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不調が続き、異変に気が付いたのは、それから、すぐのことだった。
「………………ゴホッ」
ずっと体調が悪い。何を食べても吐いてしまう。おかしい。変だ。しかも、体が妙にだるい。微熱が続いてる。
バイトの帰り道、フラフラとしながら、アパートに帰る。
「ママー。ワンワンいたぁ」
「本当だ。可愛いわね」
散歩中の親子とすれ違う。
…………まさか。いや。そんなわけはない。毎回、必ず、避妊はしていた。
Ωは男でも妊娠するけど……
焦って、ネットで情報を集めた。『吐き気』、『食欲不振』、『微熱』、『体のだるさ』。妊娠初期の状態と今の自分の気になる症状とほとんど同じ。
━━━━俺が妊娠?
そんなはずない……!マスクをして、深く帽子をかぶり、薬局で検査薬を買った。
待ち時間は1分とある。説明書を読み、緊張しながら、検査薬を見ると、数秒もしないうちに線が浮き出てきた。
陽性反応……
━━━━妊娠してる……!!
検査薬を持つ手が震えてる。
『因果応報』、不意にその言葉を思い出した。
ただ、愕然とした。まさかの事態にうろたえることしかできない。
━━━━誰にも気づかれないうちに、堕ろしてしまえば……一瞬だけ、よぎる。
いや。できない。不可能だ……
…………だって、お腹にいるのはアイツの子供。
『兄さんが好き』
アイツと一緒に過ごした証 。
…………なかったことにはできない。
そうか。俺、一人じゃないんだ……
確かなものは何もない。この先、どうやっていけばいいか……それでも……
自分の腹にそっと手を当てる。
━━━━お前の子がここにいる。
それは暗闇の中のかすかな光だった。
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