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第71話 絆

社長室のドアをノックすると、瑛太が出迎えてくれた 「康太…」 瑛太の腕が…康太に搦みつく… 「瑛兄…」 康太が呼ぶと…瑛太は康太を社長室の中へ招き入れた 榊原も一生達も…社長室の中へと招き入れ、ドアを閉めた 父 清隆は康太を見ると…涙ぐみ… 母 玲香も康太を…涙を堪えて見ていた 清四郎は…康太に飛び付いた 「康太…康太…っ…」 嗚咽を漏らし…後は言葉にもならなかった 「清四郎さん、食事の前にそんなに泣いてたら…目が腫れてしちまうかんな!」 康太の言葉に…清四郎は康太を離した 笙は「涼子は…留守番ですですが…良いんですよね?」と問い掛けた 「構わねぇ…」 「康太…少し君を抱き締めさせて…」 言うより早く…笙の腕が伸びる… 真矢はそんな息子を引き剥がし…ポイっと捨てると…康太を抱き締めた 「康太…貴方に逢えない日々が、こんなに悲しいなんて…きっと飛鳥井の家族は…もっと刹那い想いをされてるんでしょうね…」 そう言い…清隆に…康太を渡した 清隆は…そっと康太を抱き締めると…直ぐに離した 玲香も…同じく…そっと抱き締めて…康太を離した そして、康太から遠い…所へ行き背筋を正した 修羅の道を歩ませているのは…我等一族だと言う自覚がある… 今は…康太と抱き合って…喜びを分かち合う時ではないと…解っているから…距離を取る 敢えて…近付く事を避けていた でなければ…抱き締めて… もう、飛鳥井の為に生きなくても良いと… 叫びそうになるから… 康太を修羅の道を歩かせて… 知らぬ顔など出来る筈などないのだ… 何故なら…清隆も玲香も…… 康太の親だから… 我が子の行く末が… 平穏であれと…願わずにいられない どうか…康太の行く末が… 願っても…口には出せぬ 飛鳥井家 真贋の動きを止めるのは 誰一人 許されてはいないから… 清四郎は「そろそろ参りますか?」と、声をかけた 「清四郎さん、何処へ連れて行ってくれるんですか?」 康太は楽しそうに問い掛けた 清四郎は嬉しそうに「知り合いの料亭です」と、答えた 「迎えのバスが来てるはずです 帰りは此処までお送りするので…バスで移動しましょう…」 清四郎は皆に声をかけた 「なら、行くもんよー」 康太が嬉しそうに笑うと、慎一が社長室のドアを開けた 康太は…ドアを向かって歩き出す 榊原がそれに続いて…歩き出すと 一生達や飛鳥井の家族、榊原の家族も続いた 康太は…エレベーターの前まで行くと後ろを振り返った 「全員乗れるのかよ?」 榊原は…人数を見る 飛鳥井が清隆、玲香、瑛太 榊原は、清四郎、真矢、笙 それで6人… 康太、榊原、一生、聡一郎、隼人、慎一、悠太 の7人… 絶対に無理だった… 康太は… 「オレ等は…階段で行く 父ちゃん達は清四郎さん達と乗って地下まで逝ってくれ!」と、エレベーターから離れた 康太は非常口の方に進んだ 慎一が非常口の重いドアを開ける 康太はそのドアの中へ入り…榊原や一生達が続くと、慎一は一礼してドアを閉めた 瑛太はその光景を見送り… 「見事な侍従ぶりだ…」と、慎一に賛辞の言葉を送った 主に仕える…慎一の姿があった 康太の動きを読み…寸分違わず動いている侍従としての姿があった 康太の為ならば…その命…惜しみなく差し出す… 主から目を離さず…導いて行く どんなに険しい道なれど 我が主は進んで行く… 道なき道を主は行く 血を吐き…倒れようとも… 主は…歩みを止める事なく行く 明日の飛鳥井を… 導く為に …飛鳥井の礎になる 我は…飛鳥井康太を…守る侍従になる 慎一の背中は…そう物語っていた 清隆と玲香は何も言わなかった… それが…慎一の定めだから… 清四郎、真矢、笙も…言葉もなく 上がってきたエレベーターに乗り込んだ 非常階段を下りて行くと、途中で栗田と出逢った 栗田は康太を目にするなり…抱き着いた 「康太…貴方…」 後は…言葉にもならなかった… 子供の康太が脇田の所から連れて来た時から…康太と共に在った 栗田もまた…飛鳥井康太と共に行く…人間だった 「栗田…離せ…」 康太が言うけど…栗田は康太を離さなかった 「……離したくない…どれだけ貴方に逢ってないと想っているのですか…」 康太は苦笑した そこへ恵太がやって来た 煙草を吸いに行くと席を離れ…帰って来ぬ…栗田を探しに来て…恵太は康太を目にして立ち止まった 「康太…」 恵太は信じられず…康太の名を呼んだ 父親と母親から…飛鳥井の家に近寄るな…と指示が来た それ以来…飛鳥井の家には寄ってはいない 康太とも…久しく…逢ってはいなかった 「恵兄、久し振りだな… でも挨拶してる暇はねぇんだよ… 最後の仕上げの前に…暫しの休憩に来ただけだ…離せ…」 栗田は康太を離した 「もう少ししたら…今の…問題が片付く…そうしたら、飛鳥井に来い…。 飛鳥井は…乱世に突入した 甘いことを言ってれば…命はなくなる… 甘くはねぇだよ…」 康太はそう言い…栗田と恵太に背を向けた そして、ゆっくりとした足取りで…階段を下がって行く 栗田は…康太を姿を見送った… 何があっても… 貴方に着いて行きます… 何があろうとも… どんなに険しい道だとて… 貴方と共に… それが栗田の願いだった… 栗田は…深々と…康太に頭を下げた 康太は振り返る事なく… 階下に消えていった 地下の駐車場へ向かうと、清四郎達は、既にバスに乗り込んでいた 笙が、「此処だよ!」と、康太達を呼ぶ 康太はバスへと近寄ると… バスの扉が開いた バスに乗り込むと…康太は榊原の膝の上に向かえ合わせに座り、抱き着いた それを見た笙が… 「何かその様子…久し振り過ぎて…涙が出てくる…」と涙を拭った 絶対の恋人同士が…そこにいた 幾度生まれ変わろうとも…絶対の恋人同士がそこに在った… だが…一生は眉を顰め… 「俺と慎一はモロに見せ付けられて…涙が出るよ… 何で…最中を見せられなゃいけねぇんだよ!」 と、かなり怒りモード 笙は「見たの?」と、一生に問い掛けた 「見たくないけどな…旦那が暴走して…リビングで犯ってた…」と、一生は愚痴を溢した 笙は…あちゃぁ…と顔を覆った 康太と榊原は…相変わらずだった 飛鳥井の家族は…それだけで…安心出来た… 榊原の家族も、そんな二人だから…安心出来た… 一生は「少し前まではな…旦那は康太と…してなかったからな… 仕方がなぇけどな…」と、呟く 笙は「してなかった?…何故?」と、信じられず…問い掛けた 「康太を動かす為に…旦那は…我慢する 自分は我慢してでも…康太を動かす 康太の邪魔する者は…例え自分でも許せねぇ…と言ってたからな… 結局は…許すしかねぇんだけどな」 一生は苦笑した 榊原の想いを知れば…康太を抱けよ!と言いたくなる… それ程…そばで見ている者は… 榊原の苦悩を目にしたら…堪らなくなる… 物凄い理性で自分を律し… 康太の為だけに生きる男 笙は、自分の弟を見た… 伊織…お前達は…離れたら…生きられないんだから… ずっと…そうやって抱き合って… 赤面する位…愛を囁いていれば良い… 笙は……弟を見つめ…瞳を閉じた… 願わくば…神様… 笙は…心の中で…願わずにはいられなかった…

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