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黙っていれば…なワンコ 5
――それからも上機嫌で無敵な俺は週末にかけてユキナちゃんと何度かLINEのやり取りをしていた。
津田の方はどうしているかは知らないが、俺はユキナちゃんと俄然いい感じな気がする。
そんな週の金曜日。いつも通り授業を受け、津田が買ってきたパンを一緒に食べて部活に励み1日を終えるという日常を送り、帰りながらユキナちゃんとLINEしていたら好きな映画について話が盛り上がった。
ちょうどその話題になった映画のシリーズ最新作が公開されてるから土日に行こうかって話になりかけたんだけど、急な話でお互いに都合が付かずまた次にってことになる。
残念だけど、なかなかいい感じの状態をキープしていると思う。
そんなこんなで、彼女に振られてから久しぶりに気分が完全浮上した週明け。
物凄くご機嫌な俺はいつも通り授業を受けて部活にもしっかり励み着替え終わったあと、弓道場を覗いてみることにした。
――タンッと小気味良い音が聞こえる渡り廊下から覗けば、やっぱり津田が1人で練習をしていた。
「精が出るな~」
「あ、先輩!!」
声をかけるとパッと顔が華やぎ、俺に向かって走りよる姿がより優越感を持たせる。
前よりも更に、大型犬みてー。そんなことを思っていたら津田に犬耳が見えて思わず笑ってしまった。
「どうしたんですか?」
「いや、犬耳が」
「犬耳?」
「いや、なんでもない。お前ってさ、いつも1人残って練習してんの?」
すると津田は弓をいじりながら頷いた。
「最後に1人でやると心が落ち着くんですよ。1つひとつ動作を確認しながら打つと頭がスッキリするというか。始めた頃からの日課で、癖みたいなものです」
「そうなんだ。俺がフリースローの練習するみたいなもんかな?」
すると津田はゆがけを外しはじめた。
「今日はもう終わるのか?」
「はい、さっきので一応今日のはおしまいです」
「そっか。今から着替えんの時間かかるのか? 待っててやってもいいぞ」
軽い気持ちで言った俺の言葉にまた犬耳をピクッとさせて反応した津田は途端に慌てだし「3分で着替えてきます!!」と言ってドタバタと走り去っていった。
3分ってカップラーメンかよ……なんて思っていたら、本当に3分くらいで戻ってきた。
しかし……。
ゼェハァゼェハァと、見るからに荒い息をしてるから相当急いで来たことが伺えるのだが。
かろうじてズボンだけはちゃんと履いてベルトもしてあるけど、シャツのボタンをとめるのも煩わしかったのかはだけたままだし、上着は手に持ち鞄を引きずるようにしてやってき来た。
そのはだけたシャツの間からちらっと見えた腹は、何気に腹筋割れてやがって、生意気だと思う。
「なんかボロボロだな。ちゃんと着替えてから来たらいいのに」
「先輩が待ってると思ったら早くしなきゃと思って」
「別に俺は時間にうるさい系の怖い先輩じゃないんだけど」
「いや、……先輩が先に帰ってしまわないか心配だったので」
「は?」
すると津田は、俺はすっかり忘れていたけどこの間、俺が待たずに帰ってしまったのが頭に残っていたらしく、自分の着替えが遅くて先に帰られてしまうかもしれないと思ったと控えめに話した。
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