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会えないワンコ 1
日曜日も津田のことが気になって頭から離れなかった。
せっかく今日は部活も休みだったのに、気分はものすごく重くて1日中沈んでいる。
家族は朝になって津田が帰ったことを残念がっていた。
家の用事で急に帰ることになったことにして、皆に挨拶できなかったことを謝っていたと伝えるとみんな「また呼んだらいい」と言ったけど。
多分、もう来ないと思う。
そんな風に重苦しい気分のまま迎えた月曜日。
午前中の授業は見事なまでに心ここに在らずな感じで過ごしていた。
そして4時間目を終えて移動教室から帰ってくる途中。
職員室の前を通ったら、なぜか副担任の羽山に呼び止められた。
「おーい、桐生」
振り返ると先生は購買の茶色い紙袋を持っていて、それを俺に渡してくる。
「1年生からこれを桐生に渡して欲しいって預かったんだけど」
「1年? もしかして背の高いやつ?」
津田のことかと思い、身長や特徴を話せば羽山は数回頷いた。
「そうそう、そんな子だったよ。組と名前を聞こうとしたら走って行ってしまったんだけどね」
絶対に津田だと思って袋の中味を確認してみるとコロッケパンとコーヒー牛乳が入っていた。
今日も、俺の食べたいものがどんぴしゃだ。
すると横から袋の中味を羽山が覗き込んだ。
「なんだ? パシリにしてるのか?」
「ちげーよ!!」
「違うのか。それより、現国の課題を提出してないの桐生だけだからな。今日中に出せよ」
ん? 現国の課題?
…………あ。あの課題って、金曜中に提出しなければいけないとかって言ってたような……。
その日は、次の日に津田が遊びに来るからって少し浮かれててすっかり忘れてた。しかもプリント、家だし。
「あ、そのプリントって……明日じゃ駄目? ……プリント家に忘れてきたから。ねぇー、羽山センセー」
精一杯の笑顔を作りながら頼み込むも羽山は呆れ顔でなかなか手強い。
すると後ろから「あの羽山先生、質問が……」と羽山を呼ぶ声が聞こえてきた。
チャンス! とこの隙に逃げようとしたけど、羽山にあっさり見つかってしまう……。
「桐生。先生がプリントくらい何枚でも印刷してやるから今日中に提出して帰れ」
そしてご丁寧にも課題プリントをコピーしてもらって教室に戻った。
「はぁ……」
「どうしたんだ?」
席につくなり盛大なため息の俺に、不思議そうな顔をした朝倉が俺の顔を覗き込んだ。
「つか、その紙袋。購買行って来たのか?」
「いや、職員室の前を通っただけ」
「で、なんでその紙袋? つか、その課題プリントどうした? 先週までのやつだろ」
「どっちも羽山からもらった」
そして朝倉にさっきの先生とのやりとりを説明した。
「それにしてもどうして津田っちは羽山先生に渡したんだろうな?」
津田が来ない本当の理由を朝倉には言ってないから不思議なのかもしれないけど。
「羽山が俺らのクラスの副担任だからだろ? あいつそういうのよく知ってるし」
「そっか」
これまでの津田の行動から朝倉も納得したようだった。
そしてその日は教室でパンを食べながら朝倉に手伝ってもらって課題をやりきり、放課後に課題を提出してから部活に行った。
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