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俺の最強ワンコ 3
「せんぱい……」
「ん?」
抱き寄せられて強く抱きしめられた。
こういう雰囲気ってめちゃくちゃ甘いのな。
「もう俺、明日死んでもいいかもってくらい幸せです」
「バカ言うな。お前に明日死なれたら俺が困る」
「そういうことを言ってくれるのも信じられないくらい幸せ」
「お前、幸せのハードル低すぎるんだよ」
「そんなことないです。ずっと好きだったから……本当にずっと好きだったんです」
くすぐったいほどの甘い言葉を津田から聞くたびに、むず痒くてたまらなくなる。
そんな思いに応えたいし、俺のことを思ってくれていた分も俺も好きになりたいって思った。
でも俺のどこがそんなに好きなんだろう?
そういえば好きだ好きだっていうのは聞いてたけど、どうして俺なのかとかは聞いたことがなかったっけ。
すると、今まで気にしたことなんかなかったのに途端に気になりはじめてしまって、聞かずにはいられなくなった。
「なぁ、お前ってさ。どうして俺が好きなんだ? 高校入ってから屋上で初めて話したときまで接点なかっただろ?」
すると津田はにっこり微笑み、俺の前髪をそっと撫でながら小さく呟いた。
「やっぱり先輩は覚えてなかったですか……。まぁ、でも。当然ですよね」
「覚えてなかったって? 前にも会ってんの?」
「屋上で話したときは、実は3回目なんですよ」
「は? 3回目!? 1回目も2回目も俺、全然しらねぇぞ!? マジか!?」
「マジです。って言っても1回目は12年も前のことだから覚えてなくて当たり前かもしれないですけど」
12年前って……。俺、5歳じゃねーかっ!?
はぁー、余計に意味がわからなくなってきた。
頭を抱えている俺の横で、津田は思い出話をするように懐かしそうに目を細めながら、昔のことを語り始めた。
「俺ね、2年前までY町に住んでたんですよ」
「Y町だったら俺んちの近くじゃん」
「そうなんです。子供の頃のある日、友達と遊んでたんですけど。いつもより少し冒険してみたくなって隣町の境目くらいまで行ってみようってことになって出かけたんですよ」
───…
──────
12年前。
幼き日の津田と友達は、冒険心から普段は行くことのない隣町の境目までやってきた。
そこで見つけた小さな空き地で遊んでいたらしい。
そして子供だけでここまでこれた達成感に気が大きくなってしまったからか、遊びに夢中になるあまり帰りが少し遅くなってしまったそうだ。
夕暮れが近付きそろそろ帰ろうかとなったとき、後ろから何やら不気味な気配が近付いてきた。
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