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黙っていれば…なワンコ 6
そしてその場で服を整えさせてから、帰り道を一緒に歩く。
こうやって一緒に帰るのは考えてみたら初めてだ。
「ダツってさ弓道はいつからやってるんだ?」
「俺は中学からですよ。先輩はいつからバスケしてるんですか?」
「小5から。地区の小学校対抗のミニバスの大会があってさ、それに出たくて始めたんだ」
「そうだったんですか」
それから色々他愛ない話をしながら歩いていると、たまたま今ハマってるゲームの話になった。
今ハマってるゲームというのは、1人でも充分に遊ぶことができるアドベンチャーゲームなのだが、通信機能を使って一緒に対戦したり、武器を交換したりも出来るゲームで。
その武器も一緒に交換するものによって、新たに強化された武器になったりするという色んな楽しみ方ができるものだった。
でも、少し前に発売されたゲームだからだろうか。
あいにく周りにこのゲームをやっている人はいなくて、もう1台ゲーム機でも持っていたら自分で武器の通信強化とか出来るけどそれも出来なくて正直諦めていたんだけど、なんと津田もそのゲームをしていると言う。
「ダツ、知ってんの!?」
「はい。兄貴のお下がりですけど面白いですよね、アレ」
俺、今めちゃくちゃニヤけているかもしれない。
「もしかして武器の通信強化とかしたことある?」
「兄貴はやってたみたいですけど、俺は周りにこのゲームやってる人いなかったから」
津田のその言葉を聞いて、俺は猛烈に興奮した。
今まで1人寂しくやってきたゲームで、一度やってみたかった通信対戦やら、パーティになって戦うダブルバトル、それに武器の通信強化!!!!
そして鼻息荒く津田の腕を引き寄せた。
このチャンスを逃してたまるか!!
「ダツ! ゲームするぞ!! 俺、武器を強化してみたかったんだ!!」
「じゃあ、明日学校にゲーム機持って来ましょうか?」
頷きかけたが、学校でやるには時間が足りなさすぎるよな。
通信強化だってやりたいと思ってたのたくさんあるし、強化したら実戦で使ってみたいし。
「いや、通信対戦とかいろいろやりたいから付き合え」
「はい?」
「今度の土曜日って部活あるか?」
「あ、はい。午前中だけですが」
その言葉に心の中でガッツポーズをする。
「俺も午前中だけだし、終わったら俺んち来いよ」
「……、えぇー!?」
と、津田があまりにも大きな声をだして驚くから俺までびっくりしてしまった。
「なんだよ。用事でもあるのか? だったら次の……」と言いかけたところで津田が慌てて俺の腕をつかんだ。
「いえいえいえ、行きます!! 用事があってもキャンセルして行きます!! 先輩が俺のことを家に呼んでくれるなんて夢みたいで、びっくりしちゃって」
「……そ、そうか?」
正直、ここまで津田が喜ぶとは思ってなかったので、俺の優越感はまた更に大きくなっていった気がした。
そうしているといつの間にか俺の家のすぐ近くまで歩いてきたんだけど、今更だけど津田んちってどこなんだろう?
「ダツの家もこの辺なのか?」
するとケロッとした顔をしてあっさりコイツは言った。
「いえ、俺の家は学校のすぐ裏のマンションです」
「はぁ? つか、思いっきり逆方向じゃん。なんで言わねぇんだよ。こっちなのかなって思ってたじゃん」
「気にしないでください」
「気にするっつーの」
津田は家まで送るつもりだったらしいけど、男が男に送られてどうする!!
もう帰れと言ってもなかなか帰ろうとしないので、土曜日の約束無しにするぞと言えば渋々帰る気になったらしい。
そして名残惜しそうに何度も振り返りながら帰っていく後姿には、やっぱり犬耳が見えた。
それは、とんでもなく寂しそうに垂れていたけれど。
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