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Ⅸ
「温かいです。先生……。」
「走ってきた真冬は熱いくらいだよ。」
「バレてましたか、走ってきたの。」
「足音で分かる。それに真冬の事はお見通しだから。」
そう言って真冬の頬に手を添えてキスをする。深く深く、会えない時を埋める長い時間掛けたキスだ。
「……んっ。っ、せんせ……。っ。」
「こら。…… "あき" だろ。」
『二人で居る時は、先生と生徒じゃないんだから名前を呼んで。』
付き合い出した頃、そんな約束をした。
こうして間違えて呼んでしまうと、その日の事が脳裏にすぐフラッシュバックする。
「……脱いで。」
ネクタイに人差し指を引っ掛けて解こうとする先生の指示に真冬は従い、シュッと解いたネクタイを床に落として、シャツのボタンを外していく。
「恥ずかしがってる姿も、凄く魅力的だよ。」
その言葉にまた翻弄される。
もう足元は見えなくなって上がろうとしても全く抜け出せない沼のように落ちていく。救い出す手は誰もいない。自ら手を伸ばそうともしない。このまま深く深く沈んでいく。立木章という男によって見えない底に向かって何処までも溺れていく。
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