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会えないワンコ 3
また昼休みに移動教室から帰ってくる途中、職員室の前を通ると副担の羽山から購買の紙袋を渡された。
「こないだの子からまた預かった」
「…………」
律儀なやつだと思いながら、渡された紙袋を見つめ黙りこむ俺に、羽山が心配そうに声をかけた。
「最近、元気ないな。どうかしたのか?」
声をかけられてハッとして、咄嗟に何でもない風に装おうと笑顔を浮かべる。
「うーん。ちょっと、……恋煩い? みたいな」
へこんでることを悟られたくなくて、わざと明るく言ったから笑われたりバカにされたりして流されるんだろうなって思っていたのに、羽山は少し心配そうに、そして優しそうな顔つきで「そうか」と頷いただけだった。
「あれ? バカにしたり笑ったりしねーの?」
「馬鹿にするとこでもないじゃないか」
まあ、それはそうだけど。
なんかそんな真面目に心配するような顔をされたら調子が狂ってしまう気がする。
けど、心配されてるってことにホッとしたとこも少なからずあって。
だから何となく口が滑ったのかもしれない。
「あのさ……好きだってやっとわかったのに、その人に嫌われたらさ……先生はどうする?」
藪から棒に、こんな質問をしてしまっていた。
すると羽山は軽く首を傾げて考えるような表情をすると、すぐに口を開いた。
「どうするって、好きなものはそれでも好きで変わらないんじゃないかな」
「でも、相手は俺が嫌いなんだぜ?」
「それは相手の話だろ? 思うのは自由はじゃないか。一方通行は辛いけど、それを変えたいなら行動するしかないし。自分次第だ」
「行動?」
「何事も1歩踏み出さなきゃ始まらないってことだよ。それで人生が開けることもある」
なんとなく羽山って根暗なイメージだったから、前向きな答えが出てきたことが少しだけ意外だった。
「なんか先生って思ってたよりポジティブだな」
「そう? ネガティブの塊だとよく言われるけど?」
「誰に? あー、わかった!! 彼女とかにだろ!?」
「彼女ではないが、そんなところ。俺が高校生だったころは、もっと世の中を卑屈に考えていたよ。これでもだいぶ前向きになったんだ」
そう言いながら羽山は俺を諭すように肩をポンポンと叩いた。
「恋煩いもいいが、課題も忘れるな。それと、今更注意しないが敬語を使えよ」と小言を言いながら職員室へと戻っていった。
思うだけなら自由。変えたいなら行動。自分次第……か。
言うのは簡単だし大した名言でもないけど、何となく羽山の話はスッと抵抗なく頭に入ってきた。
妙に納得させられてしまったみたいな。
自分の中に燻ってる想いそのものだったからだ。
これって、もしかしなくても羽山の体験談なのかな。
もっと突っ込んで聞けばよかったか?
羽山ってあんな話するタイプっぽくないし。
あの羽山に彼女みたいな存在がいたのも驚いたし。
つか、彼女じゃないけどそんなところな関係って何だ?
そんなことを考えながら階段の踊り場で袋の中身を覗くと、ベーコンレタスサンドとレモンティーが入っていた。
一緒に昼飯食ってたときから不思議だったけど、どうして津田は俺の食べたいものがわかるんだろう。
律儀な行動に、また期待してしまう。
──思うだけなら自由。
けど、届かずに腐っていく想いを持ち続けるのは辛くて痛い。
やはりどんな真実を突きつけられようとも行動するべきなのだろうか……。
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