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一度も伝えていなかった不満。晴香さんはショックを受けてたけど、一方的に言い残し、二階の自分の部屋へ向かった。
階段の上に足が見えて、体温が下がる。そこには伊織がいて、話を全て聞かれたんだと悟った。
黙ったまま、二人で部屋に入った。
「………………全部、嘘だったの? 俺を『好き』って言ってくれたのも、一緒に住むって約束も、優しかったあの時間も」
真っ青な顔をして、伊織が言う。
「再婚が気に入らなくて……? それで、俺に…… 違うよね。兄さん」
否定して欲しい、伊織はそんな顔で言葉を続けた。
━━━━潮時だ。
コイツを巻き込むのは間違っていた。
優しい伊織。俺には不似合いだ。そもそも、兄弟になったんだ。これ以上、どうしようもない。
「『好き』なわけないだろ? お前らのせいでうちの家族はバラバラになった。 俺、父さんに似てるからっていう理由で母さんに切り捨てられたんだ。 お前に手を出したのはただの復讐。 ━━最初から許せなかった。 呑気に父さんとの思い出話をするお前にも嫌悪感があった」
酷い言葉を並べる。
俺を嫌いになればいい。そして、全部、なかったことにするしかないんだ。
「そっか……」
全てを諦めたような声だった。
━━━━伊織の目に涙が滲む。
「…………兄さんが……大好きだった」
聞き取るのがやっとの位の小さい声。伊織は自分の部屋に戻ってしまった。
━━━━その時、感じた 激しい後悔。追いかけようとしてやめる。追いかけて、どうする。何も言える言葉はない。
自分でも分からないまま、立ち尽くすだけ。
伊織はその日から、全く笑わなくなった。
真面目が取り柄だったくせに、不良みたいな奴等と毎日つるんでる。髪を茶色に染め、服は時々、タバコの匂い。帰りは夜も遅くなり、無断外泊も度々あった。
同じ家に住んでるのに、まるで他人みたいになる。当然、会話もないし、すれ違う時にすら、目も合わない。
晴香さんとも会話が減り、腫れ物扱い、大きな溝ができた。
そんな中、高校卒業。この状態では家族として続けられないと、父さんがアパートを契約してくれ、流されるように家を出た。
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