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俺の最強ワンコ 12
そんな顔で、忘れていたことを羽山にも悟られてしまったのか小さくため息をつかれてしまう。
「わ、忘れねーし」
「学生の本文は勉強だ。それを疎かにして恋愛にうつつを抜かすなよ。来年は受験なんだからな」
「石頭だなー。羽山センセはどーだったんだよ! うつつを抜かさずガリ勉だったんか!?」
さすがに踏み込みすぎたのか、この問いかけに羽山の返事はなく、その視線に呆れが混ざっているように思えて少し居心地が悪い。
でも、やっぱり羽山に付き合っている人がいるとか想像できなくて、興味ばかりが先走るのだ。
「黙ってるってことはうつつを抜かしたのか?」
「抜かさない」
「単に彼女がいなかったとかではなくて?」
するとまた小さくため息をつくと、諦めたように口を開いた。
「勉強を疎かにしないことを恋人と約束したんだ」
「そんなこと言われて石頭だと思わなかったのか?」
「当時は俺も石頭だと思ったよ。けど大人になったとき正しかったって実感したんだ。だからお前にも言ってやってるんだ。今にしか学べないことは沢山あるし、学べるうちに学んどけ」
羽山の言うことは正しいと思う、けど今の俺には実感もなくて耳が痛いだけ。俺も大人になったらわかるのだろうか。
つか、そんなことを言うくらいだから羽山の恋人って年上なのかな?
同年代の彼女とか言う言葉じゃないだろ?
もしかして羽山って熟女好きとか!?
いや、さすがにそこまで上じゃないか。
……ってか、ますます気になるじゃんか。
「なぁ、先生の恋人ってどんな人? 誰にも言わないから少し教えてよ」
すると少しうーんと考え込んだ羽山は天井を見つめながらボソッと呟く。
「うーん、知れば知るほど可愛い人……かな」
「可愛い!?」
「人間的にね」
「人間的?」
意味わかんねーから具体的にというと、羽山はなにかを思い出したのか懐かしそうに微笑んだ。
「そうだな。最初にもらったプレゼント、参考書だし。次が電子辞書だった」
「なにそれ。真面目か!? 超ウケるんだけど!」
「かわいいだろ」
どこがだよ! って思っていると、俺たちがいた場所の後ろの通路から「ヒロミ!」と呼ぶ男の声が聞こえた。
ヒロミって誰か女の人を探しているとばかり思っていたら、羽山の方が振り返った。
そーいえば、女子が羽山って祐巳っていう女みたいな名前だって言ってたのを思い出す。
その羽山を呼んだ男性は、俺を見るなりやや驚いた顔をして羽山に目配せしていた。
「えっと……こちらは……」
「俺の受け持つ生徒ですよ」
「せ、生徒!! そ、そういえばお前の高校の制服だな」
途端になぜか焦っているけど、羽山の方は落ち着いたまま話を続けていた。
「参考書を選んでやろうかと思いましてね。なんなら一緒に選びますか?」
「いや、俺は車に行っている」
そう言ってその男性はそそくさと店を出ていってしまったのだが、その後ろ姿を見ている羽山の顔は見たことないくらい優しい顔をしていた。
きっと、親しい間柄なんだろう。
兄貴とか? いやでも、似てなさすぎるな。
なんて思っていたら羽山も雑誌を持ってレジの方に体を向けて振り返る。
その羽山に「参考書なんていらねーよ」と言うと、クスリと笑った。
「寄り道もほどほどにな」
「わかってるよ!」
羽山がレジの列に並んだ頃、会計を終わらせた津田が戻ってきた。
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