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俺の最強ワンコ 10
「え、えっと……」
途端に歯切れが悪くなる津田を見てニヤリと笑う。
「お前さ、妄想でも『先輩』なの?たまには『雄一郎』とか言っちゃうの?」
「いや、あの……えっと……」
焦り出す津田が面白い。
枕なんか作ってた罰だ。大いに恥ずかしがればいい。
「なぁ、名前呼びながらイったりしたことあんのかよ?」
なぁどうなんだよ? と攻めてたてたら、津田は恥ずかしそうに俯いて控えめに頷いた。
「………………あの…い、1回だけ」
ムッツリで正直者なやつめ。
どんな妄想かまでは聞かないでやるけど、どんな風に名前を呼んだのか少しだけ気になった。
津田はずっと俺のことを先輩と呼ぶ。年上だし先輩なのは間違いないからそれは構わないんだけど、俺だってお前に1回くらいは名前で呼ばれてみたいじゃん。
枕じゃなくて本物なわけだし。
で、思い立ったら即行動ってわけで。
「なぁ、桜太。『雄一郎』って言ってみ?」
「えぇ⁉︎」
「確かに先輩で間違いないし、先輩で構わないんだけどさ。一回言ってみろよ」
「む、難しいですよ。……ちょっとこれで練習してから」
そう言ってまた抱き枕を引き寄せようとするから、その手を遮るようにして掴んだ。
「本物が目の前に居るのに、偽者に頼るなんて酷くね?」
「……それって、もしかしてヤキモチですか?」
誰が枕なんかに、しかも自分の全身写真がプリントされてる枕になんかに妬くか。
でも、ヤキモチを妬かれたんだと嬉しそうな津田にそうだと言ったら言ってくれるだろうか。
「妬くかもしんねーから。俺に言ってみろって」
するとその気になったようだが、ずっとモジモジして一向に名前を呼べずにいる。
名前を1回呼ぶだけがそんなに大層なことかって思ったけど、津田にとっては一大事らしい。
それでも粘って、やっとやっと俺の名前を言ったかと思っても、めちゃくちゃ小さい声だった。
「………ゆ、ゆ、ゆ……ゆ、雄一郎」
「ん?」
噛みすぎなのが面白くて顔を覗き込んだら、津田は更に真っ赤になって咄嗟に抱き枕を被り隠れたけど。
それ、隠れられてないから。頭しか隠れてなくて思いっきり尻が出てるから。
そんなことしてたら、今度は俺が掘るぞ。
血が出てもしらねーぞ。
そしたら自分で軟膏塗りやがれ。
なんて思いながら、想像すると笑えた。
図体はでかいし突拍子もないことしでかすくせに臆病で、自分は押しまくるくせに押しには弱くて、なのに可愛くて、広い胸で俺を抱きしめてくれる。
そんな年下の彼氏はどこを探してもこいつしか居ないと思う。
きっといつまでも尽くしてくれると信じられるから安心できる。
「まぁ、抱き枕でせいぜい練習しろや」
「はい! 頑張ります」
良いお返事で結構なことだ。
しかし何を頑張るんだよって思ったけど、まぁ頑張るって言うんだからいっか。
「おーた、こっち」
子供みたいにわざと手を伸ばすと津田の手も伸びてきて、この上なく良い気分で抱き締められたら暖かかったのと心地好い心音が聞こえて、自然と瞼が重くなってきた。
「なんか眠くなってきた……」
「寝ましょうか」
優しい声が耳に響いたときには既に眠りの扉を開けていて、体はだるくて重たいのに心は満ち足りている。
多分、全部津田のお陰だ。
ずっとずっと離したくないな……。
すると、スーッと意識が遠退いていった。
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───…
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