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騙してやった。復讐は成功した。
━━━━なのに。
感じるこの虚しさは一体なんだろう。
目を覚ますと、伊織の匂いがしない。隣には誰もいない。フラッシュバックのように頭の中で繰り返される俺の酷い言葉と伊織の涙。
━━━━あれから結構、経った。慣れない一人暮らし、新しい大学生活。講義とバイトに追われる忙しい毎日。罪悪感は消える事なく、ふとした瞬間に寂しさが訪れる。
付けっぱなしのテレビをボンヤリ見てるとアイツが好きだった音楽が流れてくる。一緒によく見てた番組だ……
二人でテレビを見る時に並んで座った実家のソファを不意に思い出す。テレビ見てるのに、伊織はよくキスして邪魔してきた。こっちは怒ってるのに、アイツは「幸せ」なんて言いながら、笑ってて━━
どうして、いちいち、思い出さないといけないんだ。
ベッドで眠る時が一番、最悪だった。
『可愛い。兄さん』
アイツの優しい笑顔を思い出す。
『兄さんが大好きだよ』
お前が触れる手は躊躇いがちで、それでも、いつも優しかった。
伊織の事ばかり考えてる。意味なんて、もうないのに……
━━目をつぶると思い出すのは、優しい笑顔と温かい手。あの日の悲しい顔。
伊織を騙し、傷つけて、気持ちを踏みにじる権利なんて俺にはなかった。
…………今更、後悔しても遅い。
本当は分かってたんだ。お前は何一つ悪くない。ただ、親の再婚に巻き込まれただけだって。
…………夢なら良かったのに。
取り返しのつかない俺のやった最低なこと、言った酷い言葉、全部取り消せたらいいのに。
あの時のあの瞬間に戻りたい。
抱き合うと温かいのも、側にいるだけでなんとなくホッとするのも、俺、初めてだったんだ……
その優しい時間に、俺自身も本当は癒やされてた。
なぁ。伊織。元気にしてる……?
俺のこと、恨んでる……?
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