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逢いたいワンコ 9

お前になら怖がらずに伝えられると思うから。 そう思っていることを手っ取り早く伝えたいと思った。早く津田に。 「好きってのはさ、こういう意味だよ」 俺はそっと津田の頭の後ろに手を回して、軽く引き寄せて唇をあわせた。 津田みたいに歯とか鼻が当たるようなことはしない。 チュッとリップ音を立てて啄むだけのキスをすると、津田のほんのり染まっていた頬は見る見るうちに茹蛸のように真っ赤になっていった。 「せ、せ、せ、先輩!! ここ外!! 」 「わかってるよ。誰もいねーからしたの」 「で、でも……」 「うるせー。嫌ならもう、一生しねーよ」 「嫌じゃないです。もっとしたいです」 「お前、正直すぎ」 でもそんなとこも可愛く思えてクスクス笑っていると、今度は津田の方が俺のことを力強く抱きしめた。 「先輩。……ありがとう」 「何言ってんだよ、俺のほうがありがとうだろ?」 ポンポンと背中を軽く叩くと津田がぐずぐず言い出して、俺のこと抱きしめながら泣いてるのか体が小刻みに震えている。 こんな風に思われているのって嬉しい。そんでもって、すごく安心した。 抱き締められる感触っていうんだろうか、それがなんかしっくりときて、まるでずっと前から自分の居場所だったみたいに感じる。 俺が求めていたのは、本来こっちだったのかもしれない。 ずっとこうして安心できる腕を探し求めていたのかも。 「お前が俺のこと好きって言ってくれて安心した。昨日、マミちゃんと帰ってただろ?」 「あ、……はい」 「すっげー焦ったんだからな。つか、マミちゃんとは何もないんだろうな?」 「ないですよ。先輩見てたんですね。も、もしかして嫉妬とかしたりして」 「……嫉妬した」 「ま、マジですか!!」 こっちは少し怒ってみたりしているのに、津田ときたらなんだか嬉しそうな声をあげている。 「で、マミちゃんとは何してたんだ? やけに仲良さげに帰ってたよなー?」 「あ、あれは違うんです」 「どう違うのか説明しろ」 そういいながら体を離し、目が合えば津田は急に何故かモジモジ恥ずかしそうにし始めた。 「なんだよ」 「いや、信じられなくて」 「何が?」 「先輩に嫉妬されて、問い詰められたりする日が来るなんて夢みたい」 「バカか……」 そんな心底嬉しそうな顔をして言われたら、強く言えねぇじゃん。 目を逸らして伏し目がちになれば、津田がマミちゃんとのいきさつを教えてくれた。 「俺には好きな人がいるからって、同じ中学の友達を紹介したんです。で、昨日はその友達と会わせることになってて俺も同席しただけなんです」 「なんだそれ」 俺がいるから他の人を紹介したってのか? 拍子抜けしたが、そんな素直な津田を見ながら目を細め笑った。 もう、尋問は終了してやろう。大してしなかったけど。 そんな風に一通り話し終わってベンチにもたれこむと、ふいに現実問題を思い出して落ち込んで来た。 「あー、忘れてたけど……。家帰ったら親父いるのかなー。帰るの気まずいな……」 さっきの言い合いを思いだすだけでぐったりして、ぼそりと呟けば津田がそわそわしながら俺の顔を覗きこんだ。 「あ、あの…先輩。お、俺んち……来ますか?」 するとベンチの上の手をとり力強くギュッと握りしめるから、ふと津田の顔を見上げる。 すると津田の顔はいつぞやに見た男の顔をしてて少しドキッとしてしまった。 今、強引な男の顔とか反則だ。 でもその反則的な表情に、俺は無意識に頷いてしまっていて……。 津田は俺の手を引きながら、家に着くまで1言も喋らなかった。

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