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第65話 策略
朝…目を醒ますと…康太は
「さて、動くとするか…」と言い立ち上がった
「今日の服は?」
「動きやすいのが良いな…」
カジュアルでいて動きやすい服をチョイスして榊原は康太に服を着せて行く
そして自分も動きやすい服を選んで着ると…支度を終わらせた
康太を促し…キッチンに行くと全員揃っていた
康太は慎一にご飯を着けて貰うと、ガツガツと食べ始めた
「外に出た瞬間から尾行され隙があれば、狙われると思っておけ!」
康太は沢庵を食べながら…皆に告げる
一生は覚悟は出来てとばかりに…「了解!」と答えた
聡一郎が「狙われたら…バラバラになりますか?」と疑問を問い掛けた
「無理だ…逃げ切れる相手じゃねぇ!
無駄に…抵抗はするな…
殺さなければ…どんな手段を使っても良い…と言われてる奴等だ
動きを封じる為にどんな手段も取るかんな!抵抗するな相手はプロだ…叶わねぇ…」
プロ…と言う言葉に…皆は…気を引き閉めた
榊原は「ならば…無抵抗で…向こうの言うことを聞け…と?」と問い掛けた
「嫌…向こうの裏をかく!
みすみす…捕まりに行くかよ!」
康太の言葉に…皆納得した
康太はニカッと笑って、慎一、と呼んだ
慎一は「はい。」と答え全員に…ワイヤレスの小型の受信用のイヤホンを渡した
「オレの指示は、このイヤホンに流す
気取られるな…解ったな?」
康太はワイヤレスマイクを…目立たない場所に装着した
一生達はイヤホンを耳に装着した
榊原も耳にイヤホンを装着し、身を引き締めた
「行くぜ!」
康太の髪が風に靡いていた
一生は、おう!と言い康太より先に玄関に向かった
康太はその後に続き…榊原も…聡一郎、隼人と共に続いた
慎一は…そんな康太達の最後に続いた
前を守るのは一生
後ろを守るのは慎一
いつの間にか…番犬は…主を守る為のポジションを決めていた
飛鳥井の家を出ると…気配を感じ
康太は不敵に嗤った
康太は普段と変わりなく車の助手席に乗り込むと…榊原の肩に頭を乗せた
榊原の車に一生と陵介が乗り込み
慎一の車に聡一郎と隼人が乗り込んだ
「伊織、取り敢えず…鎌倉までドライブに行こうぜ!」
康太の言葉に…榊原は「鎌倉街道を走れば良いのですか?」と尋ねた
「そう。このまま大学に行くとな…待ち構えられてて…相手の思う壺だ…
大学に行く前の…交通量の少ない道路に…差し掛かった途端…
挟み撃ちされて…捕まりに行く様なもんだ…
わざわざ捕まりに行くバカはいねぇだろ?裏をかく
大挙して…待ち構えてる場所には手配は回してある…
家の回りにいる奴等は、こっちから誘き出すんだよ!」
榊原は納得した
此処は住宅街…大きな声を出せば…人が出て来る…
飛鳥井に取り付けられた防犯カメラも…気安く手出しは出来ない要因だった
「慎一、鎌倉まで行くぞ。後ろを着いてこい!」
康太はマイクに向かって言葉を発した
慎一は康太の方を向いて頷いた
「伊織、車を出せ…」
榊原はエンジンをかけ…車を走らせた
慎一はその後に続いて…車を走らせた
国道に出て、大学と反対の方へ走り出すと
待ち構えていた奴等は慌てて、榊原の車を追いかけた
鎌倉街道を走り出すと…慎一の車の後ろにピタッと着けて走る車があった
5台の車が…康太達を追いかけ…走る
康太は携帯を取り出すると
後続車に見えない様に…喋り出した
「オレ等の車の後ろを着けて来る車を逃がさねぇようにしてくれ」と指示を出した
誰に電話なのかは解らない
相手が喋る前に通話を切ってしまうから…
電話を切って再び…何処かへ電話を入れる
「もう少しで、目的地に到着するぜ!
オレ等の後ろに5台、着いてきてる
ネズミ一匹捕り逃すな!
後、大学の近くの敷地に…待ち受ける奴も捕まえておいてくれ!」
『大学の方は、もう捕まえて…引っ張っておいた!』
電話の相手は…兵藤貴史…だった
「流石…使える男だ!」
と、笑った
『向こうで待ち受けてやるよ!』
電話はそう言い…切れた
榊原は「貴史ですか?」と尋ねた
「そう。美緒が叔父を貸してやると言ってくれたからな
貴史を動かして…警視総監も…動かして…ついでに総理大臣も動かして外交で釘を刺してやろうとかと思ってな…
やるなら、とことん…それが鉄則だかんな!」
康太は嗤った
「叩けば埃の立つ奴だろうしな…
飛鳥井家 真贋がそんなに簡単に…陥れられると思われたくもねぇかんな!
さぁ、敵を誘き出すぜぇ!
行くぜ伊織!」
康太は行き先をナビに行き先を打ち込んだ
そして、慎一のナビに転送した
「伊織、走れ」
康太が言うと榊原はかなりのスピードで車を走らせた
その後を慎一が着いて走る
行き先は…鎌倉にある飛鳥井建設の資材置き場
そこには…兵藤が待ち構えて待っていた
罠を張り巡らせ…敵を誘き出す
敵の標的は樋口陵介!
陵介を捕まえて…子供の居場所を掴む!
そして子供を…本国に連れ帰り…遺産を相続させる…
その為だけに日本に送り込まれてきた!
日本で多少の融通が通せる様に……
パイプのある議員に頼んだ
向こうは快諾してくれ、何があっても揉み消してもらえる
が……交換条件を出された…
飛鳥井家 真贋…飛鳥井康太を…捕まえて連れてこい…と条件に出された
協力してもらう見返りに
差し出さねばならぬ…獲物
依頼を受けたのは…アメリカでも大手のエージェント
退役軍人上がりの人間を使った…プロ集団
日本に行く様に指令を受け、やって来た
傭兵上がりの人間は仕事を完遂する為だけに…
陵介や康太を追い詰める…
狙った標的は…必ず仕留める!
それが、我等エージェントの鉄則
失敗は即ち…己の命を…賭す結果となる!
命を懸けて…仕事を完遂する!
それだけの為に、我等は仕事をする!
追い詰めて…
追い詰めて…
仕留める…
他の誰よりも…早く
彼等と接触せねばならぬ!
それが……
日本に来た…
本当の目的なのだから…
本当の…依頼の遂行
今は亡き…依頼人からの…依頼
それを遂行する為だけに…
日本に来たのだから…
一番…先頭を走る車は…慎一の車の真後ろを…ピタッと着けて走り続けた
鎌倉街道を突っ切って…海岸沿いに走る
一旦海岸沿いに出て…
山を上る
山の中腹の広大な土地に…飛鳥井建設の資材置き場はある
榊原はかなりのスピードで車を走ら資材置き場の中へ入って行く
その後ろに慎一の車も続き…
その後ろに…康太達を狙う車が続いた
誘き出されているのを…男は気付いていた
そして誘き出されて着いていったら…
その先の顛末も…薄々気付いていた
それでも…男は…標的の車を追った
他に任せる…訳にはいかなかったから…
わざわざ…自ら…囚われの身になりに行くとは…
男は…自嘲を漏らした
『クロフォード…私の…最期の依頼です…
聞いて下さい…私が…死した後に…もし…』
あの方の…依頼を…完遂する為だけに…
日本に来た
樋口陵介…から、桜子を奪回して、秘密裏に本国に連れ帰り…遺産相続を受けさせる…
依頼が来たのは…2週間前だった…
男は…その仕事を引き受けた…
そして……この身を賭しても…
あの人の…依頼は…完遂するつもりで
日本にやって来た…
……その為だけに…来たのだから…
「伊織!奥に行ったら車を停めろ!」
康太は榊原に指示を出した
康太の言葉通り…突き当たりまで車を走らせ……
車を停めた
慎一はその後に続き…車を停めた
ゆっくりとした動作で…康太は車を降りた
そして……慎一の後ろの車に目をやると嗤った
髪を靡かせ唇の端を吊り上げ嗤う
待ち構えられてるのは…
やはり…こっちだと……
気づいた時には
既に…康太の手中に納められていた
傭兵上がりの男は…
ここまでか…と観念した
車から一生が降り、陵介も降りた
男の目の前に
樋口陵介…が立っていた
無事を確かめられた…それだけで良い…
事が公になれば…
本国の…桜子の身内も…
簡単には手を出せなくなる…
ならば…それで良い
それなら…此処で命を落としても…
仕事は完遂した事になる…
『マリアンヌお嬢様…貴方の…愛する子供に…危害がいかぬのなら…この命捨てる覚悟は…とうに出来ています…
マリアンヌお嬢様…貴方の子供は…守ります』
男は…心の中で呟き…
祈った
そして、潔く負けは認めて…
車から降り…
康太の前に姿を見せた
康太はその姿を見て…ニャッと嗤った
男の…後ろに続いた車は……
待ち構えていた…警官に…塞き止められ…
車を停止させられ…無理矢理車から下ろされていた
男は…
康太の顔を……見ていた
康太は男を見上げ嗤う
「オレに何かすれば…お前の頭をぶち抜くぜ!
解ってんだろ?」
男は…両手をあげた
「解ってます!
回りを取り囲むように配置された…銃口は…私を狙っている…。」
「お利口さんじゃねぇかよ?」
「蜂の巣は…趣味ではないので…」
「手を引け!」
「……請け負った仕事を…完遂せねば…
こちらの命も…危ないのに?」
「手を引くなら…お前の本来の…目的を完遂させてやっても良いぞ…」
康太の言葉に…男は顔色を変えた
飛鳥井康太に関する資料を手渡された
仕事前に…相手の長所や…情報を頭に入れねばならぬ
その瞳の驚異も書かれていた…
その瞳…国をも変える力なり…
と言う…資料の通り…嘘偽りは…
通用しないと言う訳か…
男は…真っ直ぐと康太を見た
「私の本来の依頼が完遂出来るのでしたら…
私は…手を引きます…
どうぞ…貴方の手で…突き出すか…トドメを刺して下さい!」
男が言うと…康太は
「クロフォード…本来の依頼の完遂なら…
お前は桜子と奏のボディーガードになって守らねぇと…完遂にはならねぇぞ!」
康太はそう言い笑い飛ばした
「それでは…私は本国に帰れないじゃないですか…」
男は…至極残念そうに…言葉にした
「でもな…ちゃんと見届けて…と言うのが依頼人の…言葉なら…お前は桜子と奏の成人までは…側にいねぇと…完遂にはならねぇぞ?違うのかよ?」
男は…うっ!と言葉に詰まった…
「クロ」
名前が…短くなってませんか?
「………何故…クロ…ですか?」
「クロフォードだろ?なら、クロな」
「それは……ちょっと…」
ちょっとじゃなく…嫌だ…
「なら、ルー」
「何故…ルー…ですか?」
「ルーファス・クロフォード
お前の名前だろ?長すぎなんだよ…」
自己紹介してないのに…フルネームで言われて…
男は躊躇する
流石…
交換条件を出してまで欲しがる…
その訳が…解る
生かしておけば…驚異なり
懐に入れれば…一国を動かす力なり…
こんな相手に…勝てる筈などないではないか…
男は…苦笑した
「どっちで、呼ばれてぇ?ルー?クロ?」
一生は…そりゃあ…どっちも嫌でっしゃろ…と、心の中で呟く…
康太のネーミングセンスのなさは…
流石だわ…一生は康太しか思い付かないだろうな…と思い…苦笑する
男も…なんと言うネーミングセンス…
と、頭を抱えたが…呼び名など、どうでと構わない…と諦め
「どちらでも宜しいですよ…名前など…有って無いようなモノだ!」と言い捨てた
「真名…それは即ち…呪縛だ!
名を呼ぶだけで…お前を呪縛出来るぜ!
名は…人なり…人は名前を持つ…存在なり…
名は…それだけで意味が在る…呪詛なり…
お前の動きを封じる気なら…名を呼べば良い…それでお前は動きを封じられる…」
男は…驚愕の瞳で…康太を見た…
「で、どっちにするよ?」
名を知られたくなければ…呼び名を決めろ…と言う事なのだ…
「……お好きな方で…」
選ぶなんて…無理だ…
名前のセンスもない…
ならば、好きに呼ばせるしか…なかった
「なら、ルーな!」
康太はそう言い、ルーの胸を叩いた
そして、兵藤に近付いて
「話は着いた!貴史、銃口を向けるのを止めさせろ!」と、声をかけた
兵藤は、無線で…銃口を向けるのを止めろ!と指示を出した…
だけど…銃口は…向けられたまま…
その指示は聞かれる事がなかった…
「やっぱりな…」
康太は予測着いたかの様に呟いた
慎一と一生は壁になり…兵藤を車の中へと…押しやった
兵藤は車に乗り込み…窓から死角に…屈み込むと…
叔父へと電話を入れた
「このままだと…俺等は…蜂の巣になっちまう!何とかしろよ叔父貴!
銃口は向けられたままだぜ…どうするんだよ!」
と、叔父へと電話を入れた
『貴史、手は打ってある!
もうじき自衛隊が到着する…待ってろ!』
「自衛隊…ですか?」
『鎮圧にはより強い力が必要だ…
狙撃の銃口がお前達に向いてて…強硬に出られるのは…自衛隊しかない…少し待て!』
一方的に電話を切られ…兵藤は…
何が起こってるのか…解らずに苛ついた
舌打ちをして…車から出ようとするのを…
慎一と一生は阻止した
暫くすると…ヘリコプターの羽根音が響き渡った
ルーは、康太を隠す様に前へと出た…
照準が康太に向けられているのに気付いて…盾になったのだ
康太は気にするでもなく…
「この機会に…飛鳥井康太を…亡き者にしろ…と言う依頼が来てるんだよ…
だからな、どさくさに紛れて…銃口を向けたままにしてんだよ…
周防のやりそうな手だ…姑息な奴は…やはり姑息な手しか使わねぇ…と言う事だ!」
と、吐き捨てた
上空を飛び交うヘリコプターから、合図の煙幕が投下された
康太はポケットからハンカチとゴーグルを取り出すと装着した
榊原も…一生達も…同じ様に…口をハンカチ…目にはゴーグルをはめていた
慎一は…ルーにゴーグルを渡した
ルーは仕方なく…ゴーグルを装着した
すると、ヘリコプターから、催涙効果のある煙幕が…投下された…
辺りは真っ白になり
咳き込む咳が…響き渡った
ルーは康太に
「何が始まったのですか?」と尋ねた
「警視総監の命令を聞けぬ奴に粛正が下される…と言う訳だ…」
と簡単に吐き捨てた
粛正…
そこまで見通して…次の手を打つ
やはり……ただ者ではないか…
本国で渡された書類は…過言ではなかった
日本の国さえ動かす力は驚異なり……その文面が頭を掠める…
敵に回す…相手ではない……
身をもって…それを味わう…事となり
ルーは…身を引き締めた
手際良く鎮圧される頃には…視界を隠していた白い煙も消えていた
自衛隊の最高司令官が…康太の前に来て
深々と頭を下げた
「粛正は終わりました!貴方に害成す輩は捕まえました!」
ピシッと敬礼をして…言葉を述べた
「助かった…櫻庭に…礼を言っておいてくれ」
「解りました!櫻庭官房長官は、貴方に掠り傷1つ着ける者がいれば排除しろ…とのお言葉でした!」
「オレは無傷だ…今度礼に伺う…
勝也と共に伺うと…伝えておいてくれ」
康太が言うと司令官は
はっ!と足を揃え…姿勢を正し敬礼した
康太はルーを車の中に押し込むと…
「ならな!助かった」
と、片手をあげ…車に乗り込んだ
榊原の車に康太とルーと一生と陵介が乗り込み
慎一の車に、聡一郎と隼人、貴史も乗り込み…
その場を後にした…
「ルー、他の奴等は捕まった…頭を低くしていろ…」
共に来たエージェントは捕まり…ルーは康太と共に行くのは…筋が違う
それを弁えているからこそ…康太はルーの頭を低くさせた
身柄を拘束されるエージェントの横を…榊原の車は走り抜けて行く…
通り抜け…頭を上げると…ルーは息を吐き出した
車に乗り込むと…康太は…
「危うく蜂の巣になる所だった…」とボヤいた
榊原は、そんな康太の頭を撫で…
「君と共に死ねるなら…僕は本望でしたけどね…」と呟いた
康太は榊原の膝の上に頭を置いて…甘えた
「伊織、腹減った…」
「なら、飛鳥井の家に帰ったら…デリバリ頼みますか?
それとも、何か買って帰りますか?」
「デリバリで良い…」
「なら、一生、注文しておいて下さいね」
榊原は一生に仕事をふる
一生は携帯を取り出すと…ネットでデリバリの注文を始めた
康太の好みは大体解る…後は適当に頼み…
注文をする
「旦那、30分後に配達出来る様に注文したぜ!」
「康太、家に帰ったら食事にしましょう!」
康太は榊原の膝の上で…頷いた
そして、暫く走ると…寝息が聞こえた
康太は眠りに落ちていた…
愛する男の膝の上で…眠りに着いた
一生は「寝たのかよ?」と尋ねた
「寝ましたね…力を使いましたからね…」と榊原は言い…康太の頭を撫でた
飛鳥井の家に着くと、榊原は車から降りて
助手席のドアを開け…康太を抱き上げた
眠った康太を抱き上げ…一生と陵介とルーが車から降りるのを待ち…
車から降りたら…キーでロックをした
一生が走って…飛鳥井の玄関を開けに行く
慎一の車が停まると…兵藤が車から飛び降りた
「康太はどうかしたのかよ?」
心配して兵藤が駆け寄る
「緊張と空腹と…力を使ったので…寝てます」
「……病院に行かなくて良いのかよ?」
「様子を見ます」
榊原はそう言い、飛鳥井の家に康太を連れて行く
一生はルーを家の中へと連れて行く
その後に慎一達が続き…飛鳥井の家の中へと入って行った
応接間の何時もの康太の席に…
榊原は康太を抱き締めたまま座った
康太の腕が…榊原の首に伸ばされ…搦み着く
隙間もなく抱き合うカップルがいた
なのに…誰一人…気に止めず普通でいた
康太は何も言わず榊原に抱き付いていた…
だが、突然榊原から離れて、ソファーに座り直した
デリバリが運び込まれるのを察知した康太の行動は早い……
康太はテーブルの前で…涎を垂らさんばかりに…デリバリを待っていた
デリバリが運び込まれて…慎一が用意してくれるのを…
ひたすら待つ…お預けの…仔犬のような瞳に…慎一は苦笑して
「良いですよ」と声をかけた
すると…物凄い勢いで…食事を始めた
一心不乱に…食い散らかし…ガツガツ…食事を始める姿は…
欠食児童並みの食欲で…
ルーは唖然としていた
あっという間に平らげると……
榊原にプリンをもらい、上機嫌で、それを食べていた
榊原は溢れた食事の残骸を拾い…綺麗にして行く
そして、プリンを食べ終わった康太の口を拭いてやり…
榊原は静かに…自分の食事を済ませて行く
康太は慎一に淹れて貰った玉露を啜り…一息着くと
ルーファスを見た
「ルー、日本に長期滞在の手続きをしねぇとな
それとも、移住するか?」
笑いながら言うと……ルーは嫌な顔をした
「私は本国に帰れませんか?」
「桜子と奏が…来ても、その台詞が言えるのかよ?」
康太に言われ…うっ!…と息を飲んだ…
「あの御二人を…御守りしろと?」
「少なくとも…向こうが黙るまではな…」
そう言われれば…もう何も言えない
急所を心得た会話に…ルー脱帽した
ルーは切り替え…覚悟を決めた瞳を康太に向けた
「……解りました…。総ては貴方の想いのままに……」
ルーの瞳は総て受け入れていた
「陵介、飯をくったら、桜子と奏を引き取り、この近くのマンションに移れ
ルーは陵介の隣の部屋に住め。
解ったな。」
陵介は「康太…本当に世話をかけた…」と康太に謝った
「陵介、これで生活が始められるな。
スタート地点にやっと、立った…それだけだ。お前の仕事はこれからだ。そうだろ?」
「解ってる。今後は飛鳥井康太の為に動く
お前の言葉を寸分違わす…お前の為だけに動く…その為だけに還ってきた…」
康太は陵介の言葉を…優しい顔で聞き…微笑んだ
「伊織、天宮に子供をマンションに連れて来てくれ…と、頼んでくれ…」
「解りました。」
榊原は天宮に電話を掛けに行った
「慎一、マンションに案内してくれ。」
「解ってます。陵介、ルー、では、貴方達のマンションに行きますよ」
慎一が言うと、陵介とルーは立ち上がった
そして、康太に深々と頭を下げると…
慎一と共に…応接間を後にした
榊原は康太を抱き締めた
「周防の…片手はべし折ったも同然…
後は…足を折り…心臓を狙い…
動きを封じる…あと少しだ……」
康太はそう呟いた
そこまでしなければ…家族は…
家に戻せない…
その覚悟で…家から出した…
後少し……
後少しで……
周防の動きは封じれる…
そうしたら…家族まで巻き込んで
飛鳥井康太を亡き者にしようとする輩は…
当面…出ないだろう
飛鳥井建設を…我が物に…
そう狙う奴も…
当分は…
康太は…自分に言い聞かせるかの様に……
瞳を閉じ…
家族を想った…
ともだちにシェアしよう!