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Ⅷ
――
放課後、入っている委員会の用事を済ませた後に教室へと戻る。真冬は、わざとらしく自分の荷物を机の上に置いたままにしていた。それはまだ生徒が残っていると思わせて、教室を勝手に戸締まりさせない為。
パタパタと鳴らす上靴の音に、ださいなぁ。と思いながらも待ち人の元へと駆けていく。
引き戸をガラッと開けると、教卓には立木先生が腕を組んで黒板に凭れて立っていた。
「お待たせしましたっ。」
少し小走りしただけで息が乱れるのは、真冬に体力が無いからなのか、遅れた事に対してのこの後の恐怖からなのか。
はぁ。と息を吐いて新しい空気を吸い込む。扉を閉めて並ぶ椅子と机の間を通って先生の元へ辿り着く。
「真冬。」
組んでいた腕を解いて、真冬に向けて広げる立木先生の顔は穏やかで、気の張りが緩んで安堵する。その胸に抱きつけば、立木先生の腕の温もりが真冬を包む。
今日一日、いや最後にこうして抱き締めて離れた日からずっとこの温もりを感じたくて仕方なかった真冬は、胸が一杯になる程の幸せを噛み締めていた。
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