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意外と使えるワンコ 2
でも、実のところ混んでいる購買は前から苦手だった。
だからすすんで買い出しに行ってくれている津田の存在は、有難いっちゃ有難い。
そういう便利な所もあるので、コイツは変態だが今のとこ実害はないから放し飼いにしている。
見晴らしのいい屋上で焼きそばパンにかぶりついていると、津田が俺の顔を覗き込んだ。
「先輩は俺のこと好きになってきましたか?」
「ならねぇよ」
間髪入れずに切り捨てても津田は簡単にはへこまない。
「そっか、まだ俺の愛が足りないんですね」
「もう、結構だ!!」
「そう遠慮なさらずに~」
何度も言うが津田は変態だ。しかも、打たれ強い。これが面倒くさい。
なんていうか、頭のねじがどこか飛んでいる。緩んでいるとかいうような生易しいもんじゃない。
あれは数本ねじをどこかに落としてきた感じだ。
でも、俺の趣味とか食べ物の好みとかよく知ってて、欲しいタイミングで目の前に出されるのは……確かに、居心地がいいとか思っていたりもするけど。それも、ほんの少しだけど。
でも、男のくせに男の俺が好きとかやっぱり意味がわからない。
それに、1ヶ月昼休みのパシリのようなものが続いたからといって、それが本心だと認めたわけでもない。
よく見たらこいつはそれなりに整った顔をしているし、女に困るような面じゃないんだ。
だから何で俺なのかって思う。そんなんだから、まだ信用したわけじゃない。
しかし……こいつのおかげで理香ちゃんに振られたショックが軽くて済んだのも事実なわけで……。
いつもだったらまだどん底に落ち込んでいる頃だ。
俺は愛情が軽いといった理由で振られることが多い。
でも、彼女の目に軽く映るだけで実際は軽くないから振られた後は1ヶ月とか余裕で引きずる。
朝倉が毎回呆れるくらい、引きずりまくって日常に支障が出るくらいにだ。
でも、今回は引きずってはいるがいつもみたいに日常に支障が出るってとこまではいかない。それが男に慰められてっていうのがなんか嫌だけど。
「先輩、どうかしましたか?」
不意に津田が俺の顔を覗きこんできた。
「どさくさに紛れて近ぇんだよ!!」
津田の頬を力任せに押し返すとグキッと変な音がして悲鳴が聞こえたような気もしたが放っておいてレモンティーを飲み干した。
誰だって自分のことを好かれて嫌な人間はいないと思う。
津田の気持ちを完全に信じたわけじゃないけど、あんなに毎日毎日「好きだ。好きだ」と言われていたら気にもなるだろう。恋愛とかそういう方向だけでなくともだ。
コイツはほんと飽きもせずに顔を会わせない土日以外は、毎日「好き」と俺に向かって言ってくる。
今までどちらかというと付き合ってきた彼女とは、いい感じになってきてお互いに好き同士だろうって感じになってきたら俺から告白するって流れだった。
それなのに付き合った後の愛情表現が小さいから“釣った魚には餌をやらないタイプ”という誤解もよくされる。
こんなにあからさまな言葉で好き好きアピールというものをされたことが無いので正直戸惑うし、今の状況は今まで俺が求め続けていた愛するより愛されている構図になっていて、それも冷や汗ものだ。
コイツがどこまで本気なのかいまいちわからない。未だに罰ゲーム説やドッキリ説だって疑っていたりする。
でも、1ヶ月過ごしてみて悪いやつではないだろうっていうのも感じていて。俺はおおいに混乱していた。
……でもお陰様で振られたら確実に1ヶ月は引きずり、さらに1ヶ月は鬱になるといういつもの暗黒ループも今回は免れそうだった。
だから、余計にわからないんだ。
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