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第64話 軌道

キッチンに降りて行くと…一生達がいるだけで…飛鳥井の家族は一人もいなかった 榊原は「………?誰も帰ってないのですか?」と康太に問いかけた 今まで…こんな事はなかったから… 「当分誰も帰らねぇ…そう言う段取りは出来てる」 康太が動くと言う事は…家族に一番に被害が行く…と言う事なのだろう… 触手を伸ばされる前に…手を打つ… でないと…康太は動きを封じられてしまうから… 榊原は「そうですか…」と言い瞳を閉じた そして…ある想いが浮かぶ 「ひょっとして…榊原の…」 言いかけて…榊原は押し黙る 飛鳥井同様…清四郎達も康太の家族同然だと…記者会見で知らしめたようなものだから… 「清四郎さん達にも…消えてもらった 人質にされたら…オレは動けねぇかんな! オレの動きを邪魔する存在は…消えてもらう! でねぇと闘えねぇかんな!」 榊原は…刹那の選択する康太が…誰よりも傷付いて…遣りたくないのを知っている 本当は…そんな事などしたくはない だけど…動く為に…決断を求められたら… 下すしか…他はないのだ… 相手は…手段も選ばないのだから…… 「ならば、君は思う存分動けば良い! 僕は君と共に行きます… 何があっても…離れません! 逝く時は共に…そうてしょう?康太…」 「あぁ。共に行こう…共に逝こう…」 康太は榊原の背を掻き抱いた 飛鳥井を乱世に引きずり込んだ… ならば…可能性を読み…動く… 例え…それが一番やりたくない事でも… やらねばならないのだ 人質に取られたら…相手の要求を飲むしかない 動けず…相手に良いようにされたら… 明日の飛鳥井は築けはしない… そうなる前に…手を打たねばならないのだ… 飛鳥井康太の弱点 それは伴侶の榊原伊織 その他なら…飛鳥井の家族や、伴侶の身内を狙うだろう… 確実に…言うことを聞かせるなら… 相手の弱味は…必要だ… 康太はそれを一番解っていて… 誰よりも的確に動く… その先を詠み動かねば…結果は…敗けへと導かれてしまう そうならない為なら… 排除すべきものは…排除する… それが現実だった それが目の前に突き付けられた… 現実だった 康太は…果てを見詰めた…… 乱世へと続く…果てを… 「明日の飛鳥井へ続く道を確実にする まだまだ…道程は…長いけど…布石を打たねば…先へと繋げられない… オレは打って出る……己の身は…自分で守れ…解ったな!」 手段を選ばないなら… 狙われる… それが現実だった… 康太がその台詞を吐きたくないのは… 皆が解っていた 守りたい… 愛する人や…仲間を…守りたい… だけど、それが出来ぬなら… 共に闘うしかない… 共に行くしかない… 共に在る為に…… 我等は…闘う 一生は「この家に…押し込んでくる…事はあるのかよ?」と問い掛けた 「この家には入れねぇ…弥勒の結界が強化してあるかんな! 宅配物も今後は一切、届けさせねぇようにしてある… もし届いたら…それは爆弾かもな…警察に届けろ…解ったな!」 聡一郎は息を飲んだ 戦争だ… 目の前で…戦が始まるのだ… 聡一郎は「ならば、一人にならない方が良いですね…」と思案した 「一緒だよ…二人でいたって…拉致られた ら、もろともだ… 動いているのは特殊部隊上がりの奴等だ… しかもそいつ等…この日本で好き勝手やっても…多少の融通を受けれる手筈を整えてる… 周防の…息の掛かってる奴に…接触を図ったと…三木から連絡が入った… 多分動くぜ…向こうも…」 榊原は「何時……三木から?」と呟いた 「三木は常に…オレに連絡とってんだよ! オレと…三木しか知らねぇ連絡方法でな…」 詳しい事までは…話さなかった それでも納得出来た… 三木は…康太の駒なのだから… 「勝也が…警護を着けてくれた…何かあれば秘密裏に動いて…救い出してくれる手筈も整えてある…好き勝手にさせるかよ! オレに刃向ければ…ただではおかねぇぜ! まぁ取り敢えず…普通で過ごすとするか」 そんな事を聞いて…普通で過ごすのは… 至難技…だろうが…と一生はボヤいた 陵介は康太や榊原…一生達へ謝った 「すまない!俺の所為で…こんな……」 涙を堪えて泣く陵介の肩を…一生は叩いた 「陵介、走り出した定めはもう止められねぇんだ! 悔やむなら暇があるなら、明日を信じて動くことを考えろ!」 一生は…陵介を叱咤した 康太は笑って… 「何時来るか解らねぇのを待つ程…下らねぇ事はねぇかんな! 当面は普通で構わねぇだろ?」と答えた この夜は…寝る事にした 康太は明日も大学に行くと告げ… 榊原と寝室に…引き上げた 寝室に戻り…服を脱いでベッドに入ると 榊原は康太を抱き締めた 「康太…勝手に…誘拐されたりしないで下さい…… 約束して下さい…僕と…」 康太は榊原の胸に顔を埋め… 「伊織…お前が側にいるのに…わざわざ誘拐されに行ったりしねぇもんよー…」 「君は時々…無鉄砲で…行きますからね…」 「それでも…オレは還る…お前の腕に… オレは必ず還る…オレはお前のもんだろ?」 「そうですよ。君の総ては僕のものです 髪の毛一筋さえ…誰にもくれてやりません! 僕の愛する康太を…誰にもあげません!」 「伊織もオレのもんだ! 総てオレのもんだ…誰にも渡さねぇ! 盗られるなら…オレはお前の息の根を止める…未来永劫…オレのものだ…」 榊原は康太を強く抱き締めた 「康太…何処へ行っても…僕に還りなさい」 「伊織に還らず…オレは生きていけねぇじゃねぇかよ! それに今回は…自らの誘拐されに行く気はねぇんだよ! その為に…布石は打って来た…」 何かするのは解るが…康太は聞いても答えない 果てが変わる事は許されない… それが定めだから… 「愛してます…愛してる康太…」 「伊織…オレも愛してる!」 榊原は康太の唇に…軽くキスした 康太は榊原の背に腕を回し…抱き締めた 瞳を閉じて…愛する人の匂いを吸う… そして……闘う前の休息を取る 愛する男を抱き締め…康太は眠りに落ちた 榊原は康太を離す事なく…眠むる 愛しているから…心配になる 愛しているから…傷付いて欲しくない… 愛しているから… 榊原の心配は尽きない… だが…何時の世も…康太は歩みを止めない 明日の飛鳥井へ…続く歩みを止めない… それが飛鳥井に転生を繰り返す… 者の使命だから… 榊原は何時の世も…側にいて… その生き様を見てきた… そして共に…幾度の転生を繰り返してきた… 悔いなく生きよう 明日の飛鳥井へ繋がるなら… 悔いなく…その命…燃焼すると良い 側にいて…それを見守って…行きます 何があっても…共に逝く… それが久遠の伴侶の定めだと…解っているから…

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