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突然現れたワンコ 4
半ば呆れぎみにそいつを見上げる。
「お前、目が悪いのか?」
「両目共、2.0です」
「じゃあ、頭が悪いのか?」
「それは中の上と言ったところです」
ニコニコしながら答えるそいつとは裏腹に俺の眉間にはシワが寄っていく。
「俺は男なんだが」
「知っています」
「もう一度言うぞ。俺は男だ。女顔って言われているけどれっきとした男なんだぞ」
「はい。わかってます」
何が、はい。わかってますだ!!
爽やかな笑顔で頷いてんじゃねぇよ。
あー、頭が痛くなってきた。もう、教室に戻ろう。
こんなことに付き合ってる暇なんかねぇし。
そう思って立ち上がってソイツに背を向けて歩き出そうとしたところ腕を掴まれた。
「待って、先輩」
「悪いけど、今俺はお前の冗談なんかに付き合ってやれる余裕なんてないの。そういうのは他所でやってくれ」
今はそれどころじゃない。
彼女に振られたばかりで他人の冗談に乗ってやれるほど余裕なんかないんだ。
でもこいつはそんなのお構いなしに俺の腕を引き寄せた。
「冗談なんかじゃないです。本当に俺、先輩のことが好きなんです」
「好きとか言われてもだな、俺はお前のこと何も知らないし……」
そう言って今度こそこの場を去ろうとしたらガシッと両肩を掴まれて正面を向かされると、そいつが俺のことをじっと見つめてきた。
こ、怖いんだけど。今度は何だよって構えていると。
「俺は1年3組、津田 桜太 といいます。A型、弓道部所属。身長180cm体重は68キロ。趣味は先輩の観察、特技は先輩の尾行。好きな食べ物はカレーライス、嫌いなものは特にありません。桐生先輩が好きです!! 大好きです!!」
「…………」
なんか、コイツの自己紹介に犯罪臭のするものが混ざっていたような気がするのは空耳か?
つか、知らないからって自己紹介したらおさまるって話でもないだろう。
もしや、コイツ……馬鹿?
呆れて呆然としていると、そいつはにこやかに笑いながら俺が何か言うのを今か今かと待ち構えているようだった。
なんていうか、まるで尻尾をパタパタと振りながら主人の命令を待っている犬のような。それも大型の。
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