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 壊れ物に触れるような優しい抱擁。嫉妬してたくせに、伊織は俺を優しく抱いた。 「兄さん、好き……」 「…………俺もだよ」  唇が重なり、キスがドンドン深くなる。  『好き』、それはまるで呪いのようだった。優しくされると胸が痛くなる。僅かに感じ始めた罪悪感。  伊織は優しい。俺を大事にしてる。 「心が狭くてごめん。 俺、こんなに人を好きになったの初めてなんだ……」  甘い快感の中、揺さぶられながら、俺は伊織の言葉をボンヤリと聞いていた。 「ねぇ。兄さん。二人で家を出ない? 俺もバイト増やすから。 『再婚したばかりだし、邪魔したくない、成績もキープするから』って言えば、納得してもらえるかも」  伊織の言葉を聞いてから、そっと手を繋いだ。 「そうだな。俺が卒業する時に合わせて、一緒に住もう」 「約束だよ……」  温かい……コイツ、温度、高いな。抱きしめられると、変な気分になる。  伊織は俺が好き。  ━━もし、ただ、復讐の為に抱かれたと伝えたら? お前のこと、なんとも想っていないと伝えたら、伊織は……  不安な気持ちになる……   「幹くん。話があるの」 「……何?」 「近所の人が幹くんと伊織が仲良すぎるって噂してる……」  一人の時に、晴香さんに指摘された。 「兄弟、仲が良いのはいいけど、αとΩ。もう少し、周りの目を気にして……」   ふざけるな!本当に自分のことばかりで反吐が出る!!   「……晴香さん」 「『母さん』って呼んで?家族なんだから」  俺の『母さん』はお前じゃない。もう、家族ごっこなんて、懲り懲りだ! 「家族?一度も家族だと思ったことはない。 アンタが父さんと浮気してぬくぬく暮らしてる間、うちの家族は崩壊した。 母さんは精神病にかかり、姉さんは一流企業に就職が決まってたのに、遠かったからという理由で、病気の母さんの面倒を見る為に辞退。 妹は離婚調停中に情緒不安定になり、不登校。 全部、アンタ達のせいだ! 伊織に告白されたよ。 正直、しつこくて困ってる。 俺はアイツに言い寄れただけでなんとも思ってない」  今までの不満を全てぶつけてやった。

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