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逢いたいワンコ 3
男が父親だと名乗れば、津田はハッとした顔をして頭を下げた。
この男の言う通り、これは父親だ。
「何しに来た?」
溢れ出そうな感情を抑えつつ鋭く冷ややかな視線でもって睨むが、父親は堪える様子もなくいつも通りヘラヘラと笑うだけだ。
「来たとか言ったらお母さんが怒るぞ? 何しに“帰って”来た? だろ?」
「もうガキじゃねーんだから、母さんだって怒ったりしねーよ」
「なんだよ。思春期ってのは難しいなぁ。あ、あんた雄一郎の友達だろ? 俺は雄一郎の父親だよ」
父親がひらひらと手を振りながら名乗ると、にこやかに笑った津田が丁寧な挨拶なんかを始めた。
前から挨拶がしたいと言っていたから当然だろう。
今は父親と2人で話しているわけじゃない。津田がいるんだ。
我慢しなきゃ……。と爆発しそうな気持ちを押さえ込むようにゆっくり呼吸した。
「はじめまして。津田桜太といいます。この間は泊まらせてもらったのに挨拶できず仕舞いでしたが、お会いできて良かったです」
「あーそう。泊まったりしたの?」
「え……あ、はい」
「そっかそっか。こいつさ、寂しがり屋だから宜しく頼むわ」
津田がいるからと、話を黙って聞いていたらそんな勝手なことを言いやがる。
寂しがり屋ってなんだよ。あたかも自分が俺のことを理解しているような言い振りにも腹が立つ。
にこやかに津田と話す姿を見ていて、お前に何がわかるんだ。勝手な事を言うなと黙っているのも限界だった。
するとここまで我慢してきたのに、耐えられなくなって大きな声を上げてしまった。
「うるさい!」
その声に津田が驚いた顔で振り返ったのを見て、しまったと思った。
でも、父はそんなの気にする様子もなく飄々と切り返してくる。
「だって本当だろ? 俺がいなくて寂しいって電話してきたじゃないか。あの頃は可愛かったのになぁ、思春期ってのは可愛くねぇな」
「うるさい! うるさい!!」
嫌悪感が止まらない。頭に血が上っていくってこういうときだ。
血管が収縮して頭が熱く感じるくらいに血液が流れ、力の限り睨みつけながら癇癪(かんしゃく)を起こした子供のように叫んでいる。
それしか出来ないから、何を言ってもわかってくれないから、俺はただ叫ぶしか出来ない。
いつも、いつも。
「そんな子供のころの話を持ちだしてんじゃねーよ!! さっさと帰れよ!!」
「本当にあの時は可愛かったんだよ。お友達くん、その時の写真見る?」
「え……っと……」
津田も状況がどうやら何かおかしいというのは気が付いているんだろう。
歯切れの悪い返事をしながら俺の様子を伺っていて、こんなところを見られて泣きたくなった。
父親との間には、確執がある。
誰にも知られたくなかった。
津田だけには特に……こんな姿見られたくなかったのに。
そしてこんな無神経なことを言ってのける父親にも、もううんざりだ。
どうしてこいつは、いつもいつも自分本意なのだろう。
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