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初旅行―中編―
内風呂はそこそこ広くてお互い髪や身体を洗った後湯船に入った。
「気持ちいい~」
「そうだな。俺も温泉は…かなり久しぶりだな。」
湯船は内風呂なので二人で入るには少し狭い。なので俺は敬の胸に背を預ける形で彼の足の間に座っているのだ。
うん。やばい体勢だとは思ってる。敬の手は俺を抱えるように回されてるし、ちょっと不審な動きをしたりもしてる。
「仕事するようになるとなかなか友人と時間が合わないし。よほど根気よくセッティングする奴がいないと旅行なんて無理だよね。特に敬の仕事って難しいんじゃないかな?」
「まあ、それもあるがそもそも俺は友人らしい友人はいないからな。男はすべて獲物という目で見てしまうしな。女は論外だからな。」
「えっ敬ってぼっち…」
友達いない人なんだと言おうとして敬に大事なところを掴まれた。
口は災いのもとなんだなと実感した。
「あー、いや。まあ、その。これからいっぱい旅行しようよ。お互い休暇合わせられるようにガンバろ?ね?」
とちょっとあざとくお強請りしてみた。そっと手が離される。
「ああ、そうだな。」
そう言うと、敬は優しい目で俺を見て唇にキスをした。しっとりと吸い上げる甘い優しいキスは俺を蕩かせた。
のぼせそうな入浴をした後、浴衣に着替えて縁側に置かれた籐のイスに座って庭を眺めた。
絶妙な植木の配置で、この部屋は外の視線から遮断されている。ここからは中庭の木の切れ目からの茜色の空と裏手の山の稜線が見えてとても綺麗だ。温泉で火照った身体に開け放した部屋に入ってくる風がとても心地いい。
鳥のさえずりしか聞こえない環境はゆったりとした気分にさせてくれて、いつもとは違う空間にいることを実感した。
敬も普段のハードな仕事から解放されてリラックスできてるといいけど。
ちらっと敬の方を見ると敬も俺を見てたようでばっちりと目があった。
思わず真っ赤になってしまった。敬が手を伸ばしてきて俺の後頭部を引きよせてキスをした。
「…ん…」
何度か啄ばむようなキスをされて、ゆっくりと深い口付けになっていく。
差し入れられた舌は俺の口内を余すところなく舐めていく。時折きつく吸い上げられてぞくりと背に震えが走った。
敬はキスもすごく上手い。これやられたら誰だって落ちそうな気がする。
いや、落ちてるけどね。恋人になる宣言をしてから、甘いキスが増えてきた。その気にさせるキスと挨拶っぽいキスと使い分けてるような気がしてならない。
俺はそんなテクニックないけどね。本能でぶつかっちゃうからいつも誘ってるのかって言われてなし崩しに…。
まあ、それは置いといて。
俺と敬は陽が完全に落ちるまでキスを楽しんだのだった。
夕食の時間が来て料理が運ばれた。会席料理でちゃんと順番に運ばれて温かいものは温かく、冷たいものは冷たいという本格的なものだった。贅沢だ。
敬は冷酒を追加で頼んでいた。俺は弱いのでやめておいた。ちょっと敬に一口飲ませてもらうくらいにした。
美味しい料理を堪能して食後のお茶を飲む。
その間に仲居さんが食器を片づけていった。
敬はその時朝食の時間と掃除のことを仲居さんに確認していた。
そう言うとこ意外とマメだなと思った。今回の旅行の手配はすべて敬だ。俺はあとで割り勘になっている旅行代金を敬に渡すだけ。
仲居さんが出ていくと二人きりになる。食事をしている間に寝る支度を仲居さんは整えてしまっていた。
さすがプロの仕事だ。
この離れは和室の十畳(リビング的なところ)と寝室のベッドルーム、と縁側、露天風呂、室内風呂、シャワールームと洗面台、トイレという作りだ。
今回の温泉旅行で何が障害となったのか。俺の身体のあちこちにつけられてるキスマーク。
これで大浴場に行く勇気はない。つけないという選択肢はなかったか、と言えば。
「隆史に他の男に裸を晒させるつもりはない。」
との独占欲丸出しの言葉に俺は唖然としながらも、嬉しく思って内心転げ回った。
というわけで、貸切露天風呂か、部屋付きの露天風呂のある宿で、出来れば他の部屋と離れた部屋が望ましい、ということで離れがある宿に決まったのだった。
うん。シーズン料金で高かったけど。
そんなこんなで選んだこの宿、俺はすごくよかったと思っている。必要以上にかまってこないし、心配りがさりげないし。
二人きりになって、他の宿泊客の声が聞こえない環境は、嬉しい。
俺は対面だった席を移って敬の隣に腰を下ろした。
「おいしかったね。」
「ああ。参考になる料理が多くてよかった。今度家でも作ってみようか?」
「ええ?さすが敬。作って!」
敬は何本目かの冷酒を注いだお猪口を手に持って飲みながら、俺はお茶の湯呑を手にもつという、大人と子供みたいな状況ではあるけど、敬に寄りかかって甘えてみた。
敬は俺を目を細めてみて肩を抱いてきた。
少し高い敬の体温を浴衣越しに感じる。
「そうだな。引っ越してきてからの祝いに作ろう。」
「うわー帰ってからの楽しみが増えた!」
にこにこと嬉しそうな顔になっているんだろう。くすりと敬が笑った。
たわいもない話をして敬の冷酒が空になる。
俺もお茶を飲みきって、しばし沈黙が部屋を支配する。
その沈黙は居心地の悪いものではなく、心を満たすような沈黙だ。
敬が俺を抱きしめてきて唇が重なる。お酒の味が残る舌が俺の口腔に入ってきた。
きっと俺の舌はほうじ茶の味がするんだろう。
そのまま畳に倒されて敬が覆い被さる。思わず見上げて見惚れる。
「相変わらず、色っぽい目をする。」
敬、目がおかしい。俺はそんな目をしてない。そんな抗議を心の中でしていると、しゅるりと音がして帯が解かれて引き抜かれた。胸が露わになる。敬は目を細めて俺の胸の突起に吸いついた。
「…んッ…」
吸われたそこがすぐ固くなっていく。何度も吸われて舌先が形をなぞるように撫でていく。
もう片方の突起は敬の指で、捏ねるように弄られている。そこから甘い痺れが股間にも伝わって、下着を盛り上げた。
「…は…敬…気持ち、イイ…」
漏れる吐息も熱い。敬の舌が突起だけでなく胸のあちこちを這う。時折吸い上げて所有痕を残していく。
もう、本当に人前じゃ、着替えもできない。
でもそれが嬉しいっていうのは、幸せでたまらない気分になる。
敬の手で熱をあげられる。あちこちに火がついて汗が浮かぶ。
湿った下着を取り払われて乱れた浴衣の下は身一つになった。
片足を抱えあげられて足の付け根にキスをされた。双球をしゃぶられて足先が跳ねた。
「ふ、あああっ…」
幹をしゃぶられて、蜜の溢れる先端が口に含まれる。
ねっとりと舌を絡ませられて腰がびくりと浮く。先端を吸い上げられてますます幹に血管が浮かんだ。
根元を手で支えられて、口の動きと一緒に扱かれる。気持ちよさに仰け反った。
「…あっ…あっ…あぁッ…」
追い上げられて腰が揺れる。
「…も、もう…あッ…あああーーッ…」
あっという間に達して敬の口の中に放ってしまった。敬はそれを飲みこんで舌で綺麗にしてくれた。
乱れた呼吸の先で、俺を見る敬は欲情の色を浮かべていて凄絶に色っぽかった。
「敬、中に欲しい…」
「わかっている。」
敬は俺を抱えあげ、ベッドまで運んで降ろすと俺の浴衣を脱がせた。自分も脱いで、脇に置いてあった荷物の中から潤滑剤を取り出した。それを持って俺が座っているベッドに上がってくる。
心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「敬…」
手を伸ばして敬を引きよせる。唇が重なって俺は貪るようにキスをした。
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