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オトコなワンコ 13

初めて津田の名前を口にすると更に目を見開いた津田が口を開けたまま固まっていた。 「せ、せんぱ……」 「なんだよ。もっと嬉しそうな顔しろよ」 「う、嬉しいですよ!! う、う、嬉しすぎて……や、やばい」 そう言いながら喜びが顔全体に溢れだしてくる津田を見ていると、一気に心の中の思いが沸騰する気がした。 本当にお前は俺を調子に乗らせるのが上手いな。 津田の首に腕を回して微笑んだ。 「なぁ、桜太。俺はお前のこと1000くらい好き。お前は?」 「えっ、あの……せんぱい?」 「なぁ、どんくらい好きなんだよ?」 「じゅ、10万以上」 「そっか」 予想通りの答えに満足して引き寄せたままキスすれば、津田の体温が上昇したみたいな熱い息遣いを感じる。 心地よい温度につられて俺まで熱が上がりそうだ。 俺が舌を絡めたら拙くも一生懸命絡め返してきてくれて。 好きだと思う人に好かれて愛されている実感って、こんなにも気持ちいいのかって初めてわかった気がした。 こいつは純粋で真っ直ぐなんだ。 猪突猛進っていうの? 真っ直ぐ俺見て走ってるから理性が切れると曲がれなくなる。 でも、それはそれだけ俺のことが好きだからだよな……。 なんて考えちゃう俺は、既に津田に甘くなって何でも許してしまうようになっているからだろうか。 いや、なんでもいっか。 “津田が好き” それだけでいい。 「俺さ……男が泣いたり涙目になるのとか嫌いなんだけどさ、なんか不思議だけど桜太の涙目だけは可愛いと思うよ」 「先輩……ほんと?」 「ほんと」 笑顔で答えれば、また泣きそうになりながら喜んでいる津田を見て心が和む。 全部やりたくなる。俺があげられるもの全て。 こんな風に思ったことなんて、今までにない。 俺はいつも相手の出方ばかり伺っていた。 離れていかれるのが怖くて、与えることすら出来なかった。 渡してしまった後で去られてしまったら、自分の大切な感情とか心まで奪われ失ってしまいそうな気がしていたからだ。だから、心の全てを見せたことはないと思う。 でも……。 不思議だけど、津田には全部やりたいと思う。 全部でも足りないくらいに思うなんて、どうしてしまったんだろう。

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