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意外と使えるワンコ 5
その音で津田が俺に気付いてしまった。
「あっ、せんぱーい!! もしかして俺を迎えに来てくれたんですかぁ?」
あ、一瞬にしていつもの残念な津田に戻ってしまった。
「ちげーよ。音がしたから来てみただけだ。自主練か?」
「はい」
「そっか、頑張れよ」
そう言ってその場を離れようとしたところで、走ってきた津田に腕を掴まれる。
「先輩もやってみますか?」
「えっ、俺はいいよ」
「遠慮なさらずにー」
「いや、遠慮なんてしてねぇし」
そう言ってるのに強引に引っ張られて“ゆがけ”という皮の手袋をはめさせられた。津田いわく、これは鹿の皮で作られているらしい。
そして津田が俺の後ろに立って俺の手に自分の手を添えるようにして構えさせる。
「ひっつくなよ」
「恥ずかしいんですか?」
なんか嬉しそうな顔をしてる津田がムカついて、わざと足を踏んづけた。
「お前との身長差が憎いだけ」
「イタタ……でも、先輩の身長って172.3でしょ? そんなに低くはないじゃないですか」
「180超えのやつに言われたくないわい!! つか、なんでお前俺の身長知ってんの?しかも.3まで……」
その質問をしてニヤリと笑った津田の顔をみて、しまったと思うも後の祭り。
「先輩のことなら何でも知ってます。体重も座高だって……」
「もういい。やっぱお前怖い。つか、座高とか最近は測ってないし!」
聞かなきゃよかったと思いながら、気を取り直して弦を引っ張ってみる。
弦は意外と硬くて引くのも難しい。津田はもっと簡単そうに引っ張っているように見えたのに結構力がいるのだ。
「これ、すげー硬いのな。お前が引いてるときは簡単そうに見えたのに、結構力いるんだなっ」
「えっ? もう一度」
するとなぜか、津田が目を丸くして聞き返して来た。
今の会話で何がもう一度なのか。津田が聞き返す意味がわからなくて首を傾げる。
「結構力がいるんだな」
「その前です」
「簡単そうに……」
「その前」
と、言うと……。
「すげー硬い?」
「そう、それ。先輩が言うと卑猥な言葉に聞こえま……痛っ」
「そんなバカなこと言ってたら殴るぞ」
「もう殴ってるじゃないですか」
そんなことを弦を引っ張りながら話していると津田が笑いながらも俺の手を支えている。
そして耳元で囁くように話すから、耳に息がかかった。
「顎引いて、胸張ってください」
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