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逢いたいワンコ 4

「うぜーんだよ」 「せっかく今日は会いにきてやったのに。また思春期特有のあれか? お前でも可愛かった頃が……」 いつもいつも持ち出す幼い頃の話はもううんざりなんだ。お前にはそれしか無いのかと、怒りしか湧いてこない。 怒りが頂点に達した俺はもうこの場に1秒たりとも居たくなかった。 「可愛かった頃だと? ふざけんな。お前はそれを置いて行ったんだろうが!! 」 静まり返った空気に耐えられず、津田の腕をひいてその場を離れた。 「……行くぞ、ダツ!」 家の方向へ行けばまた父親に会うかもしれないから、わざと家とは反対方向に向かい、目についた公園に入って津田の腕を放した。 頭が冷えていくにつれ、恥ずかしくて情けなくて何も言えなくなって、しばらくお互い何も言わず重苦しい沈黙だけがその場を覆いつくす。 でも、津田には謝らないと。 「……変なとこ見せて悪い」 「いや、あの……その……」 ボソリと呟くと津田も気まずそうにしていた。 こんなこと知られたくなかったけど、さすがに津田だってわかっただろう。 「何となくわかっただろ? ……父親とは一緒に住んでない」 「離婚……したんですか? あ、すいません余計なことを。言いたくなかったら言わなくてかまいません」 口に出したものの俺の様子を伺いながらすまなそうにしている津田は、何故か痛々しく感じた。 「いいんだ……」 不本意な知られ方ではあったけど、知られてしまったものはしょうがない。 無意識にため息が漏れ出た。そして、大きく息を吸い込み顔を上げて津田に声をかける。 俯いた津田が顔を上げたのを見て俺は近くのベンチに座り、手招きして津田も隣に座らせた。 こんな事を人に話すのは初めてだけど、少しだけ昔の話をしようと思った。 誰にも、言ったことも気付かれたこともない心の闇の部分を。 何故か、津田には聞いて欲しくなったから…───。 「両親は離婚してない」 目を伏せ、地面を見ながら話す俺の話を津田は静かに聞いていてくれた。 「出て行ったんだって、俺が3歳のときに。だから、物心ついたときには父親は外で暮らしてて、家には母さんと父方の祖父母がいた」 「そうだったんですか」 ───… 父親は出ていったと言えど、昔は月に何度か帰ってきては遊んでくれていた。 俺はその日が来るのが楽しみで、父親と遊べる日はいつも早くから起きて待っていたくらいだった。 母も祖父母も何も言わず、出掛ける俺を笑顔で見送ってくれていたから、最初は家族の形ってこういうものだと思っていたんだと思う。 でも小学校に上がった頃。うちの家が他とは少し違っているってことを、誰かに聞くわけでもなくなんとなくわかった。 そして、年を重ねるにつれ次第にその事情までわかってきてしまった。 父親が外に出た理由とか、友達だと聞かされて時々会わされた女性のこととか、たまに見せる母さんの悲しげな顔の理由とか。 母さんは父親の悪口なんかを一切言ったことはなかったけど、母さんの気持ちを考えられる年齢になってくると居た堪れなくなって、父親に対する嫌悪感だけが増殖していった。

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