた 「僕も行くよ康太…! お前の歩みを…止める奴は…僕等が阻止する 僕は血ヘド吐いたとしても…頭脳を回転しまくるよ! 僕は飛鳥井康太の為に在る! 何があっても…どんな事が起きようとも… 僕等は…お前を守る…」 隼人は大人の男の顔をして…不敵に嗤う 「オレ様も、康太を守るのだ… オレ様の命に変えても…康太を守るのだ! 康太は立ち止まるな!絶対に止まるな! お前の歩く道を邪魔するのなら…オレ様はこの命懸けて…排除する! お前を守ると決めたのだ! 逝く時は一緒だ!我等四悪童は…共に在る!」 と、康太の胸を軽く叩いた 慎一も覚悟を決めた瞳で康太を見た 「我が主…飛鳥井康太… 貴方と俺は共に在る… そう決めて…やっと貴方の側で生きられる 貴方の為なら…この命…見事に散らして… 貴方の役に立ち…散る決意です! 共に逝きましょう…主…俺は貴方の為に生きている!」 と康太の胸を軽く叩いた… 「行くぜ!オレは共に在る負けねぇ! お前等がオレがいて…負ける筈ねぇじゃねぇかよ!」 康太は…皆に世を向けると… 応接間のドアを開けて… 飛鳥井の外に出た 康太は…空を仰ぐ… 「それでもオレは…行かねばならねぇ…」 『行くが良い…お前の行く先は…乱世の世に在る… 気を抜けば…斬りつけられ…お前の負けになる… 心して行くが良い…俺も共にお前と逝くから…行け!』 康太は…天を仰ぎ…笑うと… 吹っ切るように…歩き出した 風を切って…歩く…その歩みは確かで… 果てへと続いていた 駐車場に行くと、榊原の車に康太と隼人は乗り込んだ 慎一が運転する車に、一生と聡一郎が乗り込んだ… トナミ海運に車は向かう… 康太は…戸浪に電話を入れた 「戸浪海里、約束の時だ!」 『はい!解っております!』 「戸浪海里、飛鳥井家 真贋が行くのだ! 解っているな?」 『解っております! 飛鳥井家 真贋 飛鳥井康太…貴方がおいでになる事を!』 「オレが出向いてやるんだ! 社員一同…俺を出迎えさせろ! 遊びに行くんじゃねぇ…仕事をするんだからな!」 『解りました!後何分で来られますか?』 「伊織、後何分で着く?」 康太に問いかけられ、榊原は 「後5分位で着きます!」と答えた 「戸浪、5分だ!そしたらお前の会社は乱世に突入する! 今日のオレ等は凄いぜ…半端な想いで行く訳じゃねぇ…」 『解っております!では、社員一同、貴方をお出迎えさせて戴きます!』 戸浪は、慌てて電話を切った そして、田代に社員を飛鳥井家 真贋を出迎える為に、会社の外に出しなさい!と指示した それこそが……康太の目論見とも知らず…田代は慌てて社内アナウンスを入れて、各部署の頭に指示を出した トナミ海運の駐車場に車が停まると… 社員は…康太達を出迎えて、社外に出ていた 車から降りた康太の前に戸浪海里が出迎え、深々と頭を下げた 「飛鳥井家 真贋 飛鳥井康太です! 社員は…全員出てますか?」 戸浪は問われて…驚いた 「出ております!」 「そうですか。では、社内には一人も残ってませんね! 警備員の方、正面玄関を封鎖して下さい! そして、出入り口には警備員を配置して、出て来た奴を、捕まえて下さい!」 康太の強硬さに…戸浪は眉を顰めた… 「戸浪社長、オレと社内に入りなさい! 貴方が社員全員と言うなら、オレと一緒に来なさい! 社員は此処で待機しなさい! 動くなら…解雇の対象になります! この会社の人事の一任はオレにある! 違いますか?戸浪社長? その為にオレを呼ばれた訳ではないのですか?」 戸浪は康太に深々と頭を下げた 「トナミ海運の…人事の一任は飛鳥井家 真贋 飛鳥井康太、貴方が決める! 明日のトナミを導くのは…総て貴方に託しました!」 社長の言葉を…社員は…黙って聞いていた 「社内に残っている者は全員解雇! それで文句は有りませんね! 会社の通達を無視する者は、会社に不要! 謂わば…これは見せしめだ! 会社の統制を取るために…捨て駒になれば良い! 会社の指示を聞けぬなら、その者の果ては解雇! 会社は社長の指示の元に有らねばならぬ! 単独な行動を許せば指示系統が…不確かになる その不確かを利用して派閥なんて作り…会社を混乱させる 100人規模のリストラを敢行する! オレの言うことに従えなき者は斬る! 戸浪海里!オレを社内へ連れて行け! 警備員は、社員の同行をビデオで撮影な!」 警備員は「了解してます!」とビデオを社員に向けた そして一人の警備員が康太の前に出た 「こちらへ、どうぞ!」と康太を案内して…正面玄関の鍵を開けた 康太達が入り、戸浪と秘書が入ると、警備員は、内から施錠をした… 静まり返った社内に…靴音だけが響く 「戸浪、社内に何人いるか解るか?」 康太は若旦那…でなく、戸浪…と呼ぶ それこそが、仕事をしている…使い分けなのだと…戸浪は知った 「解りません…真贋にはお分かりですか?」 「……質問を返すな!お前に何人いるか…聞いている!」 「2、3…人?位でしょうか…」 「派閥の弊害が…どれ程か…お前の目で見ねぇとな…お前は信じねぇからな…」 康太は戸浪を見上げて…嗤った 社長通達にも関わらず…各部署で社員は仕事していた 戸浪が慌てて部署に入り 「君達は、社内通達を無視して何故仕事をしているんです?」 社長が現れたのに、社員は知らん顔で仕事をしていた 康太は口の端を吊り上げて嗤う 「田代、解雇通告を用意しろ!」 「………はい。今ですか?」 「後で渡して効果後あるなら…後にしてやるが?」 康太に言われて慌てて田代は解雇通告を作る 「この部署にいる奴は解雇な! 当然、この部署の頭は解雇だ! 文句も申し立ても聞く耳はねぇ!」 部署の社員は…唖然と…次第に青褪めて行く 部屋の奥から責任者らしき者が…出て来て 康太の前に立った 「何の権利があって…そんな暴挙に出られるのだ! 社員の人権を蹂躙している!」 「社員たるもの、社長の言葉は絶対じゃねぇのか? 何時からトナミは部長クラスの奴の言葉が絶対になってんだ? ふざけるな!自分の身分を弁えろ!」 康太は…言い放った! だが責任者らしき男は引き下がらなかった 「他の会社の奴がでしゃばって出て来て我が物顔で、暴挙に出ている方が…おかしい 貴方の方こそ自分の身分を弁えなさい!」 「解雇は決定だ!暴挙だろうが横暴だろうが…好き勝手に言ってろ! 解雇は撤回しねぇ…お前達は明日から会社に来なくて良い!」 部長らしき男が康太に詰め寄ると… すかさず、一生と慎一が康太の前に出て 榊原が康太を背中に隠した… 聡一郎と隼人が…一生と慎一の少し後ろに立って…康太の回りに壁が出来る… 一生が「飛鳥井康太に近寄るな!」と叫んだ 榊原が「社長の言葉を聞けぬ社員など不要でしょ?」と皮肉に笑った 聡一郎が「総ては決め事!違えは出来ぬ!」と叫んだ 隼人が「康太に手を出せば…お前は確実に仕留めるのだ!」と宣言した 慎一は黙って…部長を睨み付けていた 田代が解雇通告を手にして、一人一人に手渡した 部長は…怒りで震える 「何故!解雇されねばならぬ!」 と叫んだ 「何故?社長の言葉を聞かねぇ奴など不要だからだ! この会社の頂点の通達を聞けぬ者など、トナミ海運には不要だ!去れ!」 と、康太は叫んだ! 康太は榊原の背中を押し退け…一生を押し退け…部長の前姿を見せた 「この行為はスケープゴートだ! 見せしめだ!みせしめには生け贄がいる! 大々的に恐怖を植え付けて…矯正すんだよ その為に必要な行為だ! 社長の言葉を聞かなかった時点で… お前たちの明日はねぇんだよ!」 キッパリと言い放った… 戸浪も…田代も…動けなかった… 真贋を出迎えさせろ…から始まっていた… トナミ海運の矯正は…始まっていたのだ 何とも…手際の良さ… 総て計算され…戦略と策略の上に成り立つ…現実… 警備員との打ち合わせも…連携も出来ていて… 何時打ち合わせをしたのだ? 何故…康太の言葉を寸分違わず動くのか… 総てが…決められた…上の現実だとしたら… あまりにも緻密で…無駄がない… 「戸浪、コイツ等は何してたか解るか?」 康太に問いかけられ戸浪は… 「仕事ですか…?」 と、答えた 「他の部署を…失墜させる為に…動くのを仕事と言うのか… そうか…勉強になった… だがな戸浪、それは会社の不利益にしかならねぇんだぞ!」 戸浪は…言葉もなかった… 「派閥で勢力を伸ばすには…敵対してる派閥を潰さねぇとな! それを社長の言葉を聞く事なく、コイツ等はやってんだよ! チャンス!とばかりに喜んでやってる!」 康太は前置きをしてから…戸浪に問い掛けた 「戸浪海里!お前はそんな社員が必要か?」 戸浪は…観念した 「必要では御座いません!」 「だろ?損失を穴埋めして隠して…誤魔化して…それでも足を引っ張り合う奴なんて社員にはしとけねぇよな!」 「はい!」 戸浪は姿勢を正し、康太に答えた 「戸浪海里!自らの手で粛清しろ! 慎一、この部署の足の引っ張り合いの証拠書類をプレゼントして差し上げろ!」 慎一は鞄の中を確認して…取り出すと戸浪に渡した 「これは?」 慎一は「この部署の社員を解雇出来るであろう書類ですよ! 我が主は証拠もなく動きません!」と戸浪に説明した 戸浪は…書類に目を通し…康太を見た 他の部署を潰す為に…会社に損失を出していたのだ これが続けば…トナミ海運の信用は失墜する 戸浪は…田代に書類を渡した 田代はそれを見て…爆笑した 「部長!貴方の敗けですよ! そもそも飛鳥井家 真贋を敵に回して生き残ろうとなんて、考えが甘い!」 田代は…部長に書類を渡した 部長は「なっ!…何故!」と驚き…失墜して行く 「戸浪海里、解雇理由は十分だろ! 一旦全員解雇だ!続けたいなら…雇用試験を受け直せ! トナミ海運は、雇用能力制になる! 無能な人間は…今回助かっても…解雇対象だ 仕事をする! 給料をもらう! それは自分の為だろ! ならば会社で仕事をする意味を知れ! 会社のトップは戸浪海里! トップの声が聞こえない奴はこの会社から去れ!以上!慎一、一生、聡一郎、PCをサーバーダウンさせろ!」 康太の命令に、慎一、一生、聡一郎は机のPCを落として行く 再起動出来なくさせて、次の部署に行く 次の部署の人間はさっきの騒動を見ていて… 素直に従っていた 解雇を告げた社員は…70人位で、康太の予想通りの結末となった 補強の為、上乗せして入社させて100人 狙い通りの結果となった 解雇通告を受けた社員は…会社を出て行かさせられた! 解雇通告を受けた社員が…強制帰還させられた後に…社員を戻し…整列させた 整列した社員の前に康太は立ち…皮肉に笑った 「取り敢えず、第一ステージを生き残った社員の皆さん、お疲れ様でした! トナミ海運は、今日この日から、社員強化のために教育と試験を行います! それで更に社員を選別する! 社員の能力検定試験を行い、社員の方の能力を推し量ります そして、その能力に合った、ポジションや給料を決める! 今、役職が着いていても、試験で低ければ、役職は剥奪します! 今、何の役職が着いてなくても、能力が高ければ…役職はつく! 完全能力制に、トナミ海運もなる! 役職や派閥など…この会社には不要! そんな、下らない事をしてる暇に仕事をしろ! 後、足の引っ張り合いをした部署の損失は退職金から引く! 明日のトナミの為に必要な改革だ! 文句のある者は去れ! 田代、能力試験の用紙は、進藤から貰って来たかよ!」 「はい。進藤さんが、トナミの会社に合った試験を作ってくださいました!」 「ならば、社長室の隣の会議室に数人ずつ連れて試験を受けさせろ! 残りは仕事をさせろ!」 田代は…解りました…と言い、試験の人間と仕事の人間と振り分けた 康太は唖然とする戸浪を引っ張って、社長室へと向かった 社長室のソファーに座り、康太は戸浪に問いかけた 「戸浪、俺の秘書から名簿は貰って確かめたか?」 「はい。貴方の秘書から名簿を貰って確かめました! 直ぐにでも即戦力になります!」 「でもな、戸浪…即戦力になってもな、仕事をさせねぇ…汚ねぇ事をやられたら… そいつ等は…仕事なんて出来ずに…会社を辞めるぞ… 飛鳥井がそうだ!改革の後が…改革を始める前より難しい…… 後は…内部の事だからな…オレは簡単に介入出来ねぇだろしな…」 「解っております…康太…少し衝撃が…強すぎて…」 戸浪は…ショックが大きかった まさか…自分の会社の社員が…社長である自分の言葉すら聞かなくなる日があるとは…思ってすらいなかったからだ… 康太は…戸浪を抱き寄せた… 「戸浪海里!オレの言葉は聞こえてるか?」 「………はい。」 「現実を見ろ!真実に目を向けろ! 今起こってる事は…真実だ!夢じゃねぇ!」 「解っております…」 「嫌…お前は解っちゃいねぇ…頭では解りたくねぇんだよ…」 「………そうです。貴方の言う通りです…」 「認めて…先に進め…世界に誇れるトナミ海運になれ!」 戸浪は…頷いた… 「康太…貴方はこんな想いをして…改革をされたのですね… 貴方の…進んだ…道なのに…私は…躊躇して…情けないです」 「人を切る時に…情けをかければ…迷いが出る 情け容赦なく…なんてな…本当は無理なんだよ…でも進まねば…明日には繋がらねぇ… 心を鬼にして行くしかねぇんだ…」 腕の中の康太は……やはり細く小さい… 社員の前で立っていた康太は…存在感も…威厳もあった… 誰よりも大きく…越えられない…姿だった… 戸浪は…康太の背中に腕を回し…抱き締めた 「私は…貴方の…想いを寸分違わず…行きます… 貴方が敷いてくれた…改革の道を…突き進みます…」 「……明日へと続く…為だからな…」 「ええ…私は…もう迷いません!」 康太を離した戸浪は…覚悟の顔をして…… 揺るぎない瞳を康太に向けた トナミ海運の社員全員に能力試験を受けさせ その採点は…進藤がやる 田代が進藤の元へと試験用紙を持って行く事となる 朝から改革を進め、試験を受けさせて、康太は夜までトナミ海運に詰めていた 社長室から見える…海を見ていた… 日か落ちても…康太はずっと水平線の彼方を見ていた… 榊原が康太の瞳を閉じさせて…膝に抱き上げるまで…ずっと果てを見ていた その日のスケジュールが終わるまで…康太は戸浪にいて… 全員の試験が終わると…康太は立ち上がった 「田代、答案用紙は慎一に渡せ!」 「え?私が…持って行きます!」 「田代…」 「はい?何ですか?」 「帰りは護衛を着けて帰れ…」 「え!まぢですか!」 「だから、慎一が持って帰る…」 「そんな事したら…貴方が…危ない…」 康太は笑った 「田代!持って来い!」 田代走って…答案用紙を取りに行った そして持ち帰ると…慎一に渡した 康太は立ち上がると 「戸浪海里、この答案が出来たら…また来る 気を抜くなよ…気を抜けば…改革は崩壊する このまま進むしかねぇんだ!」 「解っております!」 「何かあれば…呼べ! 予定外だと…来れるか解らねぇがな… 誰かがオレの代わりに動いてくれる筈だ!」 「その時は…宜しくお願い致します…」 康太は背を向けると…歩き出した 社長室の外へと出て…エレベーターに乗り込んだ そして…一階に行き…外へと出た 駐車場で車に乗り込むと…トナミ海運を後にした 飛鳥井の家に帰ると、康太は早々に寝室へ向かい… スーツを脱ぎ捨て…ベッドにダイブした…

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