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意外と使えるワンコ 1
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「せんぱーい!! やきそばパン買って来ましたぁ!」
「頼んでない」
俺がバッサリと冷たく言い放つと、同じクラスの朝倉 がいつものように仲介に入ってくる。
「お前、相変わらず冷たくない? 津田っちが可哀想じゃん」
「頼んでないのに買ってくるのが悪い」
「でも、そう言いながらいつも津田っちが買ってきたの食べてるよね?」
「うるさい。勿体無いからだ」
そう言って席を立ち、津田が待っているドアの方に向かって歩いていく。
相変わらず津田は嬉しそうな顔をしていて、まるで尻尾を振って大人しく待てをしてるみたいだ。
「おい、ダツ。何回言ったらわかるんだ。勝手に買ってくるな。自分で行くって言っただろ」
「でも、購買混んでるから……あ、もしかして今日は焼きそばパンの気分じゃなかったですか? もしかしてメロンパンの日? しまった……」
「……いや、焼きそば…パン…だけど」
俺はこいつに “ダツ” というあだ名をつけた。
あだ名というほどでもない、ただ苗字の津田を逆から読んだだけだけど、津田はたいそう喜んでいた。
そしてこいつは毎日、昼時になったら購買に行って自分のと俺の分のパンを買ってくる。
自分で買うからいいと言っているのに、毎日買ってくるんだ。初めて喋った次の日から毎日欠かさず。
俺はいつも気分で焼きそばパン、コロッケパン、ベーコンレタスサンドイッチ、メロンパンのうちから選ぶ。他にもパンはあるけど、俺はこの4種類が気に入っている。
そして飲み物も、コーヒー牛乳と牛乳、レモンティーから気分によって選んでいるのだがその組み合わせはいつもまばらだ。
……でも、なぜかコイツはいつもどんぴしゃで今日の食べたいものをしっかりチョイスしてくるのだ。
何故わかったのかと聞けば。
『いつも先輩のことを観察していたので』
という気持ち悪い返事が返ってきて聞かなきゃ良かったと思ったが……。
今日も俺が食べたかった焼きそばパンとレモンティーが袋から出された。
そして俺もいつものように財布から小銭を出す。
「……勿体無いから食うだけだからな」
「はい」
嬉しそうに頷いて金を受け取ると、津田はその金を財布とは別の小銭入れにしまっていた。
最初はこの金も受け取ろうとせず、おごる気だったらしい。津田のくせに生意気だ。
そういうのはムカつくと言うと素直に金を受け取るようになったんだけど、小銭を受け取った瞬間、いきなり津田は息を荒げ始めたのには本当にビビった。
恐る恐るどうしたんだと聞くと。
『いえ、先輩から初めてもらったものなんで興奮してしまいました』
というまた気持ち悪い返事に、また聞かなきゃ良かったと思ったものだ。
そんなこんなで、あれから何となく一緒に昼飯を食べる感じになってはいるが……。
津田を知れば知るほどに思う。
コイツは、変態でしかない。
もう言い切ってもいい。変態だ!!
初対面のときから危険な雰囲気は感じていたが、本気のストーカーだったことが判明したのがその1週間後である今から3週間前。
そして俺の数々の細かいプロフィールや出来事まで知っていて、恐ろしく感じたのが2週間前。
そして今まで昼代に払った金を全てパウチにして貯めていると知ってどん引きしたのが先週だ。
とにかくこいつは変態で危ない。
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