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会えないワンコ 6
少し前の俺だったら、きっと喜んで元サヤに戻っていたかもしれない。
でも、今は……。
「戻るのは……無理だよ」
静かに呟くように言えば、勢いよく顔を上げた理香が泣きそうな顔をして声を絞り出した。
「理香のこと嫌いになった?」
「嫌いってわけじゃないけど」
「理香のこと少しでも好きなら付き合って! 本当に少しでいいから」
必死な表情をしている彼女をみていると胸が痛む。俺はこの気持ちに応えられないし、理香の考えも間違っていると思ったからだ。
「前、理香ちゃんが100好きで俺が80って言ったのが原因で別れたんだよ。その数字で表すなら、今は嫌いじゃないけど明らかに80より少ないよ。こんなのはまたいつか壊れてしまうし、繰り返しにしかならないよ」
「それでもいい、理香が好きなだけでいいから」
「そんなの理香ちゃんに失礼だ。また傷付けてしまう」
好かれることを望んでいて、その通りになっているのに理香と付き合うとか考えられなくて。
彼女には悪いけど、俺の頭には津田の顔が浮かんでいた。笑顔で駆け寄って来る津田が。
どんなに思われていても……自分が相手を好きじゃなかったら意味がない。
今の自分には津田じゃないと意味がないんだ。
「理香ちゃんごめん。付き合えないよ。それにね……俺、好きな人が出来たんだ」
声に出すと不思議で、より実感する気がした。
そして、また暫くやってきた沈黙の果てに、理香はまた絞り出すように小さく声を出した。
「……その人も雄一郎くんのこと好きなの?」
俺はまた頭の中に津田の姿を思い浮かべていた。
津田も俺のことが好きならどんなにいいかと思いながら、視線を落としながらかぶりを振る。
「いや、多分好きじゃない。無神経なことして嫌われたから」
「そっか。それでも……好きなんだね」
悲しそうにそっと伏せられた目に、少し罪悪感を感じた。
けど、だからといって俺に出来ることは何もないから静かに立ち上がる。
「理香ちゃんのこと、理香ちゃん以上に好きになってくれる人がきっといるよ。俺も祈ってるから」
すると顔を上げた彼女は、悲しげではあったけど微笑んで頷いた。
「うん。ありがと……」
もう少しここにいると言った理香とそこでわかれて俺は家路に着いた。
さっき理香に向けて言った言葉はある意味、自分自身に向けての言葉なのかもしれない。
自分の口から出てきた言葉なのに変だけど、やっと気付けた気持ちだけは腐らしちゃいけないって思ったんだ。
相手が俺のことなんて好きじゃなくたって……。
もう、ほかに好きな人が出来ていたとしても。
この思いだけは腐らしちゃいけないと、そう決心した。
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