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俺の最強ワンコ 5
「それで俺が幼き日の先輩に『女の子なのにつよいね』って言ったら血相変えて怒って……」
俺が微かな幼少期の記憶を思い出していると、こいつはまた何やら浸りつつ大切そうに思い出話を再開した。
なんでも女と間違われた俺は怒って胸元の名札を指差したそうだ。
『おれはおとこだ! なふだをみてみろ!! おまえはひらがなよめるか!!』
かろうじてひらがなだけ読めた津田は頷き、声に出して読めと言われたのでその名札に書いてある文字を大きな声で読みあげたらしい。
「あんなに可愛くてどう見ても女の子なのに “きりゅう ゆういちろう” なんて男らしい名前でびっくりしちゃって。もう瞬時に暗記しちゃいましたよ」
「……我ながら恥ずかしい幼少期の話だ」
「可愛いじゃないですか」
「そういうの恋は盲目って言うんだぞ」
「でも、俺にとっては憧れで初恋で甘くて凄くキラキラした思い出なんですよ」
俺にしたらそうやって話してるお前の笑顔のほうがキラキラしてるけど。
つか、幼稚園児の俺。恥ずかしい。
「学区が違ったので先輩と同じ小学校には行けなかったんですけど、俺も小学校に上がってからは先輩の家の周りをうろうろしてて……先輩の裏に山田さんっているでしょう? 実は……おばあさんとマブダチです」
なんだと!?
うちの裏に住む山田さんとこには同級生が住んでいて、小中学校とそれなりに仲が良かったりしたから俺も山田のばーちゃんとは面識があるけど。
山田のばーちゃん、もっと警戒心を持て!!
……っていってもこういうタイプって、年配者に好かれるタイプなんだよな。
警戒心を抱かせないというか。
それで、俺の情報が筒抜けになっていたんだな。
筋金入りのストーカーじゃねぇか!!
「それからずっと先輩のことを密かに見てたんですけど……」
「それが1回目なんだろ? 2回目っていつだ? 小学生くらいのときか?」
「いえ……それは、去年です」
「去年?」
「はい。夏に学校説明会ってあるじゃないですか。それに来てて、友達と一緒に部活見学して回ってたんですよ。先輩がバスケ部なのは知ってたからバスケ部の近くにいたら会えるんじゃないかって思って……友達とわざとはぐれて待ち伏せしてました」
去年だったらさすがに記憶に残ってるだろうに。
俺はやっぱり、思い出せなかった。
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