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 その日はそんなに時間がかからず、やってきた。   「…………はぁ……兄……さん……」  性欲の強い思春期、Ωのフェロモンに抗えないαの本能。伊織の部屋から聞こえてきた声に、やっとか……と笑う。  ノックもせずに、入ってやった。  乱れた服装。僅かな性の匂い。赤く染まった目元と頬。伊織は驚いて布団で隠したけど、何をしていたのかは、誤魔化しようがなかった。 「……………俺の名前、呼んでた?」  俺の言葉に伊織は絶望の表情を見せた。 「き……気持ち悪いことしてごめん。俺━━」  シャツを軽く引っ張り、話してる 伊織の唇を奪う。  ━━━━αのフェロモンが香る。  聞いたことはあったけど━━  αのキスって、本当に甘いんだ…… 「に、兄さん、何を」、動揺する伊織をそっと見上げる。ジッと目を合わせ、視線は外さない。 「俺の片想いだと思ってた……」、そう伝えたら、伊織は息を飲んだ。 「それって━━」 「伊織……」  キスをしながら、中途半端だった伊織のに手を伸ばす。熱が伝わり、ゴクリと息を飲んだ。 「ぅ、ア!に、兄さ……」 「シー。俺が手伝ってあげる」  小さい子をなだめるみたいに、反対の手で頬を撫でる。 「駄目……!俺達、兄弟なのに!」 「…………伊織が好き」  騒ぐ伊織を嘘の告白とキスで黙らせる。口の中に舌を忍び込ませると、伊織は目を潤ませた。 「ん、兄……さん……」 「伊織……」   甘い匂いを振りまいて、仕掛けたキス。主導権はいつの間にか、変わっていて、気付いたら、押し倒されてた。 「本当にいいの……?」  掠れた声で伊織が俺に問いかけた。優しく見えても、コイツもαなんだな。熱っぽい目で見られて、体が勝手に熱くなる。 「………………俺のこと、抱いて」  指を絡ませて、伊織の目を見ながら囁く。  その晩、俺達は一線を越えた。  あとは坂を転がり落ちるように、なし崩しに落ちていく。逆らうことの出来ない重力のように。  それは復讐だった。俺の家族を崩壊させ、平穏を奪い、壊した義母と父への復讐。

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