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第68話 想い‥

「譲…男として…生きてきた時間は苦痛の何者でもなかったか?」 「……………!っ……知っておいででしたか…」 「周防は…裏を任せる存在しか要らなかった… その為に…お前は…性別を偽り…息子として生きた…違うか?」 「違いません…」 「ならば…周防譲は死なねばならぬな」 「……!…はい。」 覚悟を決めて…長い呪縛から逃れられる瞬間に想いを馳せる… 父の期待に添う為だけに生きてきた その為だけに…生かされて来た… 「…私の命でもって‥終わらせて下さい…」 安堵の表情で…瞳を閉じる… 此処で…死ねるなら…本望だ 譲は…康太の手で…抹殺されるのを待った だが…幾ら待っても…リアクションがなく瞳を開けると… 目の前で…康太と榊原は接吻をしていた 「……え?……」 譲は…さっぱり解らなかった 一生は苦笑して 「……この二人は…何時もだ…許してやってくれ…」 と、声をかけた 「…あの……私は…始末されないのですか?」 声をかけると…榊原から唇を離す事なく… 「…殺されたいのか?」 と、身も凍る…瞳で…一瞥された 恋人と…接吻している…甘いその唇で…容赦のない瞳と言葉を向ける 康太は榊原から唇を離すと…唇の端を吊り上げ…嗤った 「オレの焔は…総てを昇華する…… その命も肉体も…全て…綺麗サッパリ…なくなる…そうなりてぇのか?」 「貴方に手を出そうとした人間です… 貴方の手で…消し去って頂けるのでしたら…本望です…」 「女に戻れ…そうしたら見逃してやる…」 「無理です…その様な生き方は…許されません…」 「周防譲…は死ぬ… そして、お前は別人になり…生きて行く気はねぇのかと…聞いている?」 「…………別人になり?」 「そう。別人になり…だ。」 「…そんな事は……無理です…」 「そもそも…周防譲…お前の方が… 存在してねぇんだよ?知らねぇのかよ?」 譲は…首を傾げた… 「お前の戸籍は…周防の愛人の…籍に入ったままだ… お前は……周防の裏の部分を引き継がせる為に…お前の母親から引き離した 周防は裏を担う…秋月にお前を渡し育てさせた… 決して表には出す気はない…… そんな存在が…周防譲…お前だ… 表に…出さぬ気はないから…戸籍などどうでも良い… 呼び名だけ与えて…自分の為に…動かす それがお前だ……お前は周防の駒だ… お前の名前は…木崎涼子…戻りてぇか?」 譲は…何も言わず… 康太を見詰め… その瞳を瞑った 「その名では…生きられません…」 「何故?」 「周防から逃れて…生きて行くのは至難の技…」 「周防にトドメを刺すと言ってもか?」 「………解放される?」 「…そうだ!」 「……ならば…私を…解き放って下さい」 「良い子だ…少し…身を隠してろ… その間に…全て終わらせてやる…そしてお前は…女として生きて行け… どうやら…お前は…」 康太は…榊原の耳元で…ゴニョゴニョ…言うと…… 榊原は康太を驚愕の瞳で見た 「嘘…」 「本当…だ!」 康太はそう言い…榊原を抱き締めた 「伊織…オレを抱き締めて…」 榊原は康太をキツく抱き締めた 「慎一、佐伯を呼び出してくれ!」 「解りました!此処へ呼び出せば宜しいですか?」 「あぁ…その時に…女の服を…持ってこさせてくれ」 「下着も…一式ですか?」 「そうだ…そして……伊織…笙を呼び出してくれ…涼子を…真矢さんに託したい…」 「解りました…では呼び出します」 榊原は康太を離すと…電話を掛けに向かった 康太は一生の耳に…耳打ちした 一生は…聡一郎や隼人、慎一に…耳打ちした 聡一郎達は…生かしておいた理由を… やっと知り納得した 暫くすると…佐伯がやって来て… 譲…嫌…涼子を見ると… 康太の面前で…スーツに手かけぬ脱がしにかかった 「ぎゃぁぁぁぁ~」 虚しく…涼子の悲鳴が響き渡った 一生は額を押さえた… 聡一郎と隼人は…そっぽを向いた 慎一は…一生の後ろに…隠れた 佐伯は…怯むことなく…涼子を脱がして行く 抵抗すると「抵抗しない方が良いですよ…」と冷静に告げると…涼子は抵抗を止めた 男物の…下着に…身を包み… 胸はサラシで…押さえてあった 佐伯はその布を取り除き… まるで悪代官が…女中の帯を…解く様に… 大胆に…布を引っ張ると…涼子はクルクル…回った… 一生は「佐伯が…悪代官に見える…」とやはり…呟いた 「母ちゃんが見たら喜びそうだな…」と康太は時代劇好きの母親を思い浮かべ…呟く 榊原は何も言わず…康太を抱き締めた 佐伯はさくさく着替えさせて行くブラジャーを着け…ボクサーパンツを脱がすと…パンティーを履かせた 涼子は諦めて…佐伯の成すが壗…だった そしてワンピースを着せ化粧を施した 短い髪を隠す様に…カツラが用意されてて…長い髪が…似合っていた 暫くすると…笙が尋ねて来た ドアをノックすると…慎一がドアを開けた 部屋に入ると… 康太が…笙の顔を見て笑っていた ゆっくり立ち上がる康太に… 笙は駆け寄り…抱き締めた 「逢いたかった…」 「ごめん…」 康太は謝った… この状況を作っているのは…自分だから… 「父さんと母さんが逢いたがってました…」 「オレも…逢いてぇな…清四郎さんや真矢さんに………そして…やっぱ… 父ちゃんに母ちゃん…瑛兄…蒼太…恵太… 悠太、じぃちゃん、京香…翔、流生、大空…太陽…音弥…北斗… 全員に…逢いてぇな…」 康太の呟きは…胸が痛む程…哀しげで… 言葉をなくした 康太の想いを誰よりも理解しているつもりだった… だけど…家族と離れて…過ごさねばならない… そんな環境に追いやった康太が…なにも感じない筈などないのに… 笙は自分の言葉を悔やんだ… 笙は、康太を抱き締めながら…部屋の中を見渡した 佐伯の顔は…見知っていた だが…佐伯の横にいる女性の顔は…見知らぬ…顔だった 「……康太…あの…彼女は?」 「涼子だ!真矢さんに預けたい… その為に…笙を呼んだ…頼めるか?」 康太の言葉に…笙は…自分の呼ばれた理由を…やっと理解した 「母さんに?」 「あぁ。真矢さんに預けたい…」 「解った…母さんに届ける」 「…笙…」 「…?何ですか?」 「涼子は…何も知らない… 教えてやってくれないか? オレは…教えてやる時間がねぇ…」 「何も知らない…とは?」 「女として生きて来なかったから… 礼儀もマナーも…何も解らないんだ」 女として生きて来なかったから… 笙は言葉を失った 「康太からの頼みなら…僕も父さんも母さんも…必ず…応えてみせます!任せてください!」 「涼子、笙だ! 我が伴侶の兄になる!」 紹介を受け…涼子は笙に深々と頭を下げた 「佐伯、力哉を呼び出してくれ… 帰ろうにも足がねぇ…」 康太が言うと…佐伯は…困った顔をした 康太はクスッと笑って 「瑛兄が来てるんだろ?」 と、問い掛けた 「はい…無理矢理…着いて参りました…」 「呼んで…瑛兄をこの部屋に呼んでくれ…」 康太は佐伯に…瑛太を呼ぶ様に頼み込んだ 佐伯は…康太に頭を下げると…部屋を出て行った 暫くするとドアがノックされ…康太は立ち上がりドアを開けに向かった ドアを開けると…瑛太が立っていて…康太を見るなり… 康太を抱き締めた… 康太を抱き締める…腕が震えていた 康太は…瑛太の背中に…腕を回した… 「康太…兄は…」 後は声にはならなかった… 康太の為に… 飛鳥井の為に… 家族は…我慢をしていた… 愛しい弟と…離れて暮らす… 刹那の時間を…過ごす辛さに…歯止めが効かなくなっていた… 「瑛兄…もう少し…待っててくれ…」 康太の言葉を受け… 瑛太は康太を離した… そして背筋を正すと深々と頭を下げた 「明日の飛鳥井へ繋ぐ為…… 兄は…総て貴方の想いのままに…受け入れて…行く覚悟です…」 飛鳥井の為… 家の為… 康太は明日へと繋げる道を作る… 明日へと築く礎となり…道なき道を歩いて行く 瑛太は胸を張り…弟の行く道を後押しする 康太は…手を伸ばし… 瑛太を抱き締めた 「瑛兄…逢いたかった…」 康太の言葉に… 離れて暮らす苦悩が伺えた… 瑛太は…力強く…弟を抱き締め 「私も……逢いたかった…」 と、心中を吐露した 「瑛兄…皆は?」 元気か… そればかり…気になり… 思いを馳せていた… 瑛太は康太の想いを汲み取り…言葉にする 「源右衛門は…ホテル暮らしは性に合わん…と厳正の所で住んでます 京香と子供達は村瀬の病院に入ってます 父と母と私は会社の近くのホテル住まいで…悠太は寮に入ってますから…連絡はとってません… 蒼太と恵太は…飛鳥井に無縁になりましたからね…避難させてません…」 「そうか…皆…変わり無さそうだな…」 「ええ…皆…家に帰れるまで…頑張っています! ですから、貴方は…他は気にせず…想いのままに…進んで下さい… 我等は…帰れるその日まで…貴方の足手まといにならぬ様に…待っております!」 「ん。瑛兄…」 康太の腕が…瑛太を掻き抱く… 「康太…兄は何時もお前の事を…」 瑛太も…康太を抱き締めた 一頻り抱き締めると…瑛太は体を離した 「飛鳥井へ帰りますか?」 「おう!飛鳥井へ帰り…仕掛ける…」 「では送って行きます…」 「なら、帰るとするか…」 康太は榊原へ腕を伸ばした… その手を取り…榊原は康太の横に立った 絶対の存在 共に在る存在 それが榊原伊織…なのだから

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