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突然現れたワンコ 5
「……悪い、俺頭痛くなってきた」
「大丈夫ですか? 保健室行きますか?」
「いや、お前が消えてくれたら治る」
「でも、まだ返事もらってないです」
「返事もクソもないだろ!! 付き合うわけねぇだろ」
「先輩は俺のこと嫌いですか?」
「好き嫌いの以前に興味がない。初対面だからな」
シッシと振り払うようなジェスチャーをして今度こそこの場を離れようとすると、そいつはあろうことか俺のことを横向きに抱きかかえたまま屋上から降りていこうとする。
「お、お、おい!! なんでお前に抱えられなきゃいけないんだよ!!」
「だって、先輩頭痛いって言うから」
「頭とこれは関係ないだろ!?」
「保健室に運びます」
「いいからおろせー」
俗に言うお姫様抱っこが嫌で、じたばた暴れる俺に困ったような顔をしたコイツは「下ろして欲しかったら……」と、生意気にも条件を突きつけてきた。
「俺のこと知ろうとしてください。そうしてくれるなら、おろします」
「はぁ?」
俺がきょとんとしたまま見上げているとこいつは真っ直ぐに俺を見て言った。
「嫌いとか、付き合えないとか答えを出す前に俺のことを知って欲しいんです」
その目は真剣そのもので、嘘だとか冗談には見えなくて妙に戸惑ってしまう。
「意味わかんねぇ」
するとこいつは小さくため息をつき、俺のことを抱きかかえたまま階段を数段下りていった。
「お、おい。待て待て待て!」
コイツめ、強行手段に出る気か!?
つか、お姫様抱っこで下ろされるなんてヤバい。ヤバい。ヤバすぎる!!
クラスの奴らに見られでもしたら……絶対に嫌だ!!
「う、うわーかった!! わかったから!!」
すると難しそうな顔をしていたコイツの表情が途端にぱぁっと明るんでいった。
「う、嬉しいです」
「言っとくけどな。知ろうとするだけだからな!! 付き合うとかそういうのは別だぞ。付き合う気もないしな」
「なんでもいいです。先輩が俺のこと気にしてくれるきっかけなら、なんでもいい」
「本気で付き合ったりはしないからな!! 俺は男に興味ないし。だから、お前は子分とかパシリとかペットみたいな扱いなんだからな!!」
「はい、先輩のペットでも何でもなってしっかりご奉仕します!!」
「ご、ご奉仕って、しなくていい。なんかお前って危険な気がする。なんか怖い。何もするな」
……ってなわけで、若干押し切られたような形で、この日から大型犬ならぬ大男が俺の周りをウロウロするようになったのだった。
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