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黙っていれば…なワンコ 4

「ちょっとトイレ行ってくんねー」 そう言って席を立つ。 マジで栗山に感謝だな~と思いながら気分上々でトイレを済ませ、部屋に戻ろうと廊下に繋がる扉を開けると、津田がそこで俺が出てくるのを待っていた。 「なんだよ。ダツ! つか、お前。マミちゃんといい感じだな」 そう言いながら肩を叩くと、津田は面白くなさそうな顔をして目を伏せた。 「そうですか?」 「可愛いじゃん、マミちゃん。良かったな」 「確かに可愛いとは思いますけど、俺は先輩の方が可愛いと思う」 津田の言葉にため息をつきながら肩を落としていると、当の本人は不思議そうな表情で俺の顔を覗き込むようにして様子を伺っていた。 そして俺は壁にもたれかかりながら津田のことを見上げる。 「ダツってさ、本当に俺が好きなの?」 「何度もそう言ってるじゃないですか」 「じゃあ、お前はさ。俺に彼女が出来たらどうすんの?」 俺が素朴な疑問をぶつければ津田は少しだけ寂しげに目を伏せると呟くように言った。 「……また、見守るだけですよ」 「は? 見守る?」 「今までだってそうでした」 「今までも?」 すると津田は眉尻を下げたまま悲しげな目をしてるのに、力なくにっこりと微笑んだ。 「俺は先輩が幸せならそれでいいです。先輩が一緒にいて幸せだと思う人と一緒にいてくれたら俺も幸せだから。そりゃ、それが俺だったらいいなって思いますけど……」 そこまで言うと津田は少しだけ視線を外した。 でも軽く深呼吸して俺の目の前に立ち、真っ直ぐに俺を見ながら話を続けた。 そんな津田の瞳に自分の顔が映っていた。 「先輩の悲しむ顔だけは見たくないです。先輩は相手のこと大好きなのに、その相手が離れていってしまうのを見るのは悲しいですから」 「お前……それ」 どこまで知ってるのかと、ドキッとすると津田は微笑みながら頷いた。 「だから先輩が幸せなら俺は見守るだけですよ」 そう言って部屋へと戻っていった津田の後姿を見ながら、ずるずると壁にもたれながら座り込んでしまった。 なんつーか、胸にズキューンと来たというか。 とても爽やかな気持ちになった。 どこかで津田の好意を疑ってたとこがあったけど、思っていた以上に俺ってめっちゃ津田に好かれてないか? こんなに懐かれて気分が良くなるとは思ってなかった。 人に好かれている安心感というか、ホッとしたものが津田が去っても胸に残っている。 久々に感じた受ける愛情に俺は気分が軽くなった気がして立ち上がった。 俺が幸せだと自分も幸せなんて言われたことが初めてだったからだと思う。 誰にでもそれなりに良い顔を見せるのではなく、ただ俺だけに懐く。こんな優越感って超気持ちいいじゃん。 なんか上手い例えが見つからないけど、王様にでもなった気分っていうか。 だからスキップなんてものを久しぶりにしながらさらに上機嫌で部屋に戻り、さらにノリの良い曲歌いまくって残りの時間も楽しんだ。 そして帰り際には、俺も津田もユキナちゃんとマミちゃんとそれぞれLINE交換してその日はお開きになったのだ。

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