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俺の最強ワンコ 6
津田は去年の話を始めた。
友達とはぐれた後は体育館にやってきて、俺が声出ししたりパス練習やミニゲームしてるのを見ていたらしい。
ただひっそりと見学して帰るつもりだったが、休憩のときに体育館から偶然出てきた俺と鉢合わせしまった。いつも遠くからは見ていたが近くで見るのは久しぶりで、思いの外テンパってしまった津田は慌てふためいたそうだ。
そして、そんな慌てる津田を不審がった俺が話しかけたと言う。
『迷子か?』と。
そして、そこにいた部活の先輩と顧問もやってきた。
『桐生、どうしたんだ?』
『迷子みたいっす』
『あー、今日は説明会だからな。親御さんとはぐれたのかもしれないから講堂まで連れてってやれ』
そこまで聞いて、まさかと思うがあることが甦った。
「…───ちょっと待て」
俺が話に口を挟むも津田は冷静だった。
「なんでしょう?」
「お前があの迷子か?」
「そうですが」
「そうですが……じゃ、ねぇーだろ!!」
俺が思わず大きな声をあげてしまうのも訳がある。
だって……。
「だって、俺が連れて行ったのはチビッ子だったんだぞ! 俺が見たのとサイズからして全然違うだろっ!! あれはどう見ても小学生だろ!?」
「いえ、あれでも中3でした。あれから今までで40センチくらい伸びてるので」
な、な、な、なんだとー!? そんなの最早、詐欺じゃねぇか!
12年前のことは全く覚えてなかったけど、去年のことは何となく覚えている。
先生に言われたのもあって「行くぞっ」と声をかけて少年を講堂まで連れて行った。
少年とは一切喋ることなく講堂に着いたから、「じゃあ」とだけ言って体育館帰ろうとしたんだ。
すると途端に少年は何故か赤い顔をしてモジモジし始めたんだ。さっきまでは気丈にしていたけどやっぱり迷子でベソかきそうなんだと勘違いした俺は……。
『男なんだから泣くんじゃないぞ』
『はい……泣いたりしません』
そう言って少年は素直に返事をして俺を見上げてきた。
小学生だと本気で思っていたから、小さいのに偉いと思って。
『偉いな』
って、頭を撫でてから部活に戻ったんだ。
───…つか、俺はなんで幼少期のころと同じことを津田にしているんだろう。
地味に恥ずかしくなって静かにしていたら、津田が俺のことを抱きしめて耳元で囁くように言った。
「先輩が変わってなくて嬉しかったです」
「は!? 成長してないだけだろ」
「違いますよ。根本が同じ、1本芯の通った人です」
「俺を買いかぶり過ぎじゃね?」
「撫でられて嬉しかった。子供の頃も、去年も……それにさっきも。先輩に撫でられるのが本当に好きです。先輩に褒められたらなんでも出来る気がする」
そんなことを言われたら、胸の真ん中がむず痒くなってることを津田は知らないのだろうか。
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