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第4話

芳次郎を住まわせるようになって早1か月が経った。 同じ長屋に住む他の住人たちもはじめは戸惑いながら過ごしていたが、芳次郎の天性の人懐っこい性格が幸いして短期間で馴染んだ。 大工仕事もしていた芳次郎は建具の修理などを引き受けたり、力仕事などを率先して行う。 ある日嵐が来て屋根が痛んだ時も芳次郎がすぐ修繕したおかげで、続いて来た嵐に持ち堪えることができた。 住人に有難がれているのは芳次郎が金を要求してこないこと。 気が済まないからと住人が言うと、「おマンマをくれ」と言う。 そんな芳次郎に子供達はいち早く馴染み、夕方になると芳次郎を中心にして近所で遊んでいる姿を菊之丞も何度か目にしていた。 職を探して街に出ても、不思議と人脈が早々と出来つつある。 「いやー、不思議なヤツですねぇ。芳次郎は」 そう言いながら汁物を啜るのは、御用聞きの兵吉(へいきち)だ。 ※御用聞き…同心が私財で雇う使用人。(岡っ引きともいう) 昼を飯屋で食べながら、菊之丞は兵吉の話を聞く。 「気がついたら、色んなやつが芳次郎を知ってるんでサ。あの無愛想同心のとこにいるやつだろうって」 無愛想同心という言葉に顔をしかめた菊之丞にイケネ、と兵吉。 「まあそれはともかく。アイツの性格なら御用聞きにもなれそうですがね、御用聞きはやらんっていうんですよ」 「…ほぅ」 「何でも人を詮索するのは好かないとか。まあアッシからしたらその方が役を取られないから良いんですがね」 御用聞きは何か事件などあった際に町人たちから色々情報を聞き出す役目だ。 その為にはどんな時でも情報網を張り巡らせないとならないし、町人たちを一人一人知っておく必要がある。 あんだけ色んな人と話しておきながら詮索はしたくないとは、難しい奴だなと菊之丞はふと感じた。 「そうそう旦那、最近物盗りが出始めたのはご存知ですかい」 場所は限られていた。菊之丞の屋敷がある辺りからそんなに遠くない。 話によると手拭いで顔を隠した男が、夜な夜な商人や女性を狙い金子などを強奪しているという。 傷をつけるような真似はしていないと聞くが、襲われた者はたまったものではない。 祝言の金子を取られてしまった父娘もいた。 「早いとこお縄かけねぇとまた被害でちまう」 菊之丞も辛辣な面持ちで箸を勧めた。

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