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ほろ苦い恋心とワンコ 5

少しイラつきながら沈黙を破ったのは俺の方だった。 「ダツ、自分で布団敷けよな」 拗ねる子供を叱るように言っても津田は下唇を噛み締めてそこに立ったままだ。 「お、同じ部屋は嫌です。客間とかありませんか? あったらそっちがいい」 「客間はあるけど、ここでいいじゃん。あ、わかったぞ!! お前、イビキでもかくんだろ!! だから恥ずかしいのか?」 「いびきなんかかきません」 「なんだよ、客人扱いしろってか?」 「……とにかく、客間に行きますから、場所を教えてください」 頑なに譲らず布団を持ち上げて部屋から出ようとするので、その腕を引っ張り体ごとこっちに向けさせた。 「なんだよ、さっきから。そんなに俺の部屋が嫌なのか?」 「…………」 「おいダツ!!」 黙りこんだ津田に少し大きな声をあげれば、悲しそうに眉を下げそっと目を伏せた。 そして津田はゆっくり息を吸い込むと、大きなため息をつくようにその息を吐き出した。 「俺……今、すっごく……我慢してるんです」 その声は、少し震えているようだった。 「何をだよ」 「……先輩と仲良くなれて嬉しいです。先輩の家にもよんでもらえたし、ご家族とも会えたし嬉しくてたまらない。これからも傍にいたいです。だから……ダメなんです」 俯いたまま、震える声のまま津田はそう言った。 「意味わかんねーよ」 「鈍感にもほどがありますよ」 「なんだと!?」 俺が腕を掴んだ一瞬だけ鋭い目付きになった津田は、持っていた布団を床に落とし俺のことを引き寄せながらドア側の壁へと押し付けた。 その衝撃でバランスを崩しずるずると壁にもたれるようにして俺が座りこんでしまうと、そのまま津田も膝を立てる。 そして…───。 津田が俺のことを抱きしめた。 「俺は……先輩が好きだから……こういうのきついんです」 抱き締められながら耳元にかかる声は、前に弓を引いたときに後ろから聞いた声とはまるで違う掠れた声だった。 その声はなんだか震えていて、俺の方が焦るというか戸惑って動けずにいると、津田が少しだけ体を離した。 そのとき目の前に津田の顔があって、その顔は今にも泣きそうで心が痛くなる。 なんで、そんなにも泣きそうな顔してるんだ。 すると俺の肩を掴む手も震えながら、津田が弱弱しく言葉を吐いた。 「先輩の何もかもが可愛いんです。ゲームしてはしゃぐ先輩もご家族と楽しそうに喋っている先輩も、靴下履く姿すら可愛いんです」 「な、なに……」 そう聞き返す間もなく津田が肩に置いた手に力をいれた。 「先輩は……俺が好きって言ってる意味。わかってますか?」

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